【2】

文字数 1,634文字

 家の中は真っ暗だった。

 窓から太陽が入ってきていないのか?

 清掃されておらず、物が散らかり放題。

 床には割れた陶器の食器。

 イスは横に転がっている。

 ほこりが一斉に舞い上がり、黒いシミが点々とある。

 生ゴミの臭いが充満し、重い空気がのしかかった。

 私はむせてしまった。

 この人を寄せつけない空間。

 喉の痛みと、目のかゆみを我慢しながら、中を調査していく。

 奇妙なものを一つ見つけた。

 窓ガラスが何か黒いペンキのようなもので塗られている。

 太陽の明かりが入ってこられない訳だ。

 ――なぜこんなことを?

 ガラスを磨いて、美しい光を入れるのならまだしも、わざわざ黒く塗ったのはなぜなのか。

 前の住人は頭がおかしくなってしまったのか。

 外からは暗い中身しか見えなかったので、こんな施工をしているとは思わなかった。

 玄関のすぐそばにある階段を上ってみる。

 家は二階建てだ。

 おもしろいことに、上には一つのドアと大きな部屋だけあって、天井に窓が設置されている。

 もちろん窓は黒く塗られている。

 脚立を使って、塗ったか。

 壁に設置された取ってを下げると、窓が開く仕組みになっている。

 私は取ってを下げてみた。

 窓はあっさり開いた。

 昼すぎの太陽がわれこそはと入ってくる。

 まぶしかったので、すぐに取ってを上げて窓を閉める。

 おしゃれな造りだが、徹底的に光り対策を施しているようだ。

 壁紙は破れているが、海洋生物が描かれていた。

 住人はアーティストだったか。

 アザラシみたいな体格をした生物が泳いでいるようだが、頭の部分が破れている。

 あとはクジラやイルカも描かれている。

 さぞ明かりがあれば、神秘な海を演出されていただろう。

 すべて頭の部分が破れているが。

 再び一階に下りていき、何かないか探っていった。

 レンガで積み重なった、暖炉の中に何かあった。

 一冊の本だ。

 焦げて灰になった砂漠の中に埋まっている。

 手に取ってみると、汚れてもいないし、破れてもいない。

 燃やそうとしていたのか?

 本を開けてみるが、焦げた箇所はどこにもない。

 これが奇妙な点二つ目だった。

 ――死者の書?

 表紙のタイトルは外国語なのか、見たこともない文字が並んでいたが、頭の中でタイトルが浮かんだ。

 なぜかはわからない。

 理由も思いつかない。

 ただ、この本はそうだと心の中で思ってしまった。

 中身が燃えてしまった、もう一冊の本を手に取ってみる。

 表紙には聖書と書かれていた。

 悪魔が持っていそうな死者の書は無事で、天使が持っていそうな聖書が燃えているとは。

 救いがないな。

 私は聖書を暖炉に入れ、死者の書を机の上に置いた。

 変な臭いが鼻をついた。

 風が床から吹き荒れている。

 小さく、囁くように。

 私は木造の床を調べていくと、台所から流れてきていることを突き止める。

 両手でちりをはらっていくと、床に扉のようなものを見つけた。

 雑に切り抜いたあとがある。

 隙間に手を入れて、開けてみると、暗い地下へと続く階段があった。

 造りはしっかりしていて、大人ひとり、立って下りていける広さだ。

 奇妙な点、三だな。

 湿気でもやっとするし、カビ臭い。

 暗すぎるから、明かりがないと下りられない。

 懐中電灯をあとで買うか。

 地下探索はあきらめ、まだ入ってない部屋を見回っていく。

 とある部屋に入ったとき、床に丸い図形が書かれていた。

 魔法陣というやつだろうか。

 複雑な文字と数字が規則正しく丸の中で踊っている。

 色は赤なので、暗くてもはっきりわかる。

 隙間から入る光のおかげで、まだ薄暗い家の中が見えているが、照明は必要になるだろう。

 なぜこんなものを描いたのか。

 アートにしては薄気味悪いが……。

 奇妙な点、その四かな。

 壁に寄せられたベッドの上に、古いノートが置かれてあった。

 なんとなく魔法陣を踏みたくなかったので、避けつつ、ベッドまで近づき、ノートを取った。

 開けてみると、前の住民らしき人の日記が書かれてあった。
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