取引

文字数 1,289文字

呼び出したのは君か?
放課後、人目の付かない校舎裏に俺は影山さんを呼び出した。
直接伺っても良かったんですが、練習中は女人禁制でしょう?
呼び出されても困る。

休憩中とは言え、女子生徒と会っていることがバレたら士気に関わるからな。


用件は何だ?

微塵も動揺しないんですね。
思った通りの反応で良かった。
俺は女が嫌い、もしくは苦手だという噂が立っているらしいな。


そんなつまらないことを試すために呼び出したんならもう関わらないでくれ。

試すようなことをしたのは謝ります。
ですが目的は違いますよ。
二重の意味で。

俺のこの姿が影山さんにどう映るか、泰陽だと気付かれないか確かめるため。
そしてもう一つは……
私を野球部のマネージャーにして欲しいんです。
……ダメだ。


女のマネージャーは入部させるわけにはいかない。

すまないな。

……どうして女人禁制にしているか、知ってますよ。
立ち去ろうとした影山さんの背中が固まる。

これは野球部と学校側の人間しか知らない秘密だ。
しかしそれすら偽装で、本当の意味は俺と影山さんしか知らない。
まだ気付きませんか?

私は泰陽の双子の姉、夏月ですよ。
まさか……竜崎が君に喋ったのか?
いいえ。

でも知らないわけないでしょう?
ずっと同じ屋根の下で暮らしてきたんですから。
脅すつもりか?
違いますよ。

むしろ応援したいんです。


弟は今、事故の後遺症で魔球を投げたくても投げられません。

そう言えば記憶も欠落してると言ってたな……
それに……先輩やチームに心配をかけまいと、負傷してるのを隠してます。

わざわざ私とペアルックにしてまで。
お揃いのリストバンドを見せる。
でも安心してください。

甲子園までに完治しますから。


問題は予選です。

本調子でないことを悟られるわけにはいきません。

切り札は使えなくなっても、隠し持ってると思わせておく必要があります。


先輩だってもう魔球を使わせたくないでしょう?

やっぱり知ってるんだな、君は。

女人禁制のことも、魔球の秘密も。

敵やバカなチームメイトに悟られないよう秘密にしながら勝ち進むには、二人に頼らなくても勝てるようにチーム全体の変革が必要です。


これ、皆さんの日頃の練習をこっそり分析して、私が立案したトレーニング計画です。

これは……よく見ているな。

立て直しが必要なら、俺もこれに近いことを考えていたかもしれない……。


君の力が確かなのは分かった。


しかし学校側にはどう説明する?

部員のように単純じゃないぞ?

いいえ、単純ですよ。
キャプテンの許可が下りれば好きにしていいって言ってました。

顧問の先生にもさっき話をつけましたし♪
凄いな君は。


その行動力、竜崎――いや、泰陽そのものだ。

(ぎくっ)

ま、まぁ双子ですから……。
むしろ俺の方から頼む。


竜崎さん、俺達のマネージャーになってくれ。

俺達には君のような味方……いや、共犯者が必要だ。

罪悪感などとっくに置き去りにしている。

良心が残っていたら俺はあの時……とっくに野球を辞めているのだから。


止まるわけがない、止められるわけがない。

俺はこの人に野球を続けて欲しいんだ!


そのためだったら俺は自分の野球人生がどうなろうと構わない。

喜んで悪になってやる。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色