第4話 呪われた宿舎

文字数 1,419文字


 甲子園出場校の現地での宿舎は高野連によって決められ割り振られる。
 凪浜高校野球部の宿舎が『松倉(まつくら)旅館』に決まったとき、関係者一同は微妙な空気に
つつまれた。それというのも——
 この松倉旅館は、別名まっくら旅館とも呼ばれ、ここに宿をとったチームはことごと
く初戦で敗退しているからだ。
「そんなのただの迷信だ、気にすんな」
 と山際監督はチームを鼓舞するが、宿入りした瞬間、だれもがこの『迷信』が正しい
のではないかとの感想をもった。
 全体的に館内の空気が重く薄暗い。経営がうまくいってないようで、経費節減のため、
使われていない部屋の廊下の照明を落としているのだ。まさにまっくら旅館だ。

 翌日、凪浜は組み合わせ抽選会に参加したが、初戦の相手に有力チームの長崎代表・
南星高校を引き当ててしまった。
 南星は地区予選をすべてゼロゲームの完封勝利で勝ちあがってきたチームだ。エース
ピッチャーは晴海久遠。兄はドライチで福岡ホープスにスカウトされた晴海玲音。
 この晴海兄弟での地元での伝説は凄まじく、バッテリーを組んでいたリトル時代は向
かうところ敵なしだったといわれている。

「よりにもよって優勝候補の一角と初戦で当たるとは……」
 宿に帰ってチームのだれもが似たような感想を漏らした。さすが、まっくら旅館だ。
「なあ、おれ、噂に聞いたんだが……」
 と語り出したのは、凪浜高3カルテットのひとり、花添蓮二(はなぞえ・れんじ)だ。
「この旅館、アレがでるってよ」
「アレって?」
 身を乗り出してきたのは同じくカルテットの鳥沢省吾(とりさわ・しょうご)
「これか?」
 両腕を前に突きだして手を垂らしたのは月岡秀俊。隣で寝転んでいる風巻頼我は興味
なしとばかりに鼻をほじっている。この四人を称して凪浜の花鳥風月高3カルテットと
呼ばれている。
「甲子園に出たものの、一勝もあげられず空しく敗退した高校球児の怨念が霊となって
ここの奥座敷にでるんだそうだ」
 花添がまさしく真夏の怪談口調で語る。時刻は午前1時。監督は個人部屋で寝ている
ころだ。
「マジか?!」
「ヤベェな」
「オレらもう、取り憑かれていたりして……」
 カルテットだけじゃなく、チームメンバーのだれもが床から起き出し、話の輪に加わ
ってきて身を震わせている。そこへ——
「はん。バカバカしい」
 そういって身を起こしたのは風巻だ。
「そんなのがいるんだったら面白い。奥座敷とやらにいってみようぜ」


 なるほど、奥座敷とやらにいたる廊下はひときわ薄暗いし、冷房が効いてるわけでも
ないのにどこかひんやりしている。いまは盛夏の8月だというのに……。
 懐中電灯を持った風巻を先頭に、こわごわ後ろについてくるのは花添、月岡、鳥沢の
三人だ。
 みし……。
 ぎしし……。
 がぎぎ…ぎ……ぎぃ……。
 老朽化が激しいのか、歩くたびに廊下の床板から不気味な音がする。
 奥座敷の前にたどり着いた。
 閉じた襖から薄く灯りが漏れている。
「おい、だれかいるぞ」
 鳥沢が低い声でいった。
「確か奥座敷は取り壊す予定で客を入れてないと聞いたぞ」
 月岡が補足説明をする。
 これ以上は前に進むのはごめんとばかりに尻込む仲間を置き去りにして風巻は奥座敷の
襖に手をかけ、一気に引き開けた。
「おい、バカッ!」
 悲鳴にも似た声で制止するも時すでに遅し。風巻は座敷のなかに足を踏み入れた。
 ぎゃあーーッ!!
 魂切るような声が響いた。
 風巻の声ではない。
 響いてきたそれは、まさしく怨霊のような声であった。



       第5話につづく







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