◆第三十話 遠隔会議の騎士たち

文字数 2,028文字

 工房に戻ったレオナルドは、オフィススペースに向かった。そこには、むっとした顔のギレルモが待っていた。机にはノートパソコンと壊れたスマートフォンがある。ギレルモ立ち会いのもと、通信が可能になるように設定した。ギレルモは作業を終えたあと、不満そうに奥へと去っていった。
 レオナルドはノートパソコンを起動して、メールを受信する。数百件届いている。これを全て確認するのは骨が折れそうだ。
「まずは、クレイグたちにメールだ」
 生存報告とともに、フランシスコのことや秘密保持契約のことを書いて、打ち合わせをしたいと伝える。そして、ビデオ会議用のソフトにログインした。
 仲間が現れるのを待つあいだ、レオナルドは日記を読み始める。まずは全体像を把握するために、ぱらぱらとページをめくる。レオナルドは手を止めた。二二二二一一一が出てきた。門の上にあった記号を数字にしたものだ。その横に一二七という、もう一つ別の数字がある。

  2222111 127

 ページを繰る手を止め、じっと見つめる。その行の下には『これはリベーラ文明の本質である』と書いてある。フランシスコは、二二二二一一一は時間を表しており、先住民の呪術に関係していると言っていた。この数字が謎を解く鍵になりそうだ。
「うーん」
 天井を見上げて考える。呪術師ディエゴは、大学で数学を学んでいた。同じように数学が得意なアン・スーなら、意味が分かるかもしれない。それ以前に、彼女は大のパズル好きだ。こうした謎に、嬉々として挑むはずだ。
「レオくん、パソコンは返してもらえたようだね。外との通信もおこなえるようになったのかい?」
 ワイングラスを持ったアルベルトが近づいてきた。
「今日の仕事は終わったんですか?」
「そろそろ上がるつもりだよ。今日は忙しかったからね。疲れも溜まっているし」
 レオナルドは、自分も疲労していることに気づく。しかし、可能な限り早く問題を解決したいという気持ちの方が強かった。
 パソコンのアラームが鳴った。画面を見ると通知が表示されている。クレイグからだ。レオナルドはビデオ通話を始める。
「やあ、レオ。南国のバカンスは楽しんだかい?」
 映像が薄暗い。どこかのバーにいるようだ。高級そうなスーツに身を包み、髪をカッチリとまとめている。久し振りの仲間の姿に、レオナルドは思わず歓喜の声を上げる。
 再び通知があった。今度はアン・スーだ。ウィンドウを開く。中国系のちまっとした少女が現れた。自分の部屋にいるのだろう。くつろいだ格好をしている。続いて、白人の巨漢の男が登場した。BBだ。木造の小屋に、無数の本が並んでいる。カンザスの自宅だ。
 画面を四分割して、自分を含めて四人の顔が見えるようにする。背後に立つアルベルトとマリーアに、仲間たちを紹介する。BBたちにも、アルベルトとマリーアを紹介した。
「メールに書いてあったフランシスコ・イバーラ氏の情報は確認したよ。秘密保持契約のことも了解している。BBやアン・スーは?」
「OKだ」
「問題ないわ」
「よし、いつでもビデオ会議は始められるよ」
 クレイグが、何人ものベンチャーキャピタリストたちを魅了した笑みを浮かべる。
「こら、レオ、てめえ、音信不通になりやがって、俺がどれだけ心配したと思っているんだ!」
 唾が飛んできそうな勢いで言うBBに、小さな声でアン・スーが突っ込みを入れる。
「BBは、心配していなかったわ。『うわー、レオの奴、島で海に入って溺れたんじゃねえか』と言いながら、げらげらと笑っていたから」
 にらむBBに身をすくめたあと、アン・スーは「大丈夫?」と尋ねてきた。
「うん、大丈夫だよ。この上なく健康。食事は、いいものを食べさせてもらっていたからね。運動は少し足りなかったけど、それはまあ、いつもと同じだね」
 アン・スーはじっとこちらを見たあと、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
 いつものように、クレイグが司会役で話し合いが始まる。
「さあ、再会を喜んだところで会議に入ろう。レオは僕たちの知識と知恵を借りたがっている。とはいえ、僕には呪術は分からない。アン・スーはどうだい?」
 彼女は首を横に振る。
「当然BBも分からないよね」
 クレイグは肩をすくめながら言う。
「ああん? 俺は分かるぞ!」
 BBがふんぞり返りながら、新しいスナック菓子の袋を開けた。BBは博覧強記で、オカルト的な話題が好きだ。呪術や魔術、未確認飛行物体や未確認生物の情報を、いつも集めている。そして「知らないよね」と振れば、マシンガンを撃ち返すように知識を披露してくれる。そんなBBの扱い方を、クレイグは熟知している。
「へー、BBは、今回の呪術がどういったものか分かるのかい?」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、みんなに説明してくれないかい」
「よし。一から説明してやる」
 一呼吸置いて、BBが得意げに話し始めた。
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