第2話

文字数 1,663文字

「女優という職業に興味がなくなったのはいつごろからですか?」
クリスティーンは、カプチーノを置いてからそう問いかけた。
「そうね・・・本当にここ最近の話よ・・・そうね、この前のドラマがクランクアップしてからかしら・・・」
エマは子役として8歳の時からテレビに出ている。
ただし、最初はバーターばかりでメインの役を任されるようになったのはここ一年の話である。
10年程度の長き下積みを経験して今に至る。
ようやく世間に知られるような立場になった彼女は、夢に描いていた姿を実現したことで、もう悩みはなくなると思っていたはずなのに、むしろ今まで以上の悩みを抱えるようになったという。
それを聞いて、若いクリスティーンもシャーロットもいまいち実体験がなく、状況が理解できない。
『夢を掴んでそれでハッピーじゃないか』と二人は思いながらエマの話を聞いている。
一方で、アンナはその状況を理解しようともしていないので、まるでテレビの視聴者のような立場で能天気に二人の話を聞いている。
「結局、私はどうしたら良いか分からないの!」
エマが言った一言は、決定的にクリスティーンの『分からない』という心のボタンを押すダメ押しとなった。
「うーん・・・そうですね・・・」
クリスティーンは次の一言に何を発すべきかもわからなかった。
シャーロットは、自分に何かできることはないと悟り、困っている様子のクリスティーンをただただ見つめた。
その時、アンナが口を開いた。
「クリスティーンは、まだアンナがどんな人かよくわからないと思うから、とりあえず仕事に1日でも2日でも密着してみたら?」
冷や汗をかいていたクリスティーンは、いつも能天気なアンナの意外な鋭い一言に驚きつつも、一時的には救われたことに気づき、すぐに2、3回うなづいた。
「そうね、それが良いかもしれません。まだ私もその問題にどうアプローチしても良いか分からないので」
憧れのエマの仕事に密着できると知り、シャーロットは喜んで小さく拍手をした。

翌朝、早朝。
二人はエマの知り合いという形でマネージャーの人と同行しながらエマに一日密着を始める。
春休みのため、休暇に退屈していたクリスティーンとシャーロットにとっては好都合ではあったが、流石に朝5時に撮影スタジオに入るため、朝3時起きという過酷スケジュールだ。
二人とも流石に眠いようで、目を擦りながらなんと立っている。
おかげで、おそらく通常のシャーロットであれば、他の俳優や女優に歓喜しているところ、それがないので、かえって手慣れた感じが出ており、現場としては迷惑な存在にならずに済んでいる。
一方、エマも眠そうにはしているが、元気よくスタッフやスタイリスト、共演者に挨拶している。
「これが有名人の生活か・・・」
クリスティーンは早くもうんざりし始めている。
クリスティーンは自分の母親が昨夜、たいそうエマへの密着について羨ましそうにしているのを見たため、『本当に自分が来るべきだったのだろうか・・・』と自問した。
エマは準備に入るため、メイクルームに入るようだ。
エマの手招く様子を見て、クリスティーンとシャーロットはエマの後を追い、メイクルームに入った。
メイクルームに入り、鏡の前にエマが座ると、少し距離をとって横の椅子にクリスティーンとシャーロットは座った。
「今日はよろしくね!長くなるわよ!」
すでにエマは目をぱっちり開けて眠気など感じさせる様子もない。
「こんなに朝早いとは思いませんでした・・・」
シャーロットは率直にそう言った。
それを聞いたエマは、吹き出し、笑い声をあげた。
「私も今は眠いわ。ただ、緊張もあるから眠気が去っていくの。若い時はもっと緊張していたから眠気なんて感じないというか前日から眠れなかったわ」
エマは上機嫌である。
「若い時と比べて、今はまだ緊張はしなくなったんですか?」
シャーロットが問う。
「そうね、だいぶ慣れたわ」
「その緊張というのは、恐れですか?それとも期待からですか?」
クリスティーンも問う。
「うーん・・・どっちもかな!」
エマはそう言って、ウィンクしてみせた。

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