群れ社会

文字数 614文字

 春麗かな休日、アパート二階の南向きの窓から外を眺めていたら、雀の群れが電線や隣家の瓦屋根にとまった。
 切妻屋根の(むね)は東西方向に走り、片面を向けた瓦群(がぐん)の光沢が南中の陽を一枚毎に反射して波打つ。平屋の棟を目線は直角に掠め渡る。右目の視界にアンテナが映った。
 数十羽の群れはそれぞれ散らばって己が場所に落ち着いたかに見えたが、忙しなく狭い範囲内で移動を繰り返す。
 電線にとまっている連中は左程の動きは見せず、比較的おとなしくしている。
 屋根の一団の中から、縄張りを主張するものが現れると小競り合いが生じ、それはたちまちいたる場所に飛び火し、電線で穏やかな休息に浸っていたものをも巻き込んで、激しい抗争の嵐へと発展し、集団全体を飲み込んでいった。
 屋根を追われた一羽が目指した場所はアンテナで、またそこでも猛り狂う嵐に巻かれる羽目となった。それぞれが()を押し退け、居場所を確保せんと躍起になる。勝利して奪い取るもの。負けてアンテナの突端に追いやられるもの。様々な闘争が展開する。
 さっきの一羽の元にも次々と敵は挑んで来た。負けては移動を繰り返し、また移動先で占有権をめぐり果敢に挑み、ようやく勝ち名乗りを上げ、安住の地を手に入れることが叶った。が、それも束の間の休息に過ぎず、他の地を追われたものが入れ代わり立ち代わりやって来ては、勝負を挑んで来るのだった。そうして再三再四の激しいせめぎ合いの果て、辛くも勝利し、かの地を死守できた。
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