もんだいへん

文字数 2,287文字

 神戸のとある私立高校にて古典部部長をしている女子高生の千田エルですこんにちは。今日はみなさんにですね、ある作家さんの作品についてかたらせてもらいたいと思うとるんです。京極夏彦。そう、あの映画とかにもなってる人気作家。実はわたくし、この方あんまし好かんかったんです。ファンの人らには申し訳ないけれど、しゃあないっちゃしゃあない。なんでかっちゅうと、話せば長いんですけど、かいつまんで言うと、うちは土方歳三の大ファンなんですわ。関係あらへん? いやいや、まあ聞いてください。わたくしがどんくらい土方様が好きかと言うと、単身で多摩、会津、函館まで足を運んでわちゃわちゃするくらいですよ。京都? そんなん庭みたいなもんどす。それが京極夏彦とどう関係すんねん思う方もいらっしゃるでしょう。中にはピンときた方もおるかもしれません。そう京極夏彦の『ヒトごろし』っちゅう歴史小説。これが新選組の話なんですよ。なんですけど、今までの新選組とは全然違う。解釈違い、言いますの? まあ何でもええんやけど、わたくしの敬愛してやまない土方歳三がなんと、人殺し大好きお兄さんにされてしもとるんです。それを聞いた時は京極夏彦死すべし思いましたね。うちが人殺しになるとこでしたよ。とは言え、一方聞いて沙汰するなとは大河ドラマで宮崎あおいちゃんも言うてましたね。あれ、DVDで観ました。読まずにぎゃあぎゃあ言うのも悪いなと反省して、図書館で借りて読んだんです。そしたらもう手のひらくるっくる返し。あっという間にのめり込みました。ただただ人殺したいだけの土方歳三とか胸糞悪いと思ってたんに、なんでか知らんけどめっちゃ魅せられたんです。その他の面々も、まあよくもここまでと思うくらいにひどいキャラ設定。それが何故か嫌いにならへん。人間的魅力ってほんまに多面的なんやなあと感心さえしましたわ。
 そしたら今度は京極夏彦自身が気になって気になって、わたし気になります、みたいな感じになってもうたんです。ただ一つネックなんは、この人の小説どれもこれも分厚い。土方歳三は元々好きやったからええんですけど、それ以外の小説って何をきっかけにして読んだらええんかなって。そんな時に見つけたんが『滑瓢の鯰絵』。みなさんこれ読めます? て言うか、けっこうマニアックやからファンでも知らん人多いかもしれへん。「滑瓢」て書いて「ぬらりひょん」って言うんですよ。瓢箪鯰(ひょうたんなまず)みたいに掴みどころがないってのでこういう字を書くみたいですね。鯰絵ってのは文字通りナマズを描いた絵のこと。江戸時代に地震を起こしたのはこいつや言うやつ。で、たまたま『ぬらりひょんの孫』ってアニメを小学生の時に見てて、けっこう好きやったんです。そんならこれも楽しめるかもしれんと思って読んでみました。残念ながらぬらりひょんは登場しませんでしたけど、代わりにめっちゃかっこいいキャラが出てくるんです。江戸時代以前の古書しか扱わない古本屋の店主が主人公でね。全然売れない店やのにどうやって食べていけてるんかが謎で、最初はなんや頼りない雰囲気醸しとるんです。その古書店に鯰絵が売りにこられるんやけど、その来歴を調べていくと不思議なことに最近起きたばかりの事件へと繋がっていく。過去と未来の境界線が曖昧な感じですっごく読みにくいのに、なんでなんやろ、全然ページめくる手が止められへんかった。最後はネタバレになるから言われへんのがすっごい残念なんやけど、もっかい最初から読み返したくなるオチでしたわ。一行一行、ああなるほどそういうことやったんか、って思わず笑ってまう。
 二作続けて個人的にヒットしてしまうと、後はもう京極夏彦なら何でもええから持ってこいの精神ですわ。今度は本屋行って、初めて買いました。それが『虚談』です。これもまた『滑瓢の鯰絵』みたいに、つかみどころがない。嘘と本当の境界線上を行ったり来たりする。これはもう名人芸やなと。後から調べて知ったんですけど、京極夏彦はあの世とこの世の橋渡しみたいな作品を作るのが上手なんですね。それが『滑瓢の鯰絵』やと過去と未来、『虚談』やと嘘と本当になる。一つの得意技の応用がめちゃくちゃ上手いんです。『虚談』は短編小説の連作で、実話怪談風。語り手になってる【私】はたぶん京極夏彦自身の投影なんかな。本好きで、仏教好きで、イラストレータ養成学校にも通ってたとか。全体的にめっちゃ怖いってわけでもないんやけど、ぞわぞわするっちゅうか、ちょっと不安になる感じがする。割と人を食ったような話ばっかりなんで、名探偵が快刀乱麻を断つみたいな話を期待するとちょっと微妙かも。
 という感じでわたくしの京極夏彦書評はおしまいです。「散策」と「三作」をかけてたんですが気づかれました? いや、しょうもない言わんといてや。これでも一所懸命に考えてみたんやから。てかこう言われたら一つ疑問が湧いてきません? あれ、興味ない? いやいや、せっかくここまで読んでくれたんですから、もうちっとばかしお付き合いくださいよ。花の女子高生ですよ? ぴっちぴちですよ? おっさん臭い言われても知りませんて。「ガタリ」って何でカタカナなんかな思うでしょ。まあ、ひらがなでも良かったんですけど、こっちの方が格好いいかなって。そんで普通は「語り」やと思うはずなんですけど、実は「騙り」の意味も掛けてるんです。はい、実は嘘をつきました。さて問題です。いったい、わたくしはどんな嘘をついたのでしょうか? 京極夏彦ファンなら分かって当然の嘘なんですわ。
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