異能者組織《鷹宮》
文字数 3,002文字
「っ……!?」
ヒラリと少女の前髪が靡き、隠れていた右目が露わになる。見えたのは、光に反射して紅く輝いている瞳だった。
ほんの一瞬の出来事だったが、すぐさま事態を理解した。それ故に、あの少女には聞かねばならない事が出てきたのだ。
……まぁ、それも──
「貴方たちを処理してからの方が、効率がいいかな」
遠のいていく足音を聞き留め、折りたたみ式ナイフを構えている二人の男を見据える。
素手に対し、あちらは武器。こちらの圧倒的不利と普通は思うだろうが、そもそも普 通 じ ゃ な い 人間に絡んだのが運の尽きだ。
そう胸中で毒吐きつつ──バッ! 足元にある砂を蹴り上げ、相手の意識を逸らし、視界を奪う。
近付くのはあからさまに自殺行為だと考え、蹴り上げたと同時に手頃な大きさの石を二つ手に取った。勿論、ナイフの間合いに入らぬように距離を取って。
「テメェ……何すんだよ!」
「あまり騒がない方がいいよ、警察呼ばれるかもしれないからね。……それに、『短気は損気』って言うだろう? 焦りは敗北の原因だよ」
「うるせぇッ!!」
砂埃を払いながら、入れ墨の男が叫んだ。
完全に激昴し周りに気を配れなくなったであろう時を見計らって、俺は手にしていた石を、ナイフを構えて駆け始めた入れ墨の男と続けて駆けてきたピアスの男へ向けて放つ。
無論、ただの石ではない。俺の──忌み子特有の──持つ『万能』の異能によって改変された、ラ イ フ ル 弾 の 如 く 速 さ を誇る石だ。
「痛ッ……!」「うぁッ!!」
鋭い風切り音と共に二発の銃弾 は彼等の股関節へと着弾し、同時に悲鳴が上がる。
見れば、二人は痛みに耐え切れず、ナイフを手から放りつつ地面に手を突いていた。
本来石が持つべきハズではない運動エネルギーが人体急所へと当たったのだ。痛いに決まってる。その硬度も相まって、余計に。
しばらくは激痛で動けないだろうと読み、踵を返して始めのベンチへと向かい、ビニール袋を忘れずに持ってから公園の出口へと歩いていく。
俺が逃がした少女を探す為に。彼女には色々と聞きたい事が増えたのだ。
「あ、あの…………」
「どうやら、探す手間が省けたっぽいな。……ちょっと来て。話がある」
入り口付近の電信柱に身を隠すようにして立っていた少女は、俺を見つけるやいやな声を掛けてきた。
探す手間が省けてラッキーなのは変わらないが、俺の胸には言い知れぬ不安感と焦燥感が募りに募っている。早めに解決したいところだ。
「え、話……って?」
「いいから少しだけ話をさせて。俺の家でもいいし、失礼ながら君の家で話をさせてもらってもいい」
我ながら何をおかしな事を口走っているのだと問いたいが、今はそれどころではない。知りたい事が、確かめたい事が多いのだ。
「じゃ、じゃあ……貴方の家で、構いません、か?」
僅かに恐怖の念が篭った声色で返答する少女だが、ここは先の為にも俺が無害だという事を少なからず分かってもらおう。
「勿論、構わないさ。……いやなに、襲ったりしない。誘拐なんて事もしないよ。安心して」
言い、笑顔を向ける。
それを見て少し安心したのか、少女は俺が手にしているビニール袋を指さして、
「これ……持ちましょうか?」
「あ、あぁ。助かるよ。ありがとね」
「いえいえ──わっ、と!」
「あちゃー……」
任せて渡しちゃったはいいものの、予想以上に重かったらしい。
「やっぱり俺が持つよ」と言って、足早に遅い家路を辿ったのだった。
「……あっくん、遅い!」
「……ごめんなさい」
フローリングの上で正座している俺を見下ろして腰に手を当てつつ叫んでいる彼女は、神凪鈴莉 。俺の幼馴染だ。
腰まであろうかという白菫色──白にほど近い紫色──に、双方ヴァイロレット色の瞳。白い肌は荒れ一つ無く、まさに健康そのものだ。
……それだけでは鈴莉の魅力は収まらない。
一言で表すならば──ロリ巨乳だ。以上。異論は認めん。
言ってしまえば、鈴莉が話す度に二つのたわわなお胸様が揺れるので、目の保養になるわな。その素晴らしさたるや、国宝級である。
──閑話休題。
目を移せばリビングの隅にはトランクが置かれており、どうやら鈴莉が家に移住するというのは本当の話らしい。ここについても後で詳しく聞いておこう。
「で、何で遅れたの? この女の子と何か関係があるの?」
「残念ながら、大ありだ。詳しくは省くけどな。……ほら、君もいつまでもそこに居ないで、こっちにおいで」
