第31話 帰り道の俺と大津の会話

文字数 1,754文字

 …と、ここまででこの話は、一応終わりである。
 だが、一応その日の帰り道の会話も、おまけで付けておく。
 俺と大津は、2人で俺ん()に向かっていた。
 それは、なぜか俺より先に、大津が俺ん家に先着している展開が、非常に気に食わないので、じゃあ一緒に帰りましょうという事に、してやったのだ。
 自転車では、すぐ着いてしまうので、2人して自転車を手押ししながら、ゆっくりと歩いた。
 まるで仲の良い兄弟みたいに(いや、俺はまだ麗奈と大津の結婚を、認めたわけじゃないぞ)。あるいは、親友みたいに…。
 もちろん話題は、今日の試合の事。サッカー選手は勝った試合の話で、だいたいメシ3杯は、食べられるから。白めし泥棒。
 しかし義弟(おとうと)は、もとい大津は、俺の受験の話とかに、話題をずらしてくる。そして、「きっと必ず、現役で受かりますよ」と言い、俺を熱く励ましてくれたのだった。
 何か心にポッと火が(とも)るような、嬉しい感覚を、俺は得た。
(そうだな、頑張ろう、こいつや麗奈と、同学年にならないように)
 俺はそのとき、決意を固くした。

 しかしそうホッコリした瞬間の感激(かんげき)間隙(かんげき)でもあった)をザクッと突いて、大津がまた話題を変えてきた。
「しかし、変ですよねえ…」
「なにが?」
「いえね、この湘南地域の、地域セルの話なんですけど…」
「なんでそんな話が出てくんの? 俺は知んないよ?」
「地域セルは、本当に特殊な新チーム形態のオペレーションで、それぞれが関係なく生活し、その素性とか本名も知らない

んです」
「…だから何? それが何?」
「この地域の場合は、2名は石橋由紀さんと、石橋麗奈ちゃんでした。まあ関係なく暮らす構成員のはずが、母娘(おやこ)でしたが。試験的な始動を始めたばかりの施策(しさく)ですから、そういう未達(みたつ)事項(じこう)も、あるでしょう。それで先輩、あとの1人には、心当たりはありませんか…?」
「知らねえよ。このすっとこどっこい。俺がそんな事、知るわけねえだろが」
「そうですか? 私、その第3メンバー、すごく巧みに一般人に紛れ込んでいて、とても頭が良くて、嘘が上手って、聞きましたけど…」
「誰にだよ?」
「由紀ちゃんに。ちょっとだけ。石原由紀さんに」
「チッ。知らねえよ。このウンコ野郎。俺がそんな事、知るわけねえじゃん」
「昨日、暗殺未遂事案が起きた現場で、誰かが『アトラクションです! 競演演武(きょうえんえんぶ)の見世物でした。みなさま失礼しました!』って、言ってくれたでしょう? あれ、本当に助かりました。()の空気が、騒然(そうぜん)としないで済みました。あの時現場には、実は7名の捜査官が他にいたんですが、誰もそんな事は言ってないって、話してるんですよね…」
「だから、俺は知らねえって言ってんだろ! 頃すぞ!」
 俺はそれでブチ切れて、大津の頭に渾身(こんしん)のヘディングを、お見舞いしたのだった。
「ぴえーん。分かりました、もう言いませーん。許して下さーい。暴力反対でーす!」
 大津はそう叫び、頭を腕で防ぎながら、ニコニコと爽やかに笑って、こっちを見たのだった。
(先輩を、からかいやがって。俺の最も都合が悪いところを、容赦なく正確に、突いてきやがる。大津って、本当に嫌な奴だな。やはり妹との結婚は、絶対に許さんとこ)と、一応は思ったのだが…。
 からのー! 俺は(よし、じゃあまあ、怒った分は、許してやるか)と決めた。俺は大津に負けないくらいの、爽やかな微笑み返しを、大津にしてやったのだった。
「まあ俺は、どっちみち、お前みたいなイケメンじゃねえよ」
「なに言ってんだか。先輩こそ上品な顔立ちの、大変な美少年じゃないですか」
「えっ、そーお? なんにも出ないよお…笑。……ところでお前、今回は初仕事だったの?」
「いえ。今までに3件ほど、捜査に参加しています」
「ふうん、そうなのかぁ。じゃあ初仕事じゃなかったんだな? 今回は。 俺は、初仕事だったけどね」
「…それが何か? どうかしましたか?」
「いえいえ、何でもございません。ただやはり主役は俺だった、って話になりますね?」
「ちょっと何言ってるのか、分かりません」
「ま、いいじゃん(ニヤッ)。分からなくても、別にいいんだよ」
 これでこの物語は、終わりである。
 長らくお付き合いいただいて、ありがとうね。
 じゃあ元気でな、また会う日まで!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み