マーク

文字数 713文字

 とても美味しいお寿司だった。
 食事の後、新一は松子さんから昔の話を聞かせて頂いた。
 長野での生活、ご主人との出会い。そしてあの手紙を受け取った日の出来事。その日は秀美ちゃんの1歳の誕生日だった。大きな衝撃を受けたという。だが、直ぐにその事を忘れてしまった。母の美代子さんにもそう言われたのだそうだ。直ぐに忘れてしまう。そして時がくれば思い出すと。
 他にもわかった事がある。床枝という苗字の由来だ。松子さんの夫である猛さんは育ての親の性ではなく、自分を捨てた母親の性を受け継いでいた。比較的珍しい苗字であった為、もしかしたら、いつか母親に逢えるかもという期待をもってのことだったという。結局、その期待は叶わなかったが、床枝という性は受け継がれた。苗字一つとっても、複雑な歴史が絡み合っているものだ。
 更にもう一つ。話をしているうちにわかった事なのだが、マークだ。昨日、飛行場の中で出会ったあのアメリカ人のおっさん。マークは新一に自分の祖父が助けたという日本兵の話をしてくれた。その助けられた日本兵というのが、松子さんの夫である床枝猛の育ての親だった。松子さんが36歳の時、義父を連れて渡米し、マークの家族に会っていたのだ。
 歴史とは、かくも不思議なものである。ひょっとしたら、すべて仕組まれていたのかもしれない……何処か一つ間違ってしまうだけで、その後が大きく変わってしまう。
 新一が体験したこの不思議な出来事は案外、世界のいたるところで日々起きているのかも知れない。
 マークとの約束の日には是非来てくれと、松子さんは言った。勿論、新一も彼にまた会いたかった。近い将来、彼にはグランドキャニオン上空を飛んでもらわねばならない。

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