エピローグ
文字数 453文字
「起きて優利くん。もう点滴終わってるよ」
看護師さんの声は日だまりの小鳥のようで、目を覚ますには少し耳障りだった。
窓の外の、本物の景色は相変わらず、夕方の五時だというのに真っ暗だ。窓は空いていないが、冷気が部屋に染み渡るようだった。
治療室を出ると、お母さんがそそくさと財布を取り出して今回かかるであろう治療費の工面をしている。その万札の一つを借りてタクシーに乗ろうなんて考えはあっけなく吹き飛んだ。
「ほら、今日は入院しなくて済んだんだから、靴を履き替えて」
手渡された運動靴にスリッパから履き替える。当然、僕はパジャマなんかじゃない。だけど、会計に呼ばれて席を立ったお母さんの手提げ袋に、パジャマが入っている。
入院していたかもしれない。この次に病院にきたときには、手術を言い渡されるかもしれない。
とてもじゃないけど、美花ちゃんを追いかけて塾に乗り込むほどの度胸はない。
手提げ袋に僕のスマホも入っていた。やはり今日もメールはない。
画面の窓に、〇〇ちゃんと遠い日の△△くんが並んで笑っているだけだ。
看護師さんの声は日だまりの小鳥のようで、目を覚ますには少し耳障りだった。
窓の外の、本物の景色は相変わらず、夕方の五時だというのに真っ暗だ。窓は空いていないが、冷気が部屋に染み渡るようだった。
治療室を出ると、お母さんがそそくさと財布を取り出して今回かかるであろう治療費の工面をしている。その万札の一つを借りてタクシーに乗ろうなんて考えはあっけなく吹き飛んだ。
「ほら、今日は入院しなくて済んだんだから、靴を履き替えて」
手渡された運動靴にスリッパから履き替える。当然、僕はパジャマなんかじゃない。だけど、会計に呼ばれて席を立ったお母さんの手提げ袋に、パジャマが入っている。
入院していたかもしれない。この次に病院にきたときには、手術を言い渡されるかもしれない。
とてもじゃないけど、美花ちゃんを追いかけて塾に乗り込むほどの度胸はない。
手提げ袋に僕のスマホも入っていた。やはり今日もメールはない。
画面の窓に、〇〇ちゃんと遠い日の△△くんが並んで笑っているだけだ。