精霊の森
文字数 1,484文字
皇国で一人の姫が王籍を自ら失い、そして彼女に仕えていた金色の魔術士と漆黒の騎士、白の獣がその姿を消した。
それまでも噂の種であった彼らのその後の行方を知りたがる王族貴族一般人は非常に多く、実際にその行方を探そうとする者達は少なからずいたのだが、まるで始めからいなかったかのように彼らの行方が知れる事は無く、物語の終わりのように、その存在はすっかり皇国から姿を消してしまった。
彼らの事が詩人に語られるようになるのはすぐの事で、けれど当事者達はその後、姿を見せる事は無かった。
それと同時期。
とある国の辺境にある、周囲の住民からは精霊の森と呼ばれて畏怖されている広い森の中に建っていた白い屋敷に、此処数年は帰っていなかった主が姿を見せた。
一人で出て行った茶色の髪に赤混じりの紫の瞳をしたその屋敷の唯一の所有者は、帰ってきた時には騒がしいまでに連れを伴っていた。
「うわあ。綺麗なお屋敷だねぇ」
輝く金の髪に、青の瞳を持つ少女が屋敷を見上げて言う。
「こんな森の真ん中でどうやって建てたんだろうねぇ」
茶に近い金髪に、同色の瞳をした青年が、少女の言葉にのほほんと繋げると。
「昔は森ではなかったのかもしれないぞ。森の木が若い」
森の方を見ながら、黒髪に黒目の青年が続けた。その足下には真っ白な毛並みを持つ大型犬程の大きさの獣が佇んでいる。
そんな彼らを連れてきた当事者である屋敷の主は、彼らを振り返って叫んだ。
「はいそこ静かに! 俺の家は俺だけの家じゃねーから!」
そう言った少年の声が一番大きく周囲に響き渡った。
ざわり、とその声に応えるように森が震えるのを、感じ取った連れの三人が神妙な顔をして周囲を見回す。森以外の何が見えるでも無いが、その屋敷の周囲には濃密な『何か』の気配が多数存在していた。
ごくり、と誰かが息をのむ。
そんな彼らの目の前に、すうっと姿が現れたのはその時だった。
黒の執事服に、新緑色の髪と目をした青年が、恭しく頭を下げてアミルの目の前に現れる。
「お帰りなさいませ、アミル」
「おう。ただいま。これから住人が増えるけど、いいか?」
現れた青年にアミルが問うのを、無表情に青年が頷く。
「我らに害が無いのであれば」
仕方ない、とでも言いたげな顔をして青年はそう言うと、彼らに背を向け姿を消してしまう。
見送った方は全員アミルを見た。
少女が興味深げに問う。
「ねぇアミル、今のは?」
「森の精霊。俺を主に育ててくれた精霊でもある。うちの家事の一切はアイツが仕切ってくれてるから、あんまり機嫌を損ねるような事はしないでくれよ」
「へぇ、あれが精霊なんだ。人間みたいだねぇ」
「人間っぽくなってくれてるんだよ、俺の為に」
感心したように頷く金の髪の青年にアミルは教えた。
皇国の話題の主、元王女のサファイアと、金の色を持つ魔術士クリアと、漆黒の騎士イガルドの身柄は、まとめてアミルが自宅に匿う事になった。
どれだけの期間彼らを匿う事になるかは解らないが、精霊の森と呼ばれて、俗世から隔絶されて久しいこの森の中であれば、彼らを匿うには丁度いいという判断だ。精霊達であれば彼らが何者であろうと害さえなければ気にしないという利点もあった。
ここに来るまでには、全員で旅をしようという話もあったのだが、三人共に目立つ外見をしていることからそれは難しいと判断された。
彼らの噂は、今では近隣諸国にまで広まっているのだ。
帰ってきた我が家で、精霊達がざわめいているのを感じながらアミルは、こんなんで静かな生活をしていけるのかと、少しだけよぎった不安に気づかなかった振りをした。
それまでも噂の種であった彼らのその後の行方を知りたがる王族貴族一般人は非常に多く、実際にその行方を探そうとする者達は少なからずいたのだが、まるで始めからいなかったかのように彼らの行方が知れる事は無く、物語の終わりのように、その存在はすっかり皇国から姿を消してしまった。
彼らの事が詩人に語られるようになるのはすぐの事で、けれど当事者達はその後、姿を見せる事は無かった。
それと同時期。
とある国の辺境にある、周囲の住民からは精霊の森と呼ばれて畏怖されている広い森の中に建っていた白い屋敷に、此処数年は帰っていなかった主が姿を見せた。
一人で出て行った茶色の髪に赤混じりの紫の瞳をしたその屋敷の唯一の所有者は、帰ってきた時には騒がしいまでに連れを伴っていた。
「うわあ。綺麗なお屋敷だねぇ」
輝く金の髪に、青の瞳を持つ少女が屋敷を見上げて言う。
「こんな森の真ん中でどうやって建てたんだろうねぇ」
茶に近い金髪に、同色の瞳をした青年が、少女の言葉にのほほんと繋げると。
「昔は森ではなかったのかもしれないぞ。森の木が若い」
森の方を見ながら、黒髪に黒目の青年が続けた。その足下には真っ白な毛並みを持つ大型犬程の大きさの獣が佇んでいる。
そんな彼らを連れてきた当事者である屋敷の主は、彼らを振り返って叫んだ。
「はいそこ静かに! 俺の家は俺だけの家じゃねーから!」
そう言った少年の声が一番大きく周囲に響き渡った。
ざわり、とその声に応えるように森が震えるのを、感じ取った連れの三人が神妙な顔をして周囲を見回す。森以外の何が見えるでも無いが、その屋敷の周囲には濃密な『何か』の気配が多数存在していた。
ごくり、と誰かが息をのむ。
そんな彼らの目の前に、すうっと姿が現れたのはその時だった。
黒の執事服に、新緑色の髪と目をした青年が、恭しく頭を下げてアミルの目の前に現れる。
「お帰りなさいませ、アミル」
「おう。ただいま。これから住人が増えるけど、いいか?」
現れた青年にアミルが問うのを、無表情に青年が頷く。
「我らに害が無いのであれば」
仕方ない、とでも言いたげな顔をして青年はそう言うと、彼らに背を向け姿を消してしまう。
見送った方は全員アミルを見た。
少女が興味深げに問う。
「ねぇアミル、今のは?」
「森の精霊。俺を主に育ててくれた精霊でもある。うちの家事の一切はアイツが仕切ってくれてるから、あんまり機嫌を損ねるような事はしないでくれよ」
「へぇ、あれが精霊なんだ。人間みたいだねぇ」
「人間っぽくなってくれてるんだよ、俺の為に」
感心したように頷く金の髪の青年にアミルは教えた。
皇国の話題の主、元王女のサファイアと、金の色を持つ魔術士クリアと、漆黒の騎士イガルドの身柄は、まとめてアミルが自宅に匿う事になった。
どれだけの期間彼らを匿う事になるかは解らないが、精霊の森と呼ばれて、俗世から隔絶されて久しいこの森の中であれば、彼らを匿うには丁度いいという判断だ。精霊達であれば彼らが何者であろうと害さえなければ気にしないという利点もあった。
ここに来るまでには、全員で旅をしようという話もあったのだが、三人共に目立つ外見をしていることからそれは難しいと判断された。
彼らの噂は、今では近隣諸国にまで広まっているのだ。
帰ってきた我が家で、精霊達がざわめいているのを感じながらアミルは、こんなんで静かな生活をしていけるのかと、少しだけよぎった不安に気づかなかった振りをした。