第83話  フリーダム白竹一家 1

エピソード文字数 4,792文字

 ※


 次の日。水曜日。午前八時十分。

おい。早くしろっ!


 玄関先で凛に叫ぶ。

 

 ったく何で部屋に篭ってたんだよ。学校に間に合わないじゃないか。

もぉ~ダメだよぉ。走っても遅刻しちゃう
 ようやく出てきた凛が靴を履いた瞬間、その身体を抱える。
お兄ちゃん! 傘!
俺の分も持っとけ。行くぞっ!

 凛の小さな身体を抱えて階段を降りると、外は既にぽつぽつと雨が降り始めていた。

 天気予報じゃ雨は昼前くらいって言ってたのに。



 俺に抱っこされながらも凛は傘を差そうとするが、「構わん」と言って、おんぶに変更する。


 この程度の雨なら必要ない。

 それに凛の足じゃ学校まで間に合わない。それなら俺が本気走りを見せてやる。



 高校への道の途中、小学校への道に差し掛かる辺りからやたら雨足が強くなってくるが構わない。

 まずは凛を学校まで送り届けなければ。



 暫く走ると小学校が見え、登校している小学生の集団を発見する。

 ああいう集団の後ろにいれば、凛一人だけが遅刻扱いはされないだろう。

ここまででいいよ。行ってくる
分かった。元気で行ってこいよ
お兄ちゃんありがとお

 俺は手を上げて凛を見送る。そして背を向けて傘を差すと、一目散に走り出した。


 何とか間に合った。

 そう思うと俺も急がなくてはならんのだが、本気走りを見せた後なので小休憩だ。



 こういった凛のヘルプは特に助けてやらねば。


 俺や凛はあんまり学校でも目立ちたく無いからな。

 そりゃ誰だって遅刻で遅れるなんて嫌に決まっている。

 

 だけど凛の場合はメンタルも非常に弱いので、その日一日中ヘコんじまうから、後々面倒くさくなる可能性がある。


 外では喋れないし、外の人間には誰に対しても警戒しすぎるからな。

 周りの目が気になって仕方が無いのだろう。


 その辺は俺もそう思っている人間の一人なので……あいつの気持ちが良く分かる。




 さぁ、俺だって遅刻する訳にはいかない。


 だが走ろうと思ったタイミングで雨が更に激しくなる。

 ってか天気予報の見事なハズレっぷりに溜息しか出ないぞ。

 

 そして高校への道まで差しかかろうとする時、ビルの下につっ立っている奴が目に入った。



 俺に気が付くなり、そいつは勝手に俺の傘へと侵入してきやがった。

おぉ~助かったぜ黒澤。今日の救世主はお前に決定

 西部である。

 いつものオールバック風な頭が乱れちまってるぞ。

ってかお前。傘持ってきてなかったのかよ
何だよこの豪雨は! ふざけんな

 おいおい。傘に入れて貰っておきながら逆ギレしはじめたぞ。


 こいつが傘を持ってきていない理由は、朝出掛ける前は雨が降っていなかったから、という自業自得な理由だった。

くそっ。予報じゃ昼からだって聞いてたのによぉ!

早すぎだっつーの!

 いやいや。それなら昼から降るのを分かっていながら……何で持ってこねーんだよ。


 やっぱお前。馬鹿だろ。 

お、そういえば黒澤。

風の噂によると……お前のねーちゃんむちゃくちゃ美人らしいな?

 あれ? いつの間にそんな話になってんだよ。


 ってか、風の噂って言うよりも、お前は俺達の傍で聞き耳立ててただろ? 情報収集場所もバレてんぞ。

まぁ美人な方なんだろうな
 がっかりなジト目を送りつつ、自分自身を美人と言った自分にもがっかりしていると、西部は俺の生気を吸い取ったかの如く元気になりやがった。
よし! そうと決まれば俺に紹介してくんね? なぁ黒澤くん!

 何だよその羨望の眼差しは。急に「くん付け」とかマジでキモいぞ。

 ってか、何が決まったのかサッパリなんだが。


 それに傘の中でオールバックをかき揚げんなよ。

 お前に付着した雫を飛ばしてくんなってもう!

西部。悪いことは言わん。ねーちゃんはムリゲーだぞ

んなもんやってみねーと分からんだろうが!

何だお前。やる前からムリゲーとか言うなよ!


ラブゲームはまだ始まってねーっつーの! 

