06 確かめる必要がある
文字数 4,012文字
――何という混乱の一夜であったことか。
いったいどうやって逃げ延びたのか、シュナードもよく覚えていないくらいだった。
レイヴァスが再び、あの光の球を空飛ぶ魔物に投げつけたところまでははっきりと記憶にある。だがそのあと、少年は力を使い果たしたように――実際、そうだったのかもしれない――くずおれた。彼を抱きかかえることになったシュナードは剣を振るうことができなくなり、町びとの混乱に巻き込まれないようにしながら逃げ回るしかなくなった。
町のどこにも「安全なところ」など思い至らず、彼は思い切って街道に出た。いまの状態では、街道の方が魔物に出会う率が低いと判断したのだ。
どんな酷い冗談だ、と彼は思った。外壁の向こうの方がそのなかよりも安全そうだなんて。
どうにか思い出したのが、町と道を少し離れたところにある狩人の休憩小屋だ。
見つかって襲われればひとたまりもないが、それはどこでも同じこと。
とにかくこの夜を明かすことだ。魔物は日中でも活動するが、夜の比ではない。
朝になればきっと、打開案も浮かぶ。何の根拠もなくそう考えた。そう考えることにした、と言うべきか。
少年は見た目通りに軽かったが、荷物を運ぶのとはやはり訳が違うし、逃亡しながらではさすがに疲労したというのもある。彼だって休まなくてはならなかった。
休むことを思えば町のなかの方がよかったが――ほかに誰かしらが警戒をしていてくれるだろうからだ――今更思いついても仕方ない。彼はレイヴァスを簡素な寝台に寝かせると毛布をかけてやり、自らは床に転がった。
(ミラッサも、無事でいるといいが)
混乱のなかではぐれた少女を思った。彼女が選んで狙われることはないはずだが、魔物たちの攻撃は無差別だ。僧兵団や町の戦士たちの活躍を祈るばかりだった。
(ひとり逃げてきたようなのは気にならなくもないが)
(まあ、それは俺が背負えばいいさ)
レイヴァスが気に病まないよう、気遣ってやらなくては。そんなことも思った。
(何だかんだと、戦う意思があったみたいだからな)
(関係ないと言いながらも、自分が狙われていることは認めてるのかもしれん)
彼は少年の心境を思った。
もしも自分が、たとえばシュナード王の血筋だなどという有り得ない理由で命を狙われるようなことがあったら。
呆れるし、怒るし、そんなことを真顔で言ってくる相手を軽蔑すらするだろう。
そう思えば、少年の態度は至極もっともなのだ。
(可哀想に、とは正直、あまり思えんのだが)
(これでもよく我慢してた、ってことになるのかもなあ)
そう感じはじめると寝顔があどけなく思えてくるから不思議だ。
(もし、もしもだぞ)
(本当にこいつがアストールの子孫で、魔術王と戦わなくちゃならんなんてことになれば)
(俺はそれを手伝ってやっても)
(……まあ、いい、かな)
そんなことを考えながら、シュナード・イーズは床に転がり、やがて眠りに落ちていった。
夢はほとんど見なかった。
見たところできっと襲撃の続きのような悪夢だったに違いない。それとも復活した魔術王が――どんな姿か知らないが――レイヴァスとシュナードを狙ってくる夢だとか。
幸いにして眠りの神パイ・ザレンも〈名なき運命の女神〉も、この夜は彼に慈悲深かった。夢にも現実にも怖ろしいことはそれ以上ないままで、戦士はひと晩の休息を得たの。
それが終わりを告げたのは。
「おい、起きろ」
「いてっ」
不機嫌そうな声が聞こえると同時に、腹の辺りに衝撃を感じたためだ。彼は飛び起きた。
「ここはどこだ。いったいどうして僕はこんなところに」
「あー、その前に、だな」
シュナードは頭をかいた。
「人を! 蹴って起こすんじゃない!」
「優しく揺り起こしてほしかったとでも言うのか。僕はご免だ」
ふんとレイヴァスは冷笑した。
「俺だって、そりゃ、起こしてもらうんならお前なんかより美女の方がいいに決まっとるわ」
美女なら蹴られてもいいかな、などと益体のないことを思い、首を振った。
「んで、お前さんの調子はどうだ」
「何だと?」
「魔術を使ったあと、ぶっ倒れたからさ。頭が痛かったりとか、ないか」
「それは……特にないようだ」
少年は考えるようにしてから答えた。
「倒れた? 僕が?」
「魔術の使いすぎ、なんて辺りじゃないのか。よく知らんが」
「確かに、魔力を使いすぎれば、体力を使い果たしてしまうように危険だということは知っている」
レイヴァスは両腕を組んだ。
「だから警戒はしていたが、僕もあんなに続けて使ったことはないからな……初めて使う術ばかりだったし」
「そうなのか? 慣れたふうだったが」
「慣れるはずがあるか。僕はこれまで平和に生きてきたんだ」
「まあ、それもそうか」
(ひょっとしたらこいつ)
(本当に、天才って奴なのか?)
