第6話 『海辺 生命のふるさと』
文字数 1,236文字
The Edge of the Sea
レイチェル・カーソン=著
上遠恵子=訳
平河出版社
第一刷発行 1987年9月30日
原書は1955年に発表
イラストは1983年の著作権、
公務員時代の同僚で親友の画家ボブ・ハインズが描いた。彼は標本からではなく、実際にレイチェルと砂浜や岩場、サンゴ礁を一緒に観察し、採集したばかりの生き物を描いた。
レイチェルみたいに潮溜まりに寝転がって観察する人は少ないので、これまでよく知られていなかった海藻やゴカイやイソギンチャクやスカシカシパンや貝やカニやらの小さな生物が、レイチェルの文学的な文章で表現され、ボブの筆で目の前に現れる。
潮の満ち引きに支配される海辺と、潮に翻弄されながら食べたり生きたり生殖活動をしたり、ほかの動物や植物と共生したりしている海辺の世界は、一握りの土の中に天文学的な数の動植物がいる地上に負けず劣らず複雑である。レイチェルがなぜ海辺を選んだのか、それは海辺は深海などと違って普通の人が訪れることができる場所だから。
生物学の専門家ではないから生き物の名前が間違っていたら教えてくださいと読者に請う上遠恵子さんの文章は、飾り気がなく、レイチェルその人を思わせるように美しい。鰓 という漢字もこの本で初めて知った。
今回英文を読んでいないが、章のタイトルには例えば次のようなものがある。
岩礁海岸
砂浜
サンゴ礁海岸
潮溜まり(タイトルではないが頻出する)
その辺の翻訳アプリなので間違っているかも知れないが
Rocky Coast
Sandy Beach
Coral Reef Coast
tide pool
日本語と英語を比べてどう感じるだろうか? 英語は私にはとてもシンプルに思えた。だが、Rocky Coastから岩礁海岸を導き、tide poolを潮溜まりにするというのは、結構大変に思える。岩礁海岸も潮溜まりも科学論文に載っているかも知れないが、バリバリの専門用語ではなくて、準専門用語である。私は技術翻訳者の端くれだが、専門用語はカッチリ決まっていても、この準専門用語を上手に「当てる」ことができると、文章全体が上手くいく。その分野の雰囲気が出て、私たちをレイチェルが観察した海辺に連れて行ってくれるのだ。上遠さんの訳文からは、レイチェル・カーソンの人柄が透けて見え、彼女が潮溜まりをひっくり返してそこに隠れている小さな生物をびっくりさせるのに私たちは立ち会うことができる。だから上遠さんの訳文は素晴らしい。次はまた彼女の訳文で、ポール・ブルックスのレイチェルの伝記を読む。物理学者のヴェルナー・ハイゼンベルクのデイヴィッド・キャシディの伝記のように、詳細で、分量があり、決定版と思われる。レイチェル・カーソン日本協会の会長を務め、レイチェルの著作を日本人に紹介する。文学的香りのする著作も、詳細な伝記にも取り組む。翻訳者は、海外の事物を全身全霊をかけて日本人に紹介する外交官のような仕事だ。頭からどっぷり浸かれる分野でないとできない。
レイチェル・カーソン=著
上遠恵子=訳
平河出版社
第一刷発行 1987年9月30日
原書は1955年に発表
イラストは1983年の著作権、
公務員時代の同僚で親友の画家ボブ・ハインズが描いた。彼は標本からではなく、実際にレイチェルと砂浜や岩場、サンゴ礁を一緒に観察し、採集したばかりの生き物を描いた。
レイチェルみたいに潮溜まりに寝転がって観察する人は少ないので、これまでよく知られていなかった海藻やゴカイやイソギンチャクやスカシカシパンや貝やカニやらの小さな生物が、レイチェルの文学的な文章で表現され、ボブの筆で目の前に現れる。
潮の満ち引きに支配される海辺と、潮に翻弄されながら食べたり生きたり生殖活動をしたり、ほかの動物や植物と共生したりしている海辺の世界は、一握りの土の中に天文学的な数の動植物がいる地上に負けず劣らず複雑である。レイチェルがなぜ海辺を選んだのか、それは海辺は深海などと違って普通の人が訪れることができる場所だから。
生物学の専門家ではないから生き物の名前が間違っていたら教えてくださいと読者に請う上遠恵子さんの文章は、飾り気がなく、レイチェルその人を思わせるように美しい。
今回英文を読んでいないが、章のタイトルには例えば次のようなものがある。
岩礁海岸
砂浜
サンゴ礁海岸
潮溜まり(タイトルではないが頻出する)
その辺の翻訳アプリなので間違っているかも知れないが
Rocky Coast
Sandy Beach
Coral Reef Coast
tide pool
日本語と英語を比べてどう感じるだろうか? 英語は私にはとてもシンプルに思えた。だが、Rocky Coastから岩礁海岸を導き、tide poolを潮溜まりにするというのは、結構大変に思える。岩礁海岸も潮溜まりも科学論文に載っているかも知れないが、バリバリの専門用語ではなくて、準専門用語である。私は技術翻訳者の端くれだが、専門用語はカッチリ決まっていても、この準専門用語を上手に「当てる」ことができると、文章全体が上手くいく。その分野の雰囲気が出て、私たちをレイチェルが観察した海辺に連れて行ってくれるのだ。上遠さんの訳文からは、レイチェル・カーソンの人柄が透けて見え、彼女が潮溜まりをひっくり返してそこに隠れている小さな生物をびっくりさせるのに私たちは立ち会うことができる。だから上遠さんの訳文は素晴らしい。次はまた彼女の訳文で、ポール・ブルックスのレイチェルの伝記を読む。物理学者のヴェルナー・ハイゼンベルクのデイヴィッド・キャシディの伝記のように、詳細で、分量があり、決定版と思われる。レイチェル・カーソン日本協会の会長を務め、レイチェルの著作を日本人に紹介する。文学的香りのする著作も、詳細な伝記にも取り組む。翻訳者は、海外の事物を全身全霊をかけて日本人に紹介する外交官のような仕事だ。頭からどっぷり浸かれる分野でないとできない。