第1話 謎の碑文―竜蹟碑―

文字数 1,892文字

 神は嘆いた。
 自分に、この竜に・・・。

 「・・・レガリアヴェヒターよ」
 「・・・」
 返事はない。その地は急激に発達した雷雲に包まれた。
 「起きんか! レガリアヴェヒターっ!」
 神の怒り。雷撃が竜を焦がす。
 「・・・ファァ。もう朝か?」
 その身は焦げて、ウロコはプスプスと煙を上げていた。
 このくらいなら平気だろうと手加減をした。
 「お主、寝ぼけておるのか? もう一撃喰らってみるか? 次は加減をせぬぞっ!」
 怒りにより、自慢のサラサラヘアの金髪が逆立つ。
 白く燃え上がる炎にも見えるオーラ。レガリアヴェヒターも「流石にこれはマズイ」とその姿に恐怖を覚えたらしい。
 「ハイ! 今、起きました。寝ておりません。しっかり言いつけ通り、碑文を守っております・・・」
 「今、お主・・・。まー、いい。大目に見てやろう」
 「・・・ところで今日は何の用でしょう?」
 「・・・」

 いつものことである。この竜はちょっと目を離すとこれだ。いつも寝ているクセに「起きている」と言う。
 永く生きるための省エネルギー化と言えば聞こえがいいが、「お前は携帯電話か?」と言いたくなる。
 (・・・永遠に眠らせてやろうか?)

 そもそも、コヤツを選んだ私が悪い。創造神たる、この私が反省をしないといけないとは・・・トホホ。ちょっと一万年ほどそれを守れと命じただけだ。たかが、一万年だぞ。一万年も我慢できないとは、情けない・・・。

 この竜を責めることはできない。今の私は生命体を維持できていない。エネルギーの塊か霊魂と呼んだ方が分かりやすい。人間の言い方をすれば「幽霊」というヤツだ。コヤツのせいでオチオチと寝ていられない。度々、現れては「カツ!」を入れにくるのだ。そう、丁度今のように三百年に一度くらいにな・・・。

 私はこの世界に一抹の不安を感じ、コードネーム「アークワン」という存在を造り上げた。正式名称は・・・。無い訳では無いが、この私でもそれを正確に答えられない。たしか・・・えーっと・・・。

 「一つの寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末、喰う寝る処に住む処、藪ら柑子の藪柑子、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、長久命の長助、方舟竜」
 ・・・言えた。どこで息継ぎをしていいのやら・・・。もう、アークワンが本当の名前でいい・・・。

 今はまだ魂の状態だが、この世界がおかしな方向へ進み、後戻りができなくなれば「始原の炎」により、世界を無に帰すこの生命体(竜)を保険とした。

 私は、後世で発動されるであろう「始原の炎」を回避すべく、輝石に文字を刻んでいた。創造神としての偉そうな口調で彫っておいた。これによって私は偉大な神と崇められることだろう。

 ― 我は創造する者。我は輝石に残そう。これをまだ見ぬ子孫に・・・。
 我は与えよう。白と黒。相反する世界に生命の種を蒔こう。いつかは芽を出し、新たなる種族を産むことだろう。白には光を、黒には闇を授ける。母なる大地で大いなる繁栄を・・・。
 我は見守ろう。花のごとき、色のうつろいを。栄枯の時の流れを輝石となりて眺めよう。この世界が終焉を迎えるその日まで・・・静かに魂となろう。
 我は願う。戦いの最中に「始原の炎」で身を焦がすことの無い世の中であらんことを。 ―

 碑文に、したためた。この世界、創世オセロニアの言葉で・・・。未来では「古代オセロニア文字」と解釈されるかも知れない。多くの創世の言葉は失なわれるだろう。レガリアヴェヒターに、仕事を与えておいた。碑文を詠もうとする者に言葉の翻訳を頼んだ。碑文を壊そうとする者には「その命を奪え」と。

 時は流れ、シェンメイは巨竜と対峙していた。
 この竜が守る輝く石。竜蹟碑。
 どの冒険者もたどり着けなかった領域。巨竜は碑文の意味を理解する者、レガリアヴェヒター。
 レガリアヴェヒターは、彼女のような力を持つ旅人を待ちわびていた。なぞかけ問答の末、シェンメイはレガリアヴェヒターから碑文の内容を伝えられる。シェンメイは涙した。その碑文のこと。創造神のこと。竜に一礼。その地を去る。

 創造神を「あの方」と崇拝し、その教えを説く。この世界に仇なす敵を倒していく。シェンメイは不届き者を求めて旅立つのだった。

 アークワンの胎動は日増しに力強くなる。この世の終焉を迎えるために。もう、この世界に残された時間は多く無いのかもしれない。
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