熟練の魔術師でも、新しい術には慎重になると聞く。戦士で考えれば、使い慣れない武器を手にするようなものだろう。いきなり全力でいつものように使えるはずはなく、それができる者は天賦の才に恵まれているなどと言うものだ。
「おかしなことを考えていないか」
じろり、と視線がきた。
「おかしなこと?」
見当がつかずに彼は繰り返した。
「英雄の子孫だから才能に恵まれているとでも思ったんじゃないのか」
「あー、成程」
ぽんと手を叩けば、更にきつく睨まれた。
「いやいや、違う違う。思わなかった、そんなことは」
まじで、と彼は言った。
「魔術師じゃないって話だが、そんじょそこらの魔術師より大したことができてるんじゃないかと思っただけで、アストールのことなんかは忘れてた」
「本当か?」
「まじ、まじ」
こくこくと彼はうなずいた。
(昨夜は少々考えたが)
(言わん方がいいな)
「それで? ここはどこだ」
少年はその質問に戻った。
「狩人の休憩小屋だ。町の外だな」
そう答えてから彼は、レイヴァスが倒れてからの出来事をざっと語った。と言っても主に「町から逃げ出した」ことと「ミラッサとはぐれた」ことくらいしかなかったが。
「ふん、ミラッサか」
「心配か」
「ちっとも」
「……せめて心配するふりでもしてやれ」
何だかミラッサが少し気の毒に思えた。
「ああいう女はしぶといんだ。殺しても死なない、というやつだな」
「まあ、そういうタマじゃあるが、本当に殺して死なない人間なんていない。状況が状況だ」
おそらく実際、死人も出ただろう。重篤な怪我人も。
そのなかにミラッサが仲間入りしていないことを祈るばかりだ。
(知らん人間なら死んでもいいってこたあないが)
(正直に言って、知ってる人間よりは気楽だ)
その辺りの割り切りは、街道警備隊時代に培った。戦士仲間に死者はあまり出なかったが、酷い怪我をして引退せざるを得なくなった者などはいた。付き合いの長い相手であれば我がことのように痛ましく、そうでなければ「運がなかったな」と思う程度。神官のように博愛の心を持っていればともかく、普通はこんなものだ。
もっとも、それを表に出すかどうかはまた別の話。
表面上は誰のことであっても同じように痛ましい顔をして見せ、深刻なふりをする。それを偽善だなどと考えた若い頃もあったが、いまではさらりと「礼儀のようなものだ」と思うようになった。
「再会したら、嘘でもいい、心配したと言ってやれよ」
「どうして僕がそんなことを」
「それは、まあ、大人のつき合いというやつだ」
彼が答えれば、蔑むような視線がきた。
「浅薄なつき合いだな」
「はは」
(ま、これは若いってこった)
そう思えば腹も立たない。
「ここからなら町も見えるはずだ。どれ」
彼は立ち上がると木の扉を開け、町の方に視線をやって息を吐いた。
「煙が上がってるなんてこともないようだな。町から逃げ出す住民たちが列を作ってる様子もなし。戦い手 連中が頑張ったか、それとも適当なところで奴らが諦めて引き上げたってとこか」
「諦める?」
レイヴァスが片眉を上げた。
「今度は、考えているだろう。おかしなことを」
