2021年10月 いやな報せがやってきた

文字数 2,402文字

オリンピックが去った後でも街はいつまでも暑く、体温調整機能のイカれてしまった私はちょっと出かけると水浴びしたように大汗をかいて、家に戻る度にシャワーを浴びて着替えるという面倒くさい日々が続く。夏のいいのは朝一番で洗った洗濯物が午前中に乾いてしまうことだ。一日2回のサイクルで洗濯ができるのをいいことに、家中のものをひっぺがして洗濯してはベランダに干しているうちにようやく夏が終わった。
ここ数年は猛暑が続いており、影が伸び日が沈む時間になっても、かつてのような爽やかな夕暮れ時はもはや期待できそうにない。新型コロナウイルスに罹患して命を取られるよりも、この暑さで消耗し、干からびて死ぬ方がアリな気がして恐ろしくなるような夏であった。

それにつけてもワクチン接種が普及したにも関わらず、相変わらず感染波というものは定期的に訪れるのが不思議といえば不思議だった。やはり接種したからといって感染しないわけではない、ということを裏付けているとも言える。NHKの編集している2020年の2月から2022年10月までの感染者数グラフを見ると一定のリズム感をもって波がやって来ているのが眼に見える。それに伴って国内の新型コロナウイルスによる1日あたりの死亡者数も似たような波形を描いている。特筆すべきは2022年に入ってからの感染者数と死亡者数の増加で、2021年に開始されたはずのワクチン接種をもってしてこの勢いである。あるいは「ワクチンがあったからこの程度で済んだのだ」という見方もあるかもしれない。

素人ながら不思議に思うことは、新型コロナウイルスの死者数の多さである。ウイルスというものは自分だけでは増殖することができない。必ず誰かの中に入り込んだうえで増殖していくはずである。となると、宿主を殺してしまうのはあまりに非効率的だ。発症しない無症状感染なら罹患者は無意識のうちにウイルスを増殖させ、日常生活の中で市井に拡散させ、容易に仲間を増やしてゆく。しかし劇症化を起こせば宿主が動けなくなり、その時点で増殖のチャンスは減っていることになる。
自然界の進化の歴史を凝縮して見るようなスピード感をもって変異株というものが発生するのを目の当たりにしてきた私は、驚きながらもウイルス自身が生存戦略をかけて自らのバリエーションを増やしているように感じた。どうすればこの世界にアジャストして生き延びることができるかと、ウイルス自身が試行錯誤しているように思えたのだ。

もしそうだとすればこの先予想される状況は決して暗くはない。いずれウイルスはどこかに落とし所を見出すであろう。宿主を殺してしまうまではいかない程度に弱毒化されたウイルスが、結局のところ覇権を握るはずだ。つまり我々にできる対策は、スペイン風邪というパンデミックが季節性感冒インフルエンザとして定着したのと同じように、ウイルスの毒性がその段階に落ち着くまでの間を、いかにしてやり過ごすべきかということに集約される。他者との接触を極力控えることで感染を防ぎ時間を稼ぐしか方法はない。ワクチンが感染それ自体を防いでくれるというなら有効な一手になろうが、どうやらそうではないらしいことは、日本に先立って接種が始まった欧米諸国を見ればわかる。ワクチンの基本的な効能は、あくまでも劇症化予防だと認識するべきなのかもしれない。

接種券が届いて5カ月が過ぎた11月になっても、私はワクチン接種の予約をする気になれなかった。生来ものぐさにできている性格が何よりの理由であり、電話して予約して接種しての流れがひたすら面倒だったというに過ぎない。そしてさらに私の行動を鈍化させたのは「追加接種(3回目)のおしらせ」というアレであった。
6〜7月に接種した人の追加接種がこの秋口から始まり、行政はしきりに「そろそろ効果が切れますから3回目の接種をしましょう」という告知を出していた。メディアはすっかり3回目接種についての話でもちきりで、今更「はじめてなんですけど接種したいです」という人についてはあえて何にも申しません、という印象だ。ただでさえものぐさな私が自ら役所に電話して、「あのう、今から1回目の接種をしたいんですけど」と聞くのが憚られるほど、世間は「3回目行ってみよう!」ムードになっている。すっかり時流から取り残された感があるが、それほど焦りを感じないのは接種してもしなくても、感染する時は感染する、という妙な腹のくくり方が出来ていたからかもしれない。「えー、でもー、発症が防げるかもしれないしー、接種すれば劇症化しないで済むんだよー?」という天の声も聞こえなかったわけじゃないが、それより何より、「じゃあ、いつまで接種し続けるの?」ということの方が気にかかった。

数カ月経てば効能が切れてしまうワクチンをこの先当分の間、年に何度も接種し続けるなんて考えただけで気分が悪くなりそうだ。おまけにその度に副反応で熱が出ただの腕が腫れただのと体調不良に見舞われるなんて割が合わないにも程がある。そう考え始めたら面倒を押して電話で問い合わせしてまで接種する気も起きなくなってきた。無料のうちに接種しておけという論調もあるが、勘違いしてはいけない。ワクチンだって製薬会社から税金を使って購入しているのだ。決して安くはないであろうそれを、冷蔵管理を失敗したばかりにいくつもゴミにしたそれも、自分らの支払った税金で購入されたものだ。だからこそ自分にも接種の権利はあるのだという向きもおられようが、権利の行使はあくまで自由意志に任されたはずだろう。

「隣の人はワクチンを接種していますか」「健康なのに接種しないのは非国民」「すすめ一億ワクチンだ」

そんな空耳にも(もちろん空耳ですよ。ええ)揺るぎようがないほどの「ものぐさの真髄」を極めた私の元に、嫌なニュースが届いた。伯母が肺がんに罹ったというのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み