2020年7月 そうして事故がやってきた

文字数 1,571文字

7月2日の日記には「患者またまた100人越え」と書いてある。あの頃ニュース番組は、天気予報みたいな地図の上に、各県が把握している一日の感染者数と、入院者数を載せて毎回報道していた。それを見ての感想なんだろう。それが23日の記述は「1日の感染者が300人になった」とある。波を少しずつ高くしながら、繰り返しやってくる流行。実質的にコロナ元年となった2020年にはまだ治療や対処法も確立されておらず、ワクチン接種も始まっていなかった。私のような一般人のできる対策は限られている。なるべく人混みを避け、会食等は控えてマスクを着用し、手洗いを励行する。食事と適度な運動で、体調管理を十全にする。もともとが人混みや行列が苦手だし、幸にして毎朝通勤しなくてもいい身の上になったので、留意すべきことの半分は自動的に達成されている。マスクはとりあえず実家から送られたもので十分な余裕があった。当時まだワクチンは認可されておらず、そういう意味では対策もシンプルで済んでいた。

日々は粛々と過ぎていき、気温が高く蒸し暑い夏がきても、とりあえず誰もが人のいる場所ではマスクを着用した。もはやマスクはパンツと同じだと某有名芸能人が発言し、事実上マスクがなければ外出は不可能となった。政治家が各人手作りのマスクをした記者会見の映像が流れない日はなかったが、例のマスクをつけていらっしゃるのは作成を命じたご本人だけだった。

しかしコロナもしんどいのだが、ここ数年の夏の異常な暑さは、今年ももれなくやってきて、加えてマスクは手放せない。蒸し器で蒸されるシウマイの気持ちを味わううちにその日はやってきた。家人が交通事故をおこしたのである。
ここでいう事故は一般的なものとは違う、いわゆる「車内事故」というものだ。
家人は路線バスの運転手をしており、その日夕方の便に乗務していた。バス停に着いて客を乗せ、発車した際に立っていた乗客がバランスを崩し転倒したという。幸にして大きな外傷などは見当たらなかったが、高齢者なので念の為にと救急車を呼ぶことになった。こうなるとバスはその場で停車しなければならない。営業所へ連絡して代わりのバスを手配し、警察の到着を待つのだ。そういうわけだから帰宅が遅くなるよと連絡があり、転んだ方には失礼な話だが、とりあえず死人が出るような大事故でなくて良かったと安堵した。

この職業は一瞬の事故ですべてがご破産になる、大変リスクの高い仕事であることは、従事された方やご家族はよくご存知だろう。バス会社の中では営業所ごとに発生した事故事例が共有されており、度重なる事故を防止するために何をすべきか、常に対策を問われている。同じ営業所のバスでも路線によってリスクの差はあれど、バスが安全に走れる所など、都内にはほぼないと言っていい。それどころか過去10年で比較しても、今ほど道路交通状況が悪化している時はない。

一人一台スマホが普及し、あれほどやめましょうと呼びかけられても歩きスマホは止まらない。いい大人が取引相手の会社訪問に、スマホ片手に地図アプリを見ながら歩くことをやめられない。子供は子供でポ◯モンGO大流行を受けて、フラフラと車道に出たり交差点内に留まったりしてしまう。ここ数年で爆発的に増えた電動アシストつき自転車の登場で、バイク並みの速度でバスの横をすり抜ける自転車も増えている。加えて乗客の高齢化が加速しているのは、高齢者の運転する事故が多発しているのを受けて、バス路線がある都市部で免許返納の機運が高まった、時代の要請というべきかもしれない。

ドライバーはバスの前後左右、そして車内にも今まで以上の留意を迫られる。何も起きない方が不思議というものだ。そしてつい2カ月前、無事故10年を記念して会社から褒賞を受けたばかりの家人にも、それは起こるのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み