「まあな」
シュナードは認めた。
「お前がどれだけ自分は関係ないと主張しようとも、大ありだと思ってる奴がいるのさ。本当にそれが件の魔術王様 かどうかは、まだ何とも言えんが」
ミラッサの話によれば、魔術王は復活しつつあるとのことだ。ただ、信じるには根拠が弱い。
その辺りのことも含め、ライノンも交えて話をじっくりと聞きたかったのだが。
「……剣を」
小さく、レイヴァスは呟いた。
「何?」
シュナードは聞き返す。
「――剣を確かめる必要がある」
「剣。英雄の剣か。確か、スッペン……」
「スフェンディア」
「ああ、そうそう。そんなんだったな」
スフェンディア、スフェンディア、と彼はぶつぶつ繰り返した。
「それで、その剣が何だと? 確かめる?」
「本当に封印が解けたのかどうか」
「……どうやって」
意味が判らず、彼は尋ねた。
「見に行く」
「何? 封印された場所にか? ミラッサが知っているようだが」
「僕も知っている」
「そうか。……は!?」
受け流しかけて、彼は目を見開いた。
「知っている?」
「ああ。行ったことはないが。これに」
と、少年は懐から小さな本を取り出した。誰にも触らせなかった、あの本だ。
「書いてある」
「何だと。じゃ、まさか」
考えたことだった。何度も。
少年が頑なに否定するのは、何か知っているからではないのかと――。
「まさかお前、それは本当に」
「ああ。ライノンとやらの言った通り」
レイヴァスは小さくうなずいた。
「これは、アストール・アルディルムの手記だ」
いったいどうやって逃げ延びたのか、シュナードもよく覚えていないくらいだった。
レイヴァスが再び、あの光の球を空飛ぶ魔物に投げつけたところまでははっきりと記憶にある。だがそのあと、少年は力を使い果たしたように――実際、そうだったのかもしれない――くずおれた。彼を抱きかかえることになったシュナードは剣を振るうことができなくなり、町びとの混乱に巻き込まれないようにしながら逃げ回るしかなくなった。
町のどこにも「安全なところ」など思い至らず、彼は思い切って街道に出た。いまの状態では、街道の方が魔物に出会う率が低いと判断したのだ。
どんな酷い冗談だ、と彼は思った。外壁の向こうの方がそのなかよりも安全そうだなんて。
どうにか思い出したのが、町と道を少し離れたところにある狩人の休憩小屋だ。
見つかって襲われればひとたまりもないが、それはどこでも同じこと。
とにかくこの夜を明かすことだ。魔物は日中でも活動するが、夜の比ではない。
朝になればきっと、打開案も浮かぶ。何の根拠もなくそう考えた。そう考えることにした、と言うべきか。
少年は見た目通りに軽かったが、荷物を運ぶのとはやはり訳が違うし、逃亡しながらではさすがに疲労したというのもある。彼だって休まなくてはならなかった。
休むことを思えば町のなかの方がよかったが――ほかに誰かしらが警戒をしていてくれるだろうからだ――今更思いついても仕方ない。彼はレイヴァスを簡素な寝台に寝かせると毛布をかけてやり、自らは床に転がった。
(ミラッサも、無事でいるといいが)
