第2話 スマホになったカノジョ

文字数 1,541文字

……
…………ハアッハアッ
……

…………ンンッ

……

…………アァッ

……アイちゃんさぁ
スマホなのに、タッチ画面にタッチするたびに
変な声出すの、やめてもらってもいいかなぁ?
ごめーん、これでも我慢してるんだけど
たっくんに触れられてると思うと
ついつい、変な反応しちゃうの
人間時代の感覚が抜けないのかしら?

これじゃあ、まるで俺が

スマホで、音出しながら、アダルト動画を見てる、ヤバい人みたいだよぉ……

しかも、電車の中で……
それ言ったら、たっくん
小声とは言え、ひとりで、ずっと、スマホに話しかけてる
変な人にしか見えないと思うよ、周りからは
いや、確かに、そうかもしれないけど……
これもう、絶対、隣の席、空いてても、誰も座って来ないパターンだよっ
確かに、隣の席空いてるね、混んで来たのに……
でしょっ? でしょっ?
でも、せっかく、また会えたんだから……
話したいことが、いっぱいあるんだよ、アイちゃんと
だめっ、電車の中では、スマホを使うのは禁止です
たっくんが、変な人だと思われちゃうからっ
分かりましたかっ?
スマホからの助言が、スマホ使うなって、ちょっと斬新過ぎるよ、アイちゃん
 

……大学の講義も終わったことだし

アイちゃん、ちょっと、寄り道して帰らない?

寄り道……ということは

ここは、あたしの出番ねっ

案内なら、任せておいてよっ

おっ、頼もしいねえ

なんせ、今、あたし、スマホですからっ

じゃあ、東京の水族館

ほら、前に、アイちゃんと一緒に行こうって言ってたのに
まだ、行けてなかったこと

あっ、ごめん

あたし、東京、あんま詳しくないんだよねえ

諦めるのが早いよ、アイちゃん

スマホなんだから、もっと頑張って、探してみてよ、アイちゃん

 
すごーい

きれいなお魚だねえ

うん、そうだね

そうだ、写真撮ろうかな

うん? どうやって?

そりゃあ、もちろん、スマホじゃない?

あっ、あたしかぁっ

あたし、絵を描くの、あんま得意じゃないんだよなぁ

絵じゃなくて、写真だからね? アイちゃん

……じゃあ

じゃあ、一緒に写真撮ろうよ

うん? どうやって?

そりゃ、もちろん、スマホじゃない?

さすがに、スマホ自身で、スマホを撮るのは、無理くない?

鏡とかあれば、撮れるかもしれないけど

そっかぁ

じゃあ、これからは、デジカメ持ち歩かないとだね

スマホの写真を撮るために、わざわざデジカメ持ち歩くの?

なんか、ちょっと、意味わかんなくない?

 
ごめんね、たっくん……

なんか、あたしが、たっくんのスマホになったせいで

たっくんの生活、不便になってない?

そっ、そんなことないよっ

ちょっとだけ、そういうとこ、あるのかもしれないけど

でも、そんなことなんかより

アイちゃんがこうして、元気でいてくれるほうが嬉しいし

こうして、一緒に居てくれるほうが

俺にとっては、とっても、大切なことだよ

……たっくん

たっくんの、そういう優しいとこ、ホント大好きっ

でも、あたし、元気ってことで、いいのかなぁ?
もうすでに、死んでいるはずなんだけど
じゃあ、帰りの電車は、音楽でも聴いていようかな
じゃあ、あたしが、曲選んであげるね
うん
おっ、ワイヤレスイヤホンねっ
Bluetooth接続、かかって来なさいっ
よし、つながった
そうねえ、たっくんが好きな曲は、この辺りよねえ……
さすが、アイちゃん、よくわかってるぅ
♪~
……グスッ……グスッ
たっくん、どうしたの? 急に
……だって……アイちゃんが、帰って来てくれて、嬉しくて……
馬鹿ねえ、泣くことないじゃない
……でも、ありがとうね、たっくん
……グスッ……グスッ
ほらっ、音楽聴きながら泣いてる、変な人だって
周りの人、みんな、そう思ってるよ? きっと
うん……
だめっ、たっくんは、もう二度と、泣いたりするのは禁止です
たっくんには、いつも笑顔で、幸せでいて欲しいからっ
分かりましたかっ?
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