第3話 青い石

文字数 599文字

 蔵の奥に亡霊のように転がっていた掌大の塊は、埃を払い拭き上げてみると群青色をした球体だった。光に翳すと薄らと向こうが見え、漸く透き通っているのだと分かる。午後の光を通した青色は夜よりも色濃く静かで、海と天を凝縮すればこんな色になるのかと思わせた。だが、私の前に蔵を掃除したという祖父に尋ねても、祖父は首を捻るばかりだった。風通しの際に高窓から入りこんだのではと言うが、石にしろ硝子にしろあの高さから投げ込まれれば割れない筈が無い。
 結局その球体が何物であるかは判らず、夜になって自室の窓辺に置いたところ、やがて球体がちりちりと音を立てて融け始めた。満月か、と気づき天幕を下ろすと音を止めそのままの形状で留まったが、球体に戻す手段が無い。仕方なく手近にあった球状の水槽に入れて再び月光に当てると、薄い硝子同士が触れ合う高音を響かせながら液体として水槽の中に収まった。
 しかし、翌朝見るとそれは水槽をも呑み込んで「水槽の形をした群青色の物体」となっていた。蔵に戻そうとしたが、あまりに重く持ち上げることができない。
 そういえば、古来よりこの色は石を精製して造られており、高価すぎるゆえに人の命と引き換えられたり、ごく限られた絵画にしか使うことを許されなかったのだとか。

 青は次の満月には私ごと部屋を固め、そのうちに巨大な一枚の絵画として地表を覆うのだろう。
 神へ捧げられる青の造形として。
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