 ところがどっこい。分かっちまうんだよ。

 だってその本人が目の前にいるんだからよ。


 だからムリゲー。やる前からムリゲーなんだって。

 西部とのラブゲームなぞ、何かの罰ゲームだろ。

聞くところによると? あの白竹さんと互角のルックスに、おっぱいもでけーんだろ?

ポニテが似合う美人だと聞いたぞ?

 こんな所にもおっぱいとか平気で言ってくる奴がいたのを……忘れてた。

 

更に更に更に! 

情報によると……白竹さん家の喫茶店に勤めてるんだろ?


ふはは。俺の情報網を甘く見んなよ。

 おいおい、この情報も昨日遠方組と喋った内容だろ?

 ああもう、こいつと話すのがすげー面倒臭くなってきた。



 思わず傘をやるからお前一人で行けよ。

 そう言いそうになったが、その時急に俺をよぶ声がした。

あら、そんな奴と仲良く登校?
 聖奈登場である。お前と通学中に会うという事は、時間ギリギリセーフだな。
おっ。ボス神さん。おはようっす!
 俺よりも早く反応した西部は、ごくごく自然に聖奈の傘に入り込むという、迅速かつ大胆な行動に出た。のはいいのだが。
勝手に入って来ないでよ!

 聖奈に膝蹴りを食らい、蹲る西部だった。

 ありゃ金的に入ったな。

ぐわっ! ぬっぬぉおおおお! ふぅおおお~~~!

 悶える西部。しかもこいつの頭上からは容赦なく雨が降り注いでいた。


 股間を抑えてるので。金玉にヒットしたっぽいな。

蓮。そんな奴放っておきなさい。遅刻するわよ

 そのまま学校の校門を潜る聖奈。

 俺は悶える西部を傘に入れて復活を待っていると、その様子をみかねた聖奈が、

こっちに入ってきなさいよ
え? いいの?

 と、答えたのは西部だった。いや、お前今拒否られただろ? 

 きっとギャグで言ったんだと思ったが、わりとマジ顔だし。

傘。そいつに貸してやればいいじゃない
 あ、そういうことか
後で返してくれよ

 そう言い残し、蹲る西部に傘を託して、俺も学校の校門をくぐる。


 その時校門で待機している教諭に「何寝転んでるんだ!」と叫ばれるのを聞いてて……今日の西部は色々とツイてないと思った。



 聖奈の傘に入れて貰って校舎へ向かおうとすると、今度は女の子の声で黒澤と聞こえた。

 振り返ると、真っ赤な傘を差しているのは坂田さんだな。


 

おっはよ~黒澤。美神さん。

お二人さんは朝からとっても熱いですわねっ

あ、いあ。これはその……西部に傘を貸して、そんで聖奈にちょと入れてもらっただけで

んまっ。そこは「付き合ってるんで」って言わなきゃ。

あ、ち、ちが……

あ、先輩発見! じゃあね。ごゆっくり~~~! 


黒澤。ファイトだみょ

 そういい残し、坂田さんはスタタタっと先に行ってしまった。

聖奈。すまん。こっから走るわ。

別にいいわよ。もうすぐそこじゃない

男女が一つの傘に入るって……流石に目立ちすぎだろ。

お前は恥ずかしくないのか?

別に。あんたとなら恥ずかしくないわよ

 ああ、校舎前まで来ると他の生徒にすっげー見られてるし。めっちゃ恥ずかしいんだけど。


 ていうか聖奈はこういう人の目には強いよな。

 全く気にしてないみたいだし、堂々としてやがる。


 う~ん。俺もビビってないで聖奈を見習わねばならんのかもしれない。

 ※


 一時限目はウチの担任の授業だった。やる気の無いのはいつもの事なので、クラスでもこの時間は特にフリーダムな授業となっていた。


 ちなみに英語教諭な生田滋樹先生。その声はおっさん顔に似合わず声が高いのだが、彼が英語で喋り出すと、何故かとても眠たくなると言う催眠術のスキルを持っている。


 聖奈曰く「あいつの声は凄く睡眠欲をそそられる」らしい。

 そんな聖奈は速攻机に突っ伏すと、今日は俺の前に座る染谷くんも同じような態勢となった。


 別にこの二人が特別じゃなくて、クラスの中でも寝てる奴が多数見える。

 今日は一時限目だし、しょーがないだろう。


 しかも教諭は怒らないし、のほほんと教科書を読んでいく始末。

 なので英語の成績は自主勉強は必須になる。



 とはいえ。クラスでも私語が飛び交う中、真面目に勉強する奴など皆無だ。俺ですら堂々とスマホを弄っており、斜め前の席に座る白竹さんとラインでやり取りしているのだった。


