第1話

文字数 2,173文字

【起】
 斉藤ゆずるは、海に面した田舎町に住む小学4年生。学校の先生には「落ち着いているが何事にも無関心」と言われ、家にこもってゲームばかりしている。そんなゆずるを心配した母親は、彼をとある場所に連れていく。そこは廃校となった小学校を利用して作られたばかりの、フリースタイルBMXの練習場だった。BMXはバイシクルモトクロスと呼ばれる自転車競技である。嫌々ながらBMXを初体験したゆずるは、その面白さに目覚める。ゆずるはBMXクラブの会員第一号になる。
 ゆずるは学校が終わってから毎日のようにBMXの練習場に行く。マイペースな性格のゆずるは、一人でこつこつ練習して技を磨くBMXが性に合っていたのだ。チャラい見た目で子ども好きの西間コーチから技を教わりながら次第に上達していく。ゆずるから少し遅れて、一人の少年がBMXをはじめる。彼は、永野力輝(りき)。ゆずるとは別の小学校に通う4年生だ。力輝は明るく積極的だが、自分の思い通りにならないと気が済まなくて、とにかく注目を集めたいタイプだった。ゆずるはそんな力輝のことが苦手だった。一方の力輝もゆずるをライバル視し、ことあるごとに突っかかる。ゆずるも、学校ではスルーするはずの喧嘩をなぜか買ってしまい、喧嘩がたえない。

【承】
 BMXをはじめて三ヶ月後、クラブ内で発表会をすることになる。力輝はゆずるに勝負をふっかける。力輝が勝ったら西間コーチの一番弟子の地位を渡すこと、使っているBMXを交換すること。ゆずるは青、力輝はピンクのBMXをあてがわれていたのだが力輝は青がいいと思っていた。ゆずるは勝負を受ける。
 発表会当日、二人は家族や近所の人の前で披露する。先にやったのはゆずる。集中して、大きなミスなく走りきる。続いて力輝の番がやってくる。ゆずるは西間コーチから走る前に、「2番のスロープが滑りやすくなっているから気をつけろ。力輝にも伝えておいてくれ」と言われていた。しかし意地悪な気持ちが生まれてしまう。もし力輝に教えなかったら、ひょっとして力輝は失敗するかもしれない。ゆずるはわざと力輝にその情報を教えなかった。力輝は力が入り、上手く技を決められない。そのまま2番のスロープに差し掛かり、転倒する。ゆずるはまさか本当に起こるなんてと驚くが、自分が言わなかったせいだと後悔する。力輝に謝ろうとしたが「どうせ俺のことバカにしにきたんだろう」と先に言われ、喧嘩になってしまう。その中で「卑怯者」と言われ、キレたゆずるは「もう二度と来るな!」と言ってしまう。力輝も「二度と来るか!」と言って去る。

【転】
 ゆずるは家に帰って後悔し反省し、やっぱり謝ろうと思い直す。でも力輝は次の日から練習に来なくなる。いなくなってはじめて、力輝の存在が頑張る力になっていたことを知る。力輝が来なくなって5日目、ゆずるは力輝の家まで行ってみることにする。小学生の足では遠い距離を、ゆずるは自転車で漕いで行く。家まで着いたけれどそこに力輝はいなかった。帰ろうとすると、公園に力輝がいるのを見つける。力輝は普通の子ども用自転車で練習していたのだった。二人は思っていることをぶくけあう。ゆずるは、「力輝が自分にないものをもっているのがうらやましかった。唯一自分の居場所といえる場所BMXクラブができて、そこまで力輝にとられてしまうのが怖くて、どうしても負けたくなくて、情報を伝えないというズルをしてしまった。自分はズルい卑怯者だ。ズルをしたんだから勝ったとは言わない。一番弟子も譲るし、BMXも交換する。」すると力輝も「2番スロープの注意は力輝も西間コーチから直接受けていた。だからスロープで転んだのはゆずるのせいではない。自分が欲張って予定にない技を入れようとしてしまったからだ。」と謝る。二人は仲直りし、翌日から練習を再開する。前と同じく言い合いは絶えないが、互いにライバルで仲間といえる存在になっていると感じる。

【結】
 二人はコーチから、大会に出場してみないかと言われる。入賞すると全国大会に行ける大会で、ジュニア部門もあるし、プロも出る。二人は迷うことなく出場を申し込む。ゆずるは新しい技に挑戦する。しかしそれまで練習してきた技とは難易度が段違いで、危険度もあがり苦戦する。ゆずるは力輝の思い切りの良さにヒントを得て、新たな技を習得する。力輝も、技の成功率を上げることができず悩んでいたが失敗の理由をとことん考えるゆずるの姿勢に影響されて上達していく。
 大会当日になる。観客に見られるとノってくるタイプの力輝は、実力以上のパフォーマンスを魅せる。一方ゆずるは、大勢の観客に緊張してしまう。逃げ出してしまおうか。その時声をかけてくれたのは力輝だった。いつも通り自信満々に、「こんなかではおまえが一番上手い。いってこい!」と言い切る力輝の言葉に吹っ切れる。本番に挑む。今までになく集中して走ることができ練習してきた大技も決め、BMXの試合の本当の楽しさを知る。
 ゆずるはジュニア部門で3位、力輝は2位に入る。はじめての大会で入賞し、全国大会に行けることになる。1位は他のクラブの5先生、赤石祥太郎で彼のレベルは二人の一歩先を行っていた。大会で出会った様々な人たちに刺激を受け、世界が広がった二人は全国大会へ向けて意気込む。
 
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