第12話 蓮の恋愛事情 1
エピソード文字数 3,900文字
※
ああ……こんなご機嫌な自分も久しぶりだな。
染谷くんとの会話で非常に満たされた俺は、気合を入れて次の授業に臨むが、その時ラインが届く。
聖奈である。ラインなのは授業前で静かだからな。
しかし今の俺には何の攻撃も効かなかった。
更にニコニコと笑顔を輝かせると、とうとう顔を背けやがった。
ふははっ! あの聖奈が俺を恐れるなんて前代未聞だぞ。
あまりにも上機嫌すぎて、お前を抱きしめたくなるぜ。
てかそんな事したらマジで殺されそうだが、今なら死なない自信がある。
授業が始まる。一応何があったのかをラインで連絡すると、聖奈は予想通りと言うか、こんな内容を送ってきた。
染谷くんを褒めちぎった内容だったしな。
そう返してくると思った。
当然じゃないか。聖奈にだってそう思ってるよ。
でもな、男同士って言うのは一種の憧れがあるんだ。
アニメや映画の見すぎとか言われそうだが、とても強い絆で結ばれる親友というか、そんな存在に俺は恋焦がれていた。
そしてもう一つ一番大切な事がある。
俺が男に拘る理由。それは……
親友となった男同士なら……
この入れ替わり体質を暴露しても、その関係は壊れないのではないかと。
まぁ……飛躍しすぎかもしれんが。
女同士で、実は男でもあるという事と、
男同士で、実は女でもあるという事を暴露する場合、関係が壊れにくそうなのは……男同士じゃないかって思うんだ。
偏見じゃない。これはきっと、俺が心の中で男だと思っているからだろう。
つまり女同士の付き合いには自信が無い。そう捉えてくれても構わない。
うん? ん? 何の返事だ?
えらく遅かったのでラインを読み返す。
あぁ、仲良くやるのが嬉しいと思うのは純粋な気持ちだ。
あ、特別っていうのは……
聖奈は俺達の正体を知っているという事だぞ。
ただそれだけなので、誤解しないで欲しい。
おっと。そろそろ授業を聞かないとやばいな。
せっかく勉強をやる気になっていたのに、スマホがブルブルするので、ちらっと聖奈を見ながらもう一度スマホを開く。
何で目を逸らすんだよ。ん? 怒ってる?
顔が見えなくなったので、そのタイミングでスマホを見ると、
と返信したが、何故か聖奈はこちらを向こうとしない。
俺はてっきり万遍の笑みを見せてくると思ったが、予想が外れる。
純粋な疑問をぶつけたつもりだが、聖奈からの返信が来なくなると、ようやく授業を聞き始める。
さて問題です。
聖奈が今何を考えているのか、どういう心境で無視しだしたのか。答えなさい。
うん。さっぱりわかんねぇ。検討もつかん。
普通の返事に普通に返しただけだろ?
もしかして変な文章だったのかな?
ってか……女ってさ、何を考えているか分からない事が多々ある気がする。
女心っていうの? 俺には理解できない。
とはいえ、俺だって半分女だけど、この部分だけはどうにも分からない。
その点、男の場合はよ~く分かる気がする。
だからこそ。俺は男なのだと思うんだ。
※
放課後。HRが終わると同時に俺の頭からピリっとした痛みが走る。痛みというか、フラグというか信号のようなものだな。
このフラグは、そろそろ女に入れ替われよと言うサインだ。
一発目のこのサインから約三時間の間に、俺は女へと入れ替わらないといけない。
これをずっと無視すると強制的に入れ替わりが行われる。
しかも暫く意識が飛んでしまうので絶対やってはいけない。どこでも入れ替わってしまうので、公衆の面前とかだと俺の人生は一瞬で終わるだろう。
なので、入れ替わりのサインが来てから、最長二時間半。それが限界だと思って欲しい。
その間に安全な場所で女へと入れ替わる必要があるのだ。
だけど。今はもう放課後なので、入れ替わりサインが来ようとも問題は無い。今から二時間以内に家に帰ればいいだけだからな。
帰ろうとする俺を呼び止めるのは聖奈である。
一応みんなが居るので苗字で呼ぶのはいいが、染谷くんがこちらに振り返った。
空気を呼んでくれたのだろうか?
あえて会話に入ってこずさっさと染谷くんは教室から姿を消した。
西部君や白竹さんも俺達を見て挨拶する。
そして教室から誰も居なくなった時点で、俺と聖奈はもう一度自分の席に座りだした。
ってかお前……
そっか。覚えていないのか?
と、思わず言いそうなったが思いとどまった。
凛も覚えていない。
そう考えると、平八さんが俺の事を言わなければ、やはり俺の事も忘れていたのだろうか。
その時。俺の身体を冷たい風が吹きぬけた。そんな錯覚を覚える。
寂しい。そんな気持ちが過ぎったが、顔には出さずに堪えた。
うんうんと頷く聖奈。それなりの微笑を浮かべるが、今日はダメージが少ない。
心に余裕があるのか分からんが、直視できない訳じゃなかった。
サイクルと言うのは入れ替わりの予定みたいなもんだな。
無計画で入れ替わると、学校行く時や、バイトの時間で逆の性別になってしまうと、即アウトだろう?
入れ替わってから約四時間。再度入れ替わる事が出来ない。そういう縛りがあるんだ。
これを念頭に置いとかないと、学校にもバイトにも行けないという事になるからな。
そこまで話すと聖奈が立ち上がったので一緒に席を立つ。
話は終わったと思ったので教室から出ようとすると、聖奈が腕を引っ張ってくる。
イキナリだったのでビックリしたが。
まぁ……お前の性格を耐えられる人間など、中々いないと思うぞ。
だけど、昔より丸くなってるから、いけるかも知れないが。
あの人は別格だ。
歴史上に名を残しそうなほどの絶世の美女だぞ
外見やら顔のパーツやらレベルが一桁違う。
その内、アイドルデビューでもするんじゃね? って思うくらいだし。


何でばっかり言うなよ。
まるで分かっていなさそうなので、俺が何故人と付き合えないかを一から説明する。
すると頭の回転の速い聖奈は「そっか」と頭に電球を光らせるとすぐに理解してくれた。物分りがよくて助かる。
何だよ。そのじとっとした目は。 何で睨まれてるか意味不明だ。
やっぱり女は何考えているかさっぱり読めん。
そこで会話が終わると、聖奈が教室から出て行くので後をつける。
そういい残し急にダッシュする聖奈。
俺が「えっ?」と漏らす間に、その姿は視界から消えていた。
ってか早すぎるだろ。
聖奈がふ~んと漏らしてまだ十秒も経ってない。
まぁいいか。何か予定があるのか知らんが、平八さんを待たせるのも悪いしな。
っていうか、何でこの前みたいに車で喋らなかったのだろう。そう思いながら階段を下りていった。