輪廻のひと
文字数 2,673文字
客間を訪れた
「……さっぱりしておいで……」
「あの、ありがとうございます……」
甥がぎこちなく頭を下げれば、叔父もまたぎくしゃくとうなうずく。
「……よかったって、言っていいのかな」
複雑そうな
◇
「お」
風呂から上がり、部屋に戻った
折り畳み式の
その横には、大箱入りのどら焼きが鎮座していた。
「ごっつ手厚いおもてなしやな」
「……風呂の入り方とか、わかんのかな」
「
「そういえば、タオルと着替えを渡してたときに、腕輪が光ってたね」
縁側に腰掛けた
「ちゅうことは、”過去視の術”をつこたんやな」
「あー、確かに。シャワーの使い方なんて、映像にしちゃったほうが早いもんね。……
「白虎を顕現させるくらいなんやさかい、過去視なんて楽勝やろ」
「まあ、そうかも、しれないけど」
「んで、その
ペットボトルのキャップを
「叔父さんに電話借りて、
「ヴィラがあんなになっちまって、大騒ぎになってねぇかな」
「こっち戻ってすぐ、叔父さんがホテルに伝えたって、
「そこ、重要だよな。AIKAの一人息子が土石流に飲まれて行方不明なんて、大騒ぎになっちまうもんな」
「だよねえ。警察とか来たらヤバいもんね。……僕らの荷物って、どうなってんだろ」
開け放たれた障子から見える青空と同じ色の瞳が、不安そうに遠くに投げられている。
「さっぱりできたのはいいけど、財布もスマホもねえしな。……ちょっとオレ、ヤニ切れだし」
「ついでに禁煙したら?」
「あー、まーねー」
振り返りもしない
今は自分のことよりも、
あの
姉妹のことが頭から離れない。彼女たちは一体どこまで、「今」を把握しているのだろう。
そして、これからどうするつもりでいるんだろうか。
「普通」とは相容れない彼女たちの存在を思うと、二日前の入学式などは、もう遠い昔のようだ。
箱根のご当地ラベルボトルの水が妙に苦く感じられて、喉が渇いているのに、一気飲みすることもできずに。
「はぁぁぁ~」
「でかいため息やな。食うか?」
「いや、今はいい」
差し出された食べかけの握り飯をぐぃっと押し戻して、
(これって、
あいつ
が用意したのかな)「食事はとれてる?」
「具合は悪くなさそうだね。どこか痛むところもない?ほかに必要なものは?」
やたらに親し気な様子で隣に座った若い男を見て、
(ほんとに
目の前には、かつて
「ありま、せん。あの、運んでいただいたようで、ありがとうございました」
若者の視線から逃れるように、
「いやいや、大したことはないよ。モデルさんを
「いや、オレはフツーの大学生ですよ」
「え、フツー?そんなにイケメンがフツー?最近のフツーって、フツーじゃないねぇ」
にかっと笑うその笑顔はなんだか幼げで、双子のように似てはいるが、あの
「彼女がずいぶん気にしてたから、コスプレつながりのモデルさんなんだと思ってた」
「彼女?」
「女武者のコスプレしてた彼女」
若い神職は立ち上がると縁側に出て、神社の境内から遠く望める箱根の山々を眺めやる。
「キレイな人、だよね……。キレイというか、素敵な人だ。まっすぐで、揺るぎない瞳をしてる。……なんて、ね」
若者が照れた顔をしながら振り返った。
「会ったばっかりで、何言ってるんだろって思うよね。きみたちの知り合いに、変なこと言ってごめんね。下心があるわけじゃないから安心して。第一、僕は名乗らせても、もらえないしさ」
「え?」
素敵に形の良いヘーゼルの目を丸くして、
「僕の名前の”もとあき”って、漢字が珍しいんだよ。元旦の元に、顕微鏡の顕で
「……
「おや、白ウサギさん。ご実家と連絡はついた?」
皆と同じ
(白ウサギ……)
(ウサギ扱いやと?!)
(悪気がねぇのが逆にヤバいな)
だが、
さすが神職、偏見に
確かに、
馴れ馴れしさとすれすれの親しみにあふれた
当の本人はスルーを決め込み、ただうなずき返しただけだった。
「そう、よかったね。……一応、母方の実家がそっちの血を引くらしいんだけど、定かではないんだよ。ただ、決めていた別の名前もあったはずなのに、産まれた僕の顔を見たら浮かんだっていうから、縁は感じるんだ」
「……へぇ」
――今世で叶わないのなら、生まれ変わってまた待つ。お前の目が覚めるまで、何度でも――
(生まれ変わりなんて信じられるかよ、そんな非科学的なこと)
そう思いはするが、では、昨日から今まで経験したことは何なのかと問われれば、
「まあ、そんなんで名前の説明でもと思ったんだけど、
すがるような瞳で、