出会いの日-1-
文字数 1,879文字
「え、こっちって……」
ジーグの背後でヴァイノが青ざめる。
「なに、ジーグさん、オレげど、……異国人とトカゲ目にも謝らないとダメ?」
ジーグが振り返ると、銀色の眉毛が困惑しきった様子で下がっていた。
大衆食堂を出てから、まずガーティの店に向かったジーグは、ヴァイノとともに店主に頭を下げた。
「指導が行き届かず、申し訳なかった」
「ジーグさんのせいじゃねぇだろ!なんだ?やけに大人しいじゃねぇか、ヴァイノ。今度こそ改心したか?もうジーグさんに面倒かけるなよ!」
神妙にしているヴァイノがよほどおかしいのか、店主は空を仰いで笑う。
「……うん」
「そうかよ、なら、今度は
ちゃんと
客で来いよな!」気持ちよく許してくれた店主に小さな返事をしながら、ヴァイノはもう一度、自ら頭を下げたのが、ついさっき。
「いいから黙ってついてこい。それから、トカゲと言うと喜ぶぞ」
背の高いジーグの表情はよく見えないが、声が笑っている。
「好きだからな。小さいころ飼っていたことがある。……結局、
「うん。好きだって言ってた」
「そうだろう」
「変なヤツだよな」
ジーグの背中がわずかに揺れたが、肯定も否定も返ってはこなかった。
「やっぱここかぁ……」
顔をしかめたヴァイノが頭を
「ジーグ?おかえりなさい。その人たちは、……あれ?」
その音を聞きつけ、奥庭から出てきたレヴィアは、見知った姿が混じっているのを見て首を傾けた。
「レヴィア様っ……!」
一団から飛び出し、走り寄ったスライが震える手でレヴィアの手を握りしめる。
「去年お見かけしたときよりも、ずいぶん大きくなられて!覚えておいでではないですか。リーラ様付きのスライでございます。お小さいころ、お世話をしていたのですよ」
「そう、なの?……あ!見物料をくれたとき、支えてくれた、人?」
「はい!……はい……」
スライはこぼれ落ちそうになった涙を、慌てて指で
「レヴィア、屋敷の
近づいてきたジーグに、レヴィアは首から下げていた
「貸してくれ。屋敷を開けよう。それで……」
ジーグの耳打ちをうなずきながら聞いていたレヴィアの眉が、だんだんと下がっていった。
「わかった……、けど、大丈夫かなあ。まだ怒ってるんだ」
血はすでに止まってはいるが、レヴィアの額は内出血を起こして、少し腫れている。
「そこは、お前が上手く取りなしてくれ。頼んだぞ」
「やってみる、けど……」
自信なさそうに歩き去っていくレヴィアを見送ったあと、ジーグは連れてきた皆を屋敷へと案内した。
暖炉に火が入れられた屋敷の食堂に通された少年たちは、見るからに上質な
「お待たせ、ジーグ」
少年たちが顔を上げると、レヴィアは
「そこの銀髪小僧は何しに戻ってきたんだ」
いきなりの不機嫌な声とその殺気に、ヴァイノは
「謝りに来たのか?それともケンカを売りにか」
「
出入り口近くに立つジーグがたしなめるが、怪しい人物は取り合わない。
「怪我をさせたことは、
品のないその
向けられる殺気に内心震えながら、ヴァイノは目をそらす。
「……悪かったよ……」
「悪かった?そんなことはわかっている。それで?」
たたみかけられる厳しい声に目を戻せば、鮮緑の瞳に非難の色はなかった。
ただ、突き刺すように強いまなざしが、まっすぐに向けられている。
――我が
(……見ず知らずのフロラを治療して、食べ物をくれた)
――偏見を持って投石するのは、信用に値するものなのか――
(……だって、でも……)
「……ごめん、なさい」
「え?」
「は?」
「うそっ!」
うつむいて、頭をわずかに下げたヴァイノに、仲間たちの雁首がいっせいに向けられた。
誰に何を言われても、負けん気の強いヴァイノは、自分の非をなかなか認めようとしない。
世話になっているジーグから叱られても、かえってむくれることもあるくらいなのに。
そのヴァイノが謝罪を口にするとは。