第74話  蓮と華凛は従兄妹 2

エピソード文字数 3,343文字

あれ? その子は……?
 染谷くんが質問してくると、華凛はすぐに俺の背中へ逃げるのだった。


 こいつの人見知りは凄まじいからな。足が痛いんじゃなかったのかよ。

お兄ちゃんの友達?
 蚊の鳴くような声を出す華凛。完全に染谷くんを怖がってる

そうそう。高校でのお友達だから大丈夫だよ

ほら。くっつくなって

 そんな警戒するなよ。大丈夫だって。

 染谷くんはちょっと変わってるけど、俺一押しのいいヤツだ。

あっ、ごめん。この子。俺の従兄妹で華凛っていいます
 違和感は無い。俺達はただの従兄妹。
そうなんだ。よろしくねっ華凛ちゃん

て、ことは。黒澤くんは、楓蓮さんの親戚でもあるのか!


マジか。まさかこんな近くに楓蓮さんを知る者がいたなんて

じゃあ俺はこれで……華凛。帰るぞ
うん……

 ちゃんと歩いている華凛だった。


 さすがに兄の友達の前で、おんぶは出来ないだろ~?

 そう思うと妙に華凛が可愛いと思うのであった。



 そしてその場から立ち去ろうとすると、染谷君はこちらに手を伸ばすのであった。

待って黒澤君! あのさ! この映画って見た?
いや、見てないけど……
良かったら。一緒に見ない? そっちの妹さんも
えっ? でも俺。お金持ってないんだ
いいからいいから。僕が奢るし! 気にしないでよ。だから見よう!

 すっげー猛プッシュだ。

 染谷君のドアップ顔を見るとさすがに目を逸らしてしまう。

ね? 妹さんもさ、お兄さんと一緒に見ない?

実はさ、僕一人で映画館行くの。ちょっと恥ずかしいんだ

 ああっ。華凛の口元が緩んで、俺の服を引っ張る手が震えてやがる。


 こいつ。すっげー行きたそうだ。

 うるうると目で訴える華凛。そんな目で俺を見るなよ。

でも……奢ってもらうのは……
……お兄ちゃん。ジプリ見たい
 俺が難色を示したその瞬間、とうとう本音が出やがった。
染谷君……本当にいいの?
全然OKだよ! 行こう。是非行こう!

 そう言って染谷君は映画館に入ってゆく。君はそんなにジプリが好きなの?

 そして華凛は俺の服を引っ張ったまま「やった」と喜んでいた。

 あぁもうしょうがねぇ。これはもう行くしかないだろ。


 でもな……華凛

 お前に言っておかない事があるぞ。

いいか? 今のお前は華凛。俺とは親戚なんだ
うん。大丈夫。お兄ちゃん

 珍しく真面目な顔で受け答えする華凛に、笑顔でうんうんと頷く。


 まぁ大丈夫だろう。


 俺がいるから、お前がボロを出しそうになってもフォローできる自信はあるし、華凛だってこのような状況にもどんどん慣れささねば。

咄嗟に引き止めるのには成功したが……


よくよく考えれば……

あの妹ちゃんを知っているのは龍子だ。

龍一じゃ見るのは初めてだから……妹ちゃんと当然接点がない。


これじゃ楓蓮さんの事を聞けねーぞ!

くそっ。目の前に妹ちゃんがいるのに、このままじゃ何も出来ないだと?


どうすりゃいいんだ……



 ※





ねぇねぇ。飲み物とかポップコーンもいる? 奢るよ
い、いや、マジで大丈夫だから
いいっていいって。僕バイトしてるからさ。気にしなくっていいって
そうなの? いや……でも
…………

 俺の後ろで隠れてる華凛がシャツを引っ張る。

 お前なぁ。分かるけどさ……そこまで染谷君に借りを作っちまうと、俺が非常に困るんだよ。

じゃあ妹さん。好きなの選んでよ
ちょ! いいって!

黒澤君には聞いてないよ。頑固者なのは知ってるし。

だから妹さんに聞いてるんだ。それならいいだろう?

 痛い所を突かれた。こればかりは俺も強く言えない。
お兄ちゃん。いいの?
 俺が答える前に、染谷くんが「全然OKだよ」と言われてしまう。
 しかも大きいサイズのポップコーンを頼むと、元気よく返事する染谷くんにこんな事を言うのだ。
お兄ちゃんの分の飲み物も。お願いしていいですか?

もちろんだよ!

