第2話

文字数 689文字

 昔から知っているのに加え、面倒なことでも厭な顔ひとつせずやってくれるので、うちの両親の慶ちゃんに対する信用度は絶大、慶ちゃんも勝手知ったる何とか、いつもお勝手から文字通り勝手に我が家に上がり込む。
 わたしにしても、慶ちゃんは〈(オス)〉とは異なる生き物であって、今日のように、いきなり茶の間に入ってこられても、悲鳴を上げて痴漢撃退スプレーを探したりはせず、しどけない寝姿のまま、団扇(うちわ)をぱたぱたやってのお出迎えだ。
「よお、久しぶり」
「そお? しょっちゅう会ってるんじゃない」
「おいおい、これでもう一ヶ月ぶりなんだよ」
「えっ、そんなになる?」
「お前さんが途轍もなく長い夏休みを満喫してる間、俺は方々(ほうぼう)駆けずり回って目の回るほど忙しかったんだぜ。いつも学校に行っている(ぼっ)ちゃん(じょう)ちゃんたちが、家でごろごろしてるようになると、逆にママさん連中は遊んでいられなくなるらしいんだな。どうでもいいようなことで、いちいち俺を呼ぶんだよ」
「ふうん、書き入れ時だったってわけね。小金、(たま)った?」
「溜ってねえよ。どうでもいいことは、所詮どうでもいい金にしかならねえのさ。まったく、薄利(はくり)多売(たばい)見本市(みほんいち)だぜ。先週から学校が始まってくれて、ほっとしたよ。学校ってのはありがたいもんだな。自分が行っている時には、なぜか(ちっ)ともそう思わなかったけど」
 便利屋さんは使う方にとっては文字通り便利だが、使われる方にしてみれば、やはりいろいろ苦労のある稼業のようだ。
 慶ちゃん、お得意さんをひと月も放っておいたことを申し訳なく思っているのか、照れたような笑顔を浮かべて、
「――で、なんか用はないか」
 と冒頭の台詞になるわけだ。
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