5 不信感

文字数 722文字

次の日の早朝に出発した一行は、ようやくオアシスに辿り着いた。
一面砂の世界だったのが一変、そこには小さな湖があり少しばかりだが木も生い茂っていた。所々だが、商人達がテントを広げて物を売っている。売っている者は奇妙で店主たちは愛想が悪かったが、メルはアイサイ公国を思い出さずにはいられなかった。

にぎやかな路上、そこで天幕を広げて商売をする気さくな店主達、出会うたびに声をかけてくれる優しい民達……全部失ってしまったけれど。

自分の中で何かがこみ上げてくるのを感じた。

過去は振り返らないって決めたのに。あの時、私は新しい一歩を踏み出した……はずなのに。

この理解出来ない感情にメルは戸惑った。
その戸惑いはナサにも伝わっていたのだが、やはりなんと声をかければ良いのか分からなかった。
ルシファは知り合いがいるから少しここで待っていて欲しいと言い、多数あるテントの中の一つに入っていった。
ルシファが離れた隙にナサは昨晩の彼の様子がおかしかった事をメルに言おうか悩んでいた。
いつもだったら、すぐに告げていたかもしれないだろう。そして、目を盗んで逃げきっていたはずだ。しかし、今の状況ではそれが何になるのか。そもそも、そんな事が出来るのならナサなら最初から誰も頼ろうとはしなかった。怪しくてもそれでも砂漠を熟知している彼についていくしかない。
ナサは自分の無力さを嘆いた。

どうしていつも大切なものを守れないのだろう。
あの時、私だけが死ねば……。

ナサは何度も過去を思い出し苦しんでいた。
そうこう各自が思いにふけっているうちに、ルシファがテントから出てきた。
大柄な二人の男を背後にしたがえて。
「ルシファ、その人達は?」
とメルが尋ねると、ルシファはあの満面の笑みを返した。
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登場人物紹介

メル(13) 出身:アイサイ公国


アイサイ公国の皇女。


自然を愛する心優しい少女。天然ボケな一面も。

一般常識をあまり知らない。

恐怖心を持つ事はあまり無く、動揺する事も少ない。

常に開放的な心の持ち主で相手の心を誰よりも理解し、寄り添う事が出来る。その為か、人に好かれやすい。


水を自由自在に操る力、水術《ウォーリアン》は、まだ見習い中。


……。

ナサ(20) 


メルの侍女。

冷静沈着で物静か。感情をあまり顔に出さない。


自分とは真逆のメルを心の底から尊敬しており、守りたいと思う。

仮面の少年 (推定10代)


平和な国、アイサイ公国に現れた謎の少年。

白い装束の軍隊を引き連れている事から、上の身分と推測される。


彼の目的とは……。

謎の少女


メルの夢の中に出てきた黒髪の少女。

アイサイ公国の服を着ているが……。


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