黒澤君も観念しなよ。こんなに可愛い妹ちゃんがいうんだ。言う事聞こうぜ

 結局コーラまで奢ってもらい、マジで申し訳ない。

 一応、来週にはお金を返すと言うが「分かったから」と軽くあしらわれてしまう。


 本人はそんな事どうでも良さそうで、コーラを持ちながらさっさと映画館の指定席へと進んでいった。


くそっ。このままじゃ何も接点が無いだけに……楓蓮さんのことを聞き出せない。


強引に「楓蓮さんの妹ちゃんでしょ?」という手もあるが……

なぜ龍一が知っているのか? そこを突っ込まれるのはマズいだろ。


龍子になる訳にもいかねーし……



 映画が上映される瞬間って、かなり好きである。

 今から映画の世界へ旅立つ瞬間、現実世界からダイブする気がして、ワクワクが止まらない。



 それは華凛や染谷君も同じなようで。視線は大型スクリーンへと固定される。



 しかし。染谷君がジプリとはね。意外である。

 ケンカが強くて、クラスでも人気者。そして喫茶店ではオムライサーだったり、かなり多彩なキャラを持っているよな。



 でも、とても良い奴なのは間違いない。

 映画館や飲食代でもかなりの出費だと思うが、全然気にしていない様子だし、学校のパン代とかも返してないし、マジで頭が下がる思いである。





 上映が始まり、ここにいる全ての人間が映画の世界へトリップする。目はずっとスクリーンに固定されたまま、手は勝手に華凛の持つポップコーンへと吸い込まれる。



 やっぱりポリポリ食べながら見るのって最高だな。

 映画見ながらポップコーンを食べるのを誰が最初に考案したのだろうか。などと考えながら時間は過ぎてゆく。




 途中。染谷君が立ち上がりトイレに行くが、俺達は気にせずに映画に釘付けになっていた。



 しかし。染谷君が戻ってきたのは三十分ほど掛かっていた。

 結構盛り上ってたシーンを見なかったのは、勿体無いぞ。


ごめん。トイレ混んでてさ
そっか。それは勿体無い
 愛想笑いの染谷君だった。俺達兄妹は事前にちゃんとトイレに行ってたんで大丈夫だ。

 

 

 再度別世界へ旅立つと、やはりというか……ジプリの面白さを痛感させられる。


 序盤のゆるやかな展開から複線をちりばめており、少しずつ謎が解明される爽快感。そして事件が起こり急展開の流れは最早王道である。しかし王道ゆえの圧倒的面白さにうんうんと頷きながら、物語は収束していく。


 ラストにおいては「やっぱおもしれーわ。素晴らしい」と白旗を振ると、俺もこんな感動する小説を書きたい。そう思うのであった。


 ※


 上映が終わり、照明が付くと、現実世界へと舞い戻ってくる。戻ってきた瞬間は一瞬だけほっと安心するが、映画の余韻が残っていると暫く立ち上がる事が出来ない。

やっぱ面白いね。ジプリは昔っから大好きで。
うん! 最後凄かったね
いい話だなぁ。俺もほんとジプリ好きだ

 絶賛する三人の他にも、その周りの人間からも「良かった」と聞こえてくると何故か嬉しく思う。この時ばかりは一緒に見に来た客と、妙な仲間意識が芽生えた。そんな気さえする。


 

ありがとう……お兄ちゃんのお友達さん

いやいや。こちらこそ助かったよ。

黒澤君達が一緒に見てくれて、マジ感謝だよ

 確かに一人映画館は確かにレベルが高そうだ。俺だって一人で入れない自信がある。
ジプリはね。どっちかと言うと子供向けだと思われちゃうし、恥ずかしくてさ
あぁ。それ凄いわかるかも
だよね? だから……映画館の前で躊躇してたんだよ
 染谷くんって結構可愛いな。躊躇してる姿を是非見ておきたかった。
黒澤くん。これからどうする?
えっと……そうだね。そろそろ……

もし良かったらさマグマグ行かない?

実は僕もポップコーン頼めば良かったと思うくらい腹減っちゃって

 おいおい華凛。シャツ引っ張るな。お前も行きたいのか?
ねぇ。ちょっと付き合ってよ。いこう!

 スマホをを見れば四時前。

 そろそろ入れ替わりサインが届く頃だ。しかしマグマグで飯を食うくらいなら大丈夫だろう。

分かった。行こうか。今度はちゃんと俺も出すから
ポテト食べたい。ハンバーガーも
お前まだ食えるのかよ
うん!
よ~し。じゃあマグマグに行こうっ!

 華凛も少しずつ喋り出した。染谷君への警戒心は大分なくなって来たらしい。

 それでもずっと俺の後ろに隠れているんだけど。


  

 

よし。これで準備OKだ。


あとはアイツがマグマグまで来れば会話が繋がる。楓蓮さんに近づくことができる。


妹ちゃんを知るのは……俺だけじゃない。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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