間奏Ⅴ 喋る猫

文字数 818文字

 ぐっすりと一時間も眠ってしまいました。おかげで、もういちど朝を迎えたような、すがすがしい気分です。思ったとおり、たまには外で眠ってみるのもわるくありません。体を起こして、家と庭の様子を一望しました。「おはよう」と家が笑ってくれたような気がします。「よく眠れたかい?」 わたしは毛布をかぶったまま裸足で草のうえを歩き、玄関の扉を開けました。ただいま、と言いました。
 食堂の鳩時計が元気にぽっぽうぽっぽうと鳴きました。ちょっと早いけど、お茶にすることにしました。そのあいだ、鉱晶(こうしょう)ラジオでなにか聴いてみようと思いつきました。いつもは壁にかけてある四角い箱型のそれを、慎重に降ろして居間の出窓に置きました。そしてダイヤルを回して、なにか興味をそそられる番組がないか探します。すぐに楽しげな演目に行き当たりました。どうやら、朗読劇のようです。わたしの知らない物語だけれど、一人の年取ったおばあさんと、一人の幼い男の子が、なにやらパーティの準備にいそしんでいる場面のようです。二人の愉快なやり取りを聴きながら、わたしは紅茶を淹れました。
 すっかり支度ができて、すべてをお盆に載せて居間へ戻ったその時、三人目の登場人物がとつぜん現れました。甲高い声で(しゃべ)る若い女の人でした。彼女はおばあさんと男の子のあいだに割って入って、あれやこれやと突拍子もないことをまくしたてています。わたしはラジオを見やって、それから一人で大笑いしました。この丘に暮らすたくさんの猫たちの一匹が、いつのまにかうちのなかに入り込んでいたみたいです。毛の長い大柄のその猫は、なんとラジオのうえに居座(いすわ)っているじゃありませんか。ふさふさとした黄色い毛に覆われて、ラジオの本体がほとんど見えないくらいです。猫は熱心にぺろぺろと、自分の肉球を()めています。その口の動きが、新たに登場した女の人の声とぴったり合っているように見えて、可笑(おか)しくてたまりませんでした。まさか、喋る猫がいたなんて!
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