 話題はというと、この人の場合はほぼ同人関係だ。

 俺のワンダーワールドを知る唯一の人だからな。


んで。こーいうのを書いてみたんです
 その後に何枚も届くラフ画なのはいいけど……

 こりゃすげぇ……すげぇというか、エロ過ぎるでしょ。

よし。トイレ行って来ようかな
んまっ! すこここここ……しに行くのですか

 何の絵かと言うと、これは俺の小説に出てくるワンシーンで、主人公とヒーローのラブシーンの一つだ。

 生々しいタッチで描かれており、以前と同じで小説を完全に再現している。


 白竹さん曰く、このシーンが一番お気に入りで、かつエロいらしいのだ。 

 あ、ちなみに白竹さんとラインすると、最近はこんなエロいトークも普通となっていた。


 本音を語り合いましょうと意気投合した俺達は、下ネタだろうが容赦なく相手にぶつける事により、以前よりもラインのやり取りはかなり多くなっていた。


 うん。この人はエロい。エロ過ぎる。

 学校でも屈指の美少女にも関わらず、頭の中はものすごくエロい人なのだ。

黒澤くんのエロシーンはエロ過ぎです。

この「寝てる主人公を後ろからぶっさしエッチ」は私も一押しですよぉ

 まぁシリアスな小説にエロシーンを投入したのは、ただ単に閲覧数が欲しいという、邪な気持ちがあったのは事実だし否定はしない。


 それにエロシーンはちゃんと伏線になってて、後で「なるほど」と言うように分かるようになってるんですけどね。

おにゃのこから見てもエロいでし、私もこの絵でぷしゃーできます
え っと……なんて言えばいいのか、最初は戸惑っていたが、今では別に何とも思わない。
俺なんて二分も持ちませんね

 こっちもこの調子だ。あまり深く考えずに返す方が良い。

 変な事を考えると、マジでトイレに直行することになりかねん。

おトイレ。行きたくなりましゅ

 し、白竹さん? おっと! あんまり考えるな!

 冗談にきまってるだろ? 会話に合わせないと。

俺ももう臨戦隊形になりました。いつでも迎撃できます
 すると、前を向いていた白竹さんがちらっと俺の方を見ると、机の下に視線をやるではないか。


 ちょ! マジだと思いました?

 さすがにそんなの見せたら捕まりますよ。

嘘つき黒澤くんには、お仕置きでし

 すると白竹さんが送ってきた画像には、小説とは関係が無さそうな主人公のエロシーンが……


 うおっ。こんな破廉恥な主人公にされてしまうなんて、ちょっとショックだが、ショックとは裏腹にやたらと煩悩が揺さぶられる事態に陥っていた。

これがぷしゃーですよ

 白竹さん。ぷしゃー大好きっすね。


 みゅーみゅーさんのエロ同人誌にも必ずといっていい程出てくるぷしゃーシーン。きっとお気に入りなのだろう。

ねぇねぇ。さっきのコミカライズさん。SNSとかツイッタに公開してもよろしくて?
はいっ! もちろんですよ。みゅーみゅーさん作ならきっとふぁぼられまくりです

 多分、内容とかじゃなくて、その綺麗な絵で売れると思いますよ。

 俺もあなたが書いたエロ無しの同人誌はほとんど持ってますからね。

ありがとう黒澤くん。こういうお話できる人が出来て本当に嬉しいのです
こちらこそ。いつもありがとうです。俺のワンダーワールドを暴露してよかった

 最後はいつも。親しき中にも礼儀あり。


 ワンダーワールドから帰還すると、現実世界の二人に戻るのであった。 
 再びこちらに振り向く白竹さん。ニコ顔が通り過ぎてくしゃ笑顔になってます。


 だけど……その笑顔にはこちらも自然とクシャクシャ笑顔になる付加効果が備わっていた。


 あぁ。こんな可愛い子とこんなアダルトな話が出来るなんて、俺は本当に果報者だと思うんですよ。

――――――――――――――


平和なお話から少しづつシリアスに。




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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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