〜閑話休題〜
文字数 1,422文字
「神様! 神様〜!」
遥か雲の上、天国と呼ばれる至上の楽園に、真っ白なふわふわの羽が生えた可愛らしい女の子の声が響き渡った。女の子に神様と呼ばれた、これまた真っ白なふわふわの羽が生えた、可愛らしいおっさんは慌てて振り返った。
「おお! どうだった天使よ! 見つかったか、ワシの『惚れ薬』は!?」
「いえ……それが……」
急いでおっさんの元まで飛んできた女の子が、膝に手をついて荒い息を整えた。白い雲でできた椅子の上で、おっさんが身を乗り出し目を見開いた。
「なんじゃと!?」
「まだ何も言ってません」
「そうか。で、どうだった?」
もこもこの椅子に深く座りなおしたおっさんに、天使と呼ばれた女の子は持ってきた薬を差し出した。
「はい。五つ目は、隣天国のサダヲさんが持ってたみたいです。いつも飲んでる胃薬と勘違いしてたみたいで……。五つまでは回収できたみたいなんですが……残りの一つが、どうも地上に落っこちちゃったみたいで……」
「地上!?」
おっさんが驚いて椅子から転がり落ちた。
「マズイ……非常にマズイぞ! あの薬は天界の恵みじゃ。万が一地上の者が使ってしまっては……!」
「どうなってしまうみたいですか?」
天使のように可愛らしく、きょとんと首をかしげる女の子に、おっさんはまるで神様のように威厳たっぷりに唸った。
「増える」
「ふえ……?」
「うむ。天界に住む者にとってはただの『惚れ薬』じゃが、地上の者には強力な副作用が出てしまうんじゃ。相手を想う気持ちが増殖し続け、記憶や体は融合と分裂を繰り返し……」
「心と体が、混ざり合っちゃうみたいってことですか? なんで知ってるんですか? もしかして神様、試……」
「きっと『心は自分で体は相手』なんて、本来ならば存在しない魂でさえ生み出してしまうことじゃろう。嗚呼、えらいことになった。魂管理事務局に徹底追求される……このままでは、ワシは辞任じゃ」
おっさんは女の子の言葉を無視し、天国から、さらに天を仰いだ。
「それだけではない。やがて関係ない他人まで巻き込み、彼奴等全員を想い人の姿へと変貌させてしまうやもしれん……!」
深々と椅子に腰掛けなおし、頭を抱えるおっさんを女の子が不思議そうに眺めた。
「周りにいる人全員が好きな人になっちゃうんですか? それってでも、すっごく幸せなことみたいですね」
「何?」
女の子はとびきりの笑顔でおっさんの膝の上に飛び乗った。女の子の頭の上に浮かぶ輪っかが、おっさんの顎にクリーンヒットした。
「痛ってえ……!!」
「だって神様、好きな人はたくさんいた方が楽しいじゃないですか!」
「なるほど……確かにの。嫌いな人に囲まれているよりは、いいことかもしれんな。ふむ。じゃあ、このまま放っておくか。あの薬の効果を解くには、お互い合意の上想い人本人とキッスをしなければいけないのじゃが……」
「まあ、キッスだなんて!」
女の子が顔を真っ赤にして頬に手をやった。
「素敵! また良いことしちゃったみたいですね、神様!」
「嗚呼。危うく地上の者に迷惑をかけてしまったんじゃないかと焦ったが、全くそんなことはなかったよ! ハッハッハ!」
「さすがです、神様!」
「ハァーッハッハッハァ!」
ふわふわの羽と、ふわふわの髪の毛を撫でられながら、女の子が嬉しそうに笑った。おっさんも笑った。天国は、今日も平和だった。
遥か雲の上、天国と呼ばれる至上の楽園に、真っ白なふわふわの羽が生えた可愛らしい女の子の声が響き渡った。女の子に神様と呼ばれた、これまた真っ白なふわふわの羽が生えた、可愛らしいおっさんは慌てて振り返った。
「おお! どうだった天使よ! 見つかったか、ワシの『惚れ薬』は!?」
「いえ……それが……」
急いでおっさんの元まで飛んできた女の子が、膝に手をついて荒い息を整えた。白い雲でできた椅子の上で、おっさんが身を乗り出し目を見開いた。
「なんじゃと!?」
「まだ何も言ってません」
「そうか。で、どうだった?」
もこもこの椅子に深く座りなおしたおっさんに、天使と呼ばれた女の子は持ってきた薬を差し出した。
「はい。五つ目は、隣天国のサダヲさんが持ってたみたいです。いつも飲んでる胃薬と勘違いしてたみたいで……。五つまでは回収できたみたいなんですが……残りの一つが、どうも地上に落っこちちゃったみたいで……」
「地上!?」
おっさんが驚いて椅子から転がり落ちた。
「マズイ……非常にマズイぞ! あの薬は天界の恵みじゃ。万が一地上の者が使ってしまっては……!」
「どうなってしまうみたいですか?」
天使のように可愛らしく、きょとんと首をかしげる女の子に、おっさんはまるで神様のように威厳たっぷりに唸った。
「増える」
「ふえ……?」
「うむ。天界に住む者にとってはただの『惚れ薬』じゃが、地上の者には強力な副作用が出てしまうんじゃ。相手を想う気持ちが増殖し続け、記憶や体は融合と分裂を繰り返し……」
「心と体が、混ざり合っちゃうみたいってことですか? なんで知ってるんですか? もしかして神様、試……」
「きっと『心は自分で体は相手』なんて、本来ならば存在しない魂でさえ生み出してしまうことじゃろう。嗚呼、えらいことになった。魂管理事務局に徹底追求される……このままでは、ワシは辞任じゃ」
おっさんは女の子の言葉を無視し、天国から、さらに天を仰いだ。
「それだけではない。やがて関係ない他人まで巻き込み、彼奴等全員を想い人の姿へと変貌させてしまうやもしれん……!」
深々と椅子に腰掛けなおし、頭を抱えるおっさんを女の子が不思議そうに眺めた。
「周りにいる人全員が好きな人になっちゃうんですか? それってでも、すっごく幸せなことみたいですね」
「何?」
女の子はとびきりの笑顔でおっさんの膝の上に飛び乗った。女の子の頭の上に浮かぶ輪っかが、おっさんの顎にクリーンヒットした。
「痛ってえ……!!」
「だって神様、好きな人はたくさんいた方が楽しいじゃないですか!」
「なるほど……確かにの。嫌いな人に囲まれているよりは、いいことかもしれんな。ふむ。じゃあ、このまま放っておくか。あの薬の効果を解くには、お互い合意の上想い人本人とキッスをしなければいけないのじゃが……」
「まあ、キッスだなんて!」
女の子が顔を真っ赤にして頬に手をやった。
「素敵! また良いことしちゃったみたいですね、神様!」
「嗚呼。危うく地上の者に迷惑をかけてしまったんじゃないかと焦ったが、全くそんなことはなかったよ! ハッハッハ!」
「さすがです、神様!」
「ハァーッハッハッハァ!」
ふわふわの羽と、ふわふわの髪の毛を撫でられながら、女の子が嬉しそうに笑った。おっさんも笑った。天国は、今日も平和だった。