混乱のなかではぐれた少女を思った。彼女が選んで狙われることはないはずだが、魔物たちの攻撃は無差別だ。僧兵団や町の戦士たちの活躍を祈るばかりだった。
(ひとり逃げてきたようなのは気にならなくもないが)
(まあ、それは俺が背負えばいいさ)
レイヴァスが気に病まないよう、気遣ってやらなくては。そんなことも思った。
(何だかんだと、戦う意思があったみたいだからな)
(関係ないと言いながらも、自分が狙われていることは認めてるのかもしれん)
彼は少年の心境を思った。
もしも自分が、たとえばシュナード王の血筋だなどという有り得ない理由で命を狙われるようなことがあったら。
呆れるし、怒るし、そんなことを真顔で言ってくる相手を軽蔑すらするだろう。
そう思えば、少年の態度は至極もっともなのだ。
(可哀想に、とは正直、あまり思えんのだが)
(これでもよく我慢してた、ってことになるのかもなあ)
そう感じはじめると寝顔があどけなく思えてくるから不思議だ。
(もし、もしもだぞ)
(本当にこいつがアストールの子孫で、魔術王と戦わなくちゃならんなんてことになれば)
(俺はそれを手伝ってやっても)
(……まあ、いい、かな)
そんなことを考えながら、シュナード・イーズは床に転がり、やがて眠りに落ちていった。
夢はほとんど見なかった。
見たところできっと襲撃の続きのような悪夢だったに違いない。それとも復活した魔術王が――どんな姿か知らないが――レイヴァスとシュナードを狙ってくる夢だとか。
幸いにして眠りの神パイ・ザレンも〈名なき運命の女神〉も、この夜は彼に慈悲深かった。夢にも現実にも怖ろしいことはそれ以上ないままで、戦士はひと晩の休息を得たの。
それが終わりを告げたのは。
「おい、起きろ」
「いてっ」
不機嫌そうな声が聞こえると同時に、腹の辺りに衝撃を感じたためだ。彼は飛び起きた。
「ここはどこだ。いったいどうして僕はこんなところに」
「あー、その前に、だな」
シュナードは頭をかいた。
「人を! 蹴って起こすんじゃない!」
「優しく揺り起こしてほしかったとでも言うのか。僕はご免だ」
ふんとレイヴァスは冷笑した。
「俺だって、そりゃ、起こしてもらうんならお前なんかより美女の方がいいに決まっとるわ」
美女なら蹴られてもいいかな、などと益体のないことを思い、首を振った。
「んで、お前さんの調子はどうだ」
「何だと?」
「魔術を使ったあと、ぶっ倒れたからさ。頭が痛かったりとか、ないか」
「それは……特にないようだ」
少年は考えるようにしてから答えた。
「倒れた? 僕が?」
「魔術の使いすぎ、なんて辺りじゃないのか。よく知らんが」
「確かに、魔力を使いすぎれば、体力を使い果たしてしまうように危険だということは知っている」
レイヴァスは両腕を組んだ。
「だから警戒はしていたが、僕もあんなに続けて使ったことはないからな……初めて使う術ばかりだったし」
「そうなのか? 慣れたふうだったが」
「慣れるはずがあるか。僕はこれまで平和に生きてきたんだ」
「まあ、それもそうか」
(ひょっとしたらこいつ)
(本当に、天才って奴なのか?)
熟練の魔術師でも、新しい術には慎重になると聞く。戦士で考えれば、使い慣れない武器を手にするようなものだろう。いきなり全力でいつものように使えるはずはなく、それができる者は天賦の才に恵まれているなどと言うものだ。
「おかしなことを考えていないか」
じろり、と視線がきた。
「おかしなこと?」
見当がつかずに彼は繰り返した。
「英雄の子孫だから才能に恵まれているとでも思ったんじゃないのか」
「あー、成程」
ぽんと手を叩けば、更にきつく睨まれた。
「いやいや、違う違う。思わなかった、そんなことは」
まじで、と彼は言った。
「魔術師じゃないって話だが、そんじょそこらの魔術師より大したことができてるんじゃないかと思っただけで、アストールのことなんかは忘れてた」
「本当か?」
「まじ、まじ」
こくこくと彼はうなずいた。
(昨夜は少々考えたが)
(言わん方がいいな)
「それで? ここはどこだ」
少年はその質問に戻った。
「狩人の休憩小屋だ。町の外だな」
そう答えてから彼は、レイヴァスが倒れてからの出来事をざっと語った。と言っても主に「町から逃げ出した」ことと「ミラッサとはぐれた」ことくらいしかなかったが。
「ふん、ミラッサか」
「心配か」
「ちっとも」
「……せめて心配するふりでもしてやれ」
何だかミラッサが少し気の毒に思えた。
「ああいう女はしぶといんだ。殺しても死なない、というやつだな」
「まあ、そういうタマじゃあるが、本当に殺して死なない人間なんていない。状況が状況だ」
おそらく実際、死人も出ただろう。重篤な怪我人も。
そのなかにミラッサが仲間入りしていないことを祈るばかりだ。
(知らん人間なら死んでもいいってこたあないが)
(正直に言って、知ってる人間よりは気楽だ)
その辺りの割り切りは、街道警備隊時代に培った。戦士仲間に死者はあまり出なかったが、酷い怪我をして引退せざるを得なくなった者などはいた。付き合いの長い相手であれば我がことのように痛ましく、そうでなければ「運がなかったな」と思う程度。神官のように博愛の心を持っていればともかく、普通はこんなものだ。
もっとも、それを表に出すかどうかはまた別の話。
表面上は誰のことであっても同じように痛ましい顔をして見せ、深刻なふりをする。それを偽善だなどと考えた若い頃もあったが、いまではさらりと「礼儀のようなものだ」と思うようになった。
「再会したら、嘘でもいい、心配したと言ってやれよ」
「どうして僕がそんなことを」
「それは、まあ、大人のつき合いというやつだ」
彼が答えれば、蔑むような視線がきた。
「浅薄なつき合いだな」
「はは」
(ま、これは若いってこった)
そう思えば腹も立たない。
「ここからなら町も見えるはずだ。どれ」
彼は立ち上がると木の扉を開け、町の方に視線をやって息を吐いた。
「煙が上がってるなんてこともないようだな。町から逃げ出す住民たちが列を作ってる様子もなし。
「諦める?」
レイヴァスが片眉を上げた。
「今度は、考えているだろう。おかしなことを」
「まあな」
シュナードは認めた。
「お前がどれだけ自分は関係ないと主張しようとも、大ありだと思ってる奴がいるのさ。本当にそれが件の魔術王
ミラッサの話によれば、魔術王は復活しつつあるとのことだ。ただ、信じるには根拠が弱い。
その辺りのことも含め、ライノンも交えて話をじっくりと聞きたかったのだが。
「……剣を」
小さく、レイヴァスは呟いた。
「何?」
シュナードは聞き返す。
「――剣を確かめる必要がある」
「剣。英雄の剣か。確か、スッペン……」
「スフェンディア」
「ああ、そうそう。そんなんだったな」
スフェンディア、スフェンディア、と彼はぶつぶつ繰り返した。
「それで、その剣が何だと? 確かめる?」
「本当に封印が解けたのかどうか」
「……どうやって」
意味が判らず、彼は尋ねた。
「見に行く」
「何? 封印された場所にか? ミラッサが知っているようだが」
「僕も知っている」
「そうか。……は!?」
受け流しかけて、彼は目を見開いた。
「知っている?」
「ああ。行ったことはないが。これに」
と、少年は懐から小さな本を取り出した。誰にも触らせなかった、あの本だ。
「書いてある」
「何だと。じゃ、まさか」
考えたことだった。何度も。
少年が頑なに否定するのは、何か知っているからではないのかと――。
「まさかお前、それは本当に」
「ああ。ライノンとやらの言った通り」
レイヴァスは小さくうなずいた。
「これは、アストール・アルディルムの手記だ」