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エピソード文字数 768文字

 私は身分も年齢も偽り、まだ少年の信長と……。

 この私が帰蝶に成り切り、信長と夫婦を演じることが出来るのだろうか。

 不安はあったが、『美濃という女は、今ここで死んだと思え』と、光秀に言われたことを心に刻み、運命に従った。



 ――それから1年。
私は声を失ったまま、帰蝶として過ごす。

 私が帰蝶に面会することは許されなかったが、1年経っても帰蝶の容態はすぐれず床に伏せていると、小見の方から聞いた。

 明智光秀は歴史書とはイメージが異なり、勤勉でとても誠実な男性だった。

 信長のように激しい気性ではなく、その穏やかな人柄に、私の頑なな心が次第にほだされていく。

 帰蝶として織田信長に嫁ぐより、この城で光秀とともに過ごしていたいとさえ思った。

 ――1549年(天文18年)

「帰蝶、織田信長との婚儀の日取りが整った。輿入れの用意を致すゆえ、その心積もりでいるように」

 婚儀の日取りが……
 決まった……。

 斎藤道三の言葉に、私の気持ちは大きく揺らいだ。同席していた光秀が私を見つめた。光秀と視線が重なり、鼓動がトクンと跳ねた。

 「何かあらば、この短刀で織田信長と刺し違えよ」

 斎藤道三に渡された短刀。
 斎藤家の家紋が入っている。

 ――もう……

 光秀には逢えない。

 そう思うと、一抹の不安に襲われた。

「この1年、そなたを見てきましたが、立ち振る舞いは帰蝶そのものじゃ。わらわとて、帰蝶と見間違うほど。織田信長も帰蝶の身代わりとは気付かぬでしょう。大儀であったな」

(小見の方様……)

 小見の方の優しい眼差しに、胸に熱いものがこみ上げる。

 1年間、小見の方が母であると心に刻み暮らしてきた。過酷な戦国の世で、斎藤道三も小見の方も、私にはかけがえのない家族だった。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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