ここにはいつか

文字数 289文字


白い万両の実る冬。
ここにはいつか牛がいた。
牛のそばには人間がいた。
朝になると牛と人間は連れだって出かけた。

 ほうい、ほい。
 ほうい、ほい。


そうでないとき牛は(まき)の木につながれて、
のっそりのっそり石臼を回した。
人間は近くの納屋(なや)でむしろを編んだ。
むしろ(ばた)の音に合わせて牛は歩む。

 ぎいぎい ばったん
 ごおろ ごおろ

枯れた木のような人間がいた。
餅のような赤子を重そうに抱いて
くぼんだ槙の幹を