◆第三十四話 別れの杯、旅立ちの日
文字数 693文字
先住民の集落では焚き火をしている。王を戴いた日と同じだ。夜空の下、赤い光が周囲を照らしている。集落に住む全員が出てきて炎を囲んでいた。足腰の立たない老人も歩ける者に運ばれて集まっていた。長老が周りを見渡して口を開く。
「テオートルから報告があった。入植者の末裔の一人、フランシスコ・イバーラが聖地を暴いたそうだ」
既に集落中の人間が知っている。それでもどよめきが起き、非難の声が上がった。長老は手を動かして静かにさせる。人々が落ち着いたのを見て、言葉を発した。
「いよいよ呪術が成就するときが来た。歩ける者は、自身の体を捧げるために、王とともに旅に出る。今日はその出立の前の宴だ。みな存分に飲んでくれ」
歓声が沸く。いよいよ五十年前の恨みを晴らす瞬間が訪れた。妻子を殺された者もいる。目の前で両親を葬られた者もいる。人の心は痛みを忘れやすい。生き残った者たちは、わざと環境の悪い土地に居を構えて、憎悪を維持した。
「王の血を伝え、客人の血を交えた最後の王よ。我らの大願の成就のために、御身を神と融合してくれまいか」
長老の言葉にテオートルは静かにうなずく。彼は王としての威厳を、体の装飾で示している。手や足に埋め込んだ、きらびやかな羽の蝶。王冠のように額に取りつけた、虹色にきらめく甲虫。黄金や宝石の代わりに、生きた虫を身にまとったテオートルは、光の化身のようになっていた。
「我らの最後の輝きだな」
焚き火に照らされたテオートルを見上げて長老は言う。島はいよいよ滅びの瞬間を迎える。ディエゴの考案した呪術が発動する。その仕上げとして神に生贄を捧げる旅が、始まろうとしていた。
「テオートルから報告があった。入植者の末裔の一人、フランシスコ・イバーラが聖地を暴いたそうだ」
既に集落中の人間が知っている。それでもどよめきが起き、非難の声が上がった。長老は手を動かして静かにさせる。人々が落ち着いたのを見て、言葉を発した。
「いよいよ呪術が成就するときが来た。歩ける者は、自身の体を捧げるために、王とともに旅に出る。今日はその出立の前の宴だ。みな存分に飲んでくれ」
歓声が沸く。いよいよ五十年前の恨みを晴らす瞬間が訪れた。妻子を殺された者もいる。目の前で両親を葬られた者もいる。人の心は痛みを忘れやすい。生き残った者たちは、わざと環境の悪い土地に居を構えて、憎悪を維持した。
「王の血を伝え、客人の血を交えた最後の王よ。我らの大願の成就のために、御身を神と融合してくれまいか」
長老の言葉にテオートルは静かにうなずく。彼は王としての威厳を、体の装飾で示している。手や足に埋め込んだ、きらびやかな羽の蝶。王冠のように額に取りつけた、虹色にきらめく甲虫。黄金や宝石の代わりに、生きた虫を身にまとったテオートルは、光の化身のようになっていた。
「我らの最後の輝きだな」
焚き火に照らされたテオートルを見上げて長老は言う。島はいよいよ滅びの瞬間を迎える。ディエゴの考案した呪術が発動する。その仕上げとして神に生贄を捧げる旅が、始まろうとしていた。