俺が鈴莉に正座された時から彼女は廊下へと続くドアの前で俺を見ていたワケだが、キチンと話をする今、隣合って話さなければいけない。
移動してソファーをポンポン、と叩く俺に鈴莉は俺の頭を恨めしげに軽く叩き、興味津々といった様子で少女の隣へと座る。
……さて、
「定番だけれど、名前を聞いていいか? 名前を呼べないのは何分不便なモノでさ」
「あ、はい。えっと、天音 といいます。鷹宮天音です」
鷹宮という姓に意識が向くが、恐らく同姓というヤツだろう。
この名前はそんなに珍しくない。寧ろ、多いと思えるほどだ。
「うん。……俺は鷹宮蒼月で、こっちが神凪鈴莉だ」
「よろしくね~」
初対面にも関わらず気安く声を掛けれる鈴莉のコミュ力に少しばかり感心し、本題へと──聞きたかった事へと──入る。
「勢いで連れてきちゃったようなモノだけれど、二つほど質問をするよ。……一つ。家族が亡くなったんだよね?」
「……はい。父母と妹との三人暮らしでしたが、訳あって離婚してしまって。その妹も数年前に事故で死んじゃって、母も病気で死にました。数週間ほど前の事です」
「そうか……。それは災難だったね」
目尻に涙を溜めて弱々しく語る天音を見て、こちらも心が痛む。
この時期に唯一の家族を亡くすとは、何とも哀しい出来事だ。見ず知らずの人間とはいえ、こればかりは共感出来る。
そして次に問う言葉が、本当の意味での、本題だ。
「じゃあ、二つ。その右 眼 は──何だい?」
「……っ! 見られて、ましたか……」
この反応。間違いない。もしやと思ったが、思い過ごしでは済まないようだ。
天音は自身の右眼にそっと手を当て、小さく呟く。
「……忌み子、です」
呟き、右眼に掛かっている前髪を手で払う。
そして見えたのは、公園で見たのと全く同じ、紅い瞳。茶と紅のオッドアイ。
間違いない、忌み子の象徴だ。
「奇遇だな」
「……え?」
俺の発言を妙に思ったのか、小首を傾げている天音。そんな彼女に向けて、俺は左眼に装着していたカラコンを外す。
……家族以外の人前で外すのは初めてだ。そう思いつつも、躊躇い無く外した。
そして、露わになる。左眼の蒼い瞳が。
「茶と蒼の、オッドアイ……!?」
驚愕に目を見開く天音に、俺は笑って告げる。
「俺も、君と同じ忌み子であり────そして、異能者だ」
~to be continued.
ヒラリと少女の前髪が靡き、隠れていた右目が露わになる。見えたのは、光に反射して紅く輝いている瞳だった。
ほんの一瞬の出来事だったが、すぐさま事態を理解した。それ故に、あの少女には聞かねばならない事が出てきたのだ。
……まぁ、それも──
「貴方たちを処理してからの方が、効率がいいかな」
遠のいていく足音を聞き留め、折りたたみ式ナイフを構えている二人の男を見据える。
素手に対し、あちらは武器。こちらの圧倒的不利と普通は思うだろうが、そもそも
そう胸中で毒吐きつつ──バッ! 足元にある砂を蹴り上げ、相手の意識を逸らし、視界を奪う。
近付くのはあからさまに自殺行為だと考え、蹴り上げたと同時に手頃な大きさの石を二つ手に取った。勿論、ナイフの間合いに入らぬように距離を取って。
「テメェ……何すんだよ!」
「あまり騒がない方がいいよ、警察呼ばれるかもしれないからね。……それに、『短気は損気』って言うだろう? 焦りは敗北の原因だよ」
「うるせぇッ!!」
砂埃を払いながら、入れ墨の男が叫んだ。
完全に激昴し周りに気を配れなくなったであろう時を見計らって、俺は手にしていた石を、ナイフを構えて駆け始めた入れ墨の男と続けて駆けてきたピアスの男へ向けて放つ。
無論、ただの石ではない。俺の──忌み子特有の──持つ『万能』の異能によって改変された、
「痛ッ……!」「うぁッ!!」
鋭い風切り音と共に二発の
見れば、二人は痛みに耐え切れず、ナイフを手から放りつつ地面に手を突いていた。
本来石が持つべきハズではない運動エネルギーが人体急所へと当たったのだ。痛いに決まってる。その硬度も相まって、余計に。
しばらくは激痛で動けないだろうと読み、踵を返して始めのベンチへと向かい、ビニール袋を忘れずに持ってから公園の出口へと歩いていく。
俺が逃がした少女を探す為に。彼女には色々と聞きたい事が増えたのだ。
「あ、あの…………」
「どうやら、探す手間が省けたっぽいな。……ちょっと来て。話がある」
入り口付近の電信柱に身を隠すようにして立っていた少女は、俺を見つけるやいやな声を掛けてきた。
探す手間が省けてラッキーなのは変わらないが、俺の胸には言い知れぬ不安感と焦燥感が募りに募っている。早めに解決したいところだ。
「え、話……って?」
「いいから少しだけ話をさせて。俺の家でもいいし、失礼ながら君の家で話をさせてもらってもいい」
我ながら何をおかしな事を口走っているのだと問いたいが、今はそれどころではない。知りたい事が、確かめたい事が多いのだ。
「じゃ、じゃあ……貴方の家で、構いません、か?」
僅かに恐怖の念が篭った声色で返答する少女だが、ここは先の為にも俺が無害だという事を少なからず分かってもらおう。
「勿論、構わないさ。……いやなに、襲ったりしない。誘拐なんて事もしないよ。安心して」
言い、笑顔を向ける。
それを見て少し安心したのか、少女は俺が手にしているビニール袋を指さして、
「これ……持ちましょうか?」
「あ、あぁ。助かるよ。ありがとね」
「いえいえ──わっ、と!」
「あちゃー……」
任せて渡しちゃったはいいものの、予想以上に重かったらしい。
「やっぱり俺が持つよ」と言って、足早に遅い家路を辿ったのだった。
「……あっくん、遅い!」
「……ごめんなさい」
フローリングの上で正座している俺を見下ろして腰に手を当てつつ叫んでいる彼女は、
腰まであろうかという白菫色──白にほど近い紫色──に、双方ヴァイロレット色の瞳。白い肌は荒れ一つ無く、まさに健康そのものだ。
……それだけでは鈴莉の魅力は収まらない。
一言で表すならば──ロリ巨乳だ。以上。異論は認めん。
言ってしまえば、鈴莉が話す度に二つのたわわなお胸様が揺れるので、目の保養になるわな。その素晴らしさたるや、国宝級である。
──閑話休題。
目を移せばリビングの隅にはトランクが置かれており、どうやら鈴莉が家に移住するというのは本当の話らしい。ここについても後で詳しく聞いておこう。
「で、何で遅れたの? この女の子と何か関係があるの?」
「残念ながら、大ありだ。詳しくは省くけどな。……ほら、君もいつまでもそこに居ないで、こっちにおいで」
俺が鈴莉に正座された時から彼女は廊下へと続くドアの前で俺を見ていたワケだが、キチンと話をする今、隣合って話さなければいけない。
移動してソファーをポンポン、と叩く俺に鈴莉は俺の頭を恨めしげに軽く叩き、興味津々といった様子で少女の隣へと座る。
……さて、
「定番だけれど、名前を聞いていいか? 名前を呼べないのは何分不便なモノでさ」
「あ、はい。えっと、
鷹宮という姓に意識が向くが、恐らく同姓というヤツだろう。
この名前はそんなに珍しくない。寧ろ、多いと思えるほどだ。
「うん。……俺は鷹宮蒼月で、こっちが神凪鈴莉だ」
「よろしくね~」
初対面にも関わらず気安く声を掛けれる鈴莉のコミュ力に少しばかり感心し、本題へと──聞きたかった事へと──入る。
「勢いで連れてきちゃったようなモノだけれど、二つほど質問をするよ。……一つ。家族が亡くなったんだよね?」
「……はい。父母と妹との三人暮らしでしたが、訳あって離婚してしまって。その妹も数年前に事故で死んじゃって、母も病気で死にました。数週間ほど前の事です」
「そうか……。それは災難だったね」
目尻に涙を溜めて弱々しく語る天音を見て、こちらも心が痛む。
この時期に唯一の家族を亡くすとは、何とも哀しい出来事だ。見ず知らずの人間とはいえ、こればかりは共感出来る。
そして次に問う言葉が、本当の意味での、本題だ。
「じゃあ、二つ。その
「……っ! 見られて、ましたか……」
この反応。間違いない。もしやと思ったが、思い過ごしでは済まないようだ。
天音は自身の右眼にそっと手を当て、小さく呟く。
「……忌み子、です」
呟き、右眼に掛かっている前髪を手で払う。
そして見えたのは、公園で見たのと全く同じ、紅い瞳。茶と紅のオッドアイ。
間違いない、忌み子の象徴だ。
「奇遇だな」
「……え?」
俺の発言を妙に思ったのか、小首を傾げている天音。そんな彼女に向けて、俺は左眼に装着していたカラコンを外す。
……家族以外の人前で外すのは初めてだ。そう思いつつも、躊躇い無く外した。
そして、露わになる。左眼の蒼い瞳が。
「茶と蒼の、オッドアイ……!?」
驚愕に目を見開く天音に、俺は笑って告げる。
「俺も、君と同じ忌み子であり────そして、異能者だ」
~to be continued.