第17話 監獄から妖術で脱獄する!
文字数 1,326文字
「先輩、そろそろ起きて下さい」
「ん…、今、何時?」
「大体、8時50分です」
「いやなんか…、凄いスッキリした目覚め」
「でしょう? 得意、得意。…頭突きはやめて下さいよ、あれ結構痛いんで。私の催眠術、深い眠りまで到達させますから。快眠保証付きです」
「いやなんか、ありえないくらいに爽やかなんだけど。凄げえなこれ」
「ありがとうございます。それより、早ければあと数分で、巡回見回りに誰か降りて来るはずです。先輩は、じっとしていて下さいね」
(そう言えば、こいつの顔についていた紫の酷い痣、綺麗さっぱり消えてる!)
と俺が思ったその瞬間。コツコツ、コツコツと、階段を下りてくる靴音が聞こえた。
姿を現したのは、毎度おなじみ黒づくめの大柄な奴。だがちょっと太っていて、少し気さくそうな顔をしていた。
…違う、大津に昨日尋問して催眠術に掛かったようだ。大津を好いている、彼は大津の顔を見たのが、とても嬉しい、というような表情を見せ、ニッコリ柔和に微笑んだ。
俺からは、大津の後ろ姿しか見えないが、大津も微笑んでいるようだった。
と、大津は後ろで縛られた事になっていた両腕を、さりげなくスッと前に出した。
男はオヤ? というように、唇をすぼめて前に出す。
大津は(念力じゃー!)みたいに両手に力を入れる。そしてそれをゆっくりと、クイッ、クイッと、左回転させた。
男は、その回転する動きに合わせて、おちょぼ口が力の中心で引っ張られるように、ビックリ眼 とともに身体を畳んで、クニャッと倒れた。倒れる時に、床に頭をゴツンと強打して、気絶した。
「ハー、緊張しました。あまり知られてないですが、警視庁では剣道・柔道以上に、合気道を重視してるんです。合気道には、妖術めいた奥義 があるんですよね。中国の気功術に、通じるものです。なんとか上手くやれました」
「マジで凄すぎた。だけど俺の手錠のカギも、この鉄格子のカギも、あいつの腰の鍵束 にあるっぽいじゃん。どうすんのこれ?」
俺も頭が冴えていて、そんな事を口にする。
その時に、真に信じられない事が起きた。
鍵束が浮いて、大津の手元にやって来たのだ。
ゴムひもの片方の端が大津の手の中にあり、もう片方の端にある鍵束が、ビシュツ! と弾力で、飛んできたみたいだった。
(これは結局、夢なのかも知れない。見なかった事にしよう)。なんて言うか、頭がおかしくなっちゃわないようにという自己防衛本能みたいなものが、俺の脳の中で働いた気がする。
「見ーたーわーねー」と大津。
「見てません。俺は何も見てません」
そこで大津は、カギを握った右手を見せた。
「種明かしです。これはゴムとゲルの中間くらいの特殊な素材です。チャンスは1度というのは、これの投じる機会は1回だけという意味だったんです」
大津の手には全く透明でネトネト、キラキラした液体のようなものが、鍵束とともに見られたのだった。身体のどこにこんな素材を、隠し持っていたのか。
鉄格子に、そのネバネバした液体をこすり付けて取ったあと、大津は俺の手錠を外し、鉄格子の出入り口を、開けてくれた。
素早く大男の手と足に手錠をし、鉄格子の向こう側にあったので目隠しと拘束マスクもして、俺たちは安全を確保した。
「ん…、今、何時?」
「大体、8時50分です」
「いやなんか…、凄いスッキリした目覚め」
「でしょう? 得意、得意。…頭突きはやめて下さいよ、あれ結構痛いんで。私の催眠術、深い眠りまで到達させますから。快眠保証付きです」
「いやなんか、ありえないくらいに爽やかなんだけど。凄げえなこれ」
「ありがとうございます。それより、早ければあと数分で、巡回見回りに誰か降りて来るはずです。先輩は、じっとしていて下さいね」
(そう言えば、こいつの顔についていた紫の酷い痣、綺麗さっぱり消えてる!)
と俺が思ったその瞬間。コツコツ、コツコツと、階段を下りてくる靴音が聞こえた。
姿を現したのは、毎度おなじみ黒づくめの大柄な奴。だがちょっと太っていて、少し気さくそうな顔をしていた。
…違う、大津に昨日尋問して催眠術に掛かったようだ。大津を好いている、彼は大津の顔を見たのが、とても嬉しい、というような表情を見せ、ニッコリ柔和に微笑んだ。
俺からは、大津の後ろ姿しか見えないが、大津も微笑んでいるようだった。
と、大津は後ろで縛られた事になっていた両腕を、さりげなくスッと前に出した。
男はオヤ? というように、唇をすぼめて前に出す。
大津は(念力じゃー!)みたいに両手に力を入れる。そしてそれをゆっくりと、クイッ、クイッと、左回転させた。
男は、その回転する動きに合わせて、おちょぼ口が力の中心で引っ張られるように、ビックリ
「ハー、緊張しました。あまり知られてないですが、警視庁では剣道・柔道以上に、合気道を重視してるんです。合気道には、妖術めいた
「マジで凄すぎた。だけど俺の手錠のカギも、この鉄格子のカギも、あいつの腰の
俺も頭が冴えていて、そんな事を口にする。
その時に、真に信じられない事が起きた。
鍵束が浮いて、大津の手元にやって来たのだ。
ゴムひもの片方の端が大津の手の中にあり、もう片方の端にある鍵束が、ビシュツ! と弾力で、飛んできたみたいだった。
(これは結局、夢なのかも知れない。見なかった事にしよう)。なんて言うか、頭がおかしくなっちゃわないようにという自己防衛本能みたいなものが、俺の脳の中で働いた気がする。
「見ーたーわーねー」と大津。
「見てません。俺は何も見てません」
そこで大津は、カギを握った右手を見せた。
「種明かしです。これはゴムとゲルの中間くらいの特殊な素材です。チャンスは1度というのは、これの投じる機会は1回だけという意味だったんです」
大津の手には全く透明でネトネト、キラキラした液体のようなものが、鍵束とともに見られたのだった。身体のどこにこんな素材を、隠し持っていたのか。
鉄格子に、そのネバネバした液体をこすり付けて取ったあと、大津は俺の手錠を外し、鉄格子の出入り口を、開けてくれた。
素早く大男の手と足に手錠をし、鉄格子の向こう側にあったので目隠しと拘束マスクもして、俺たちは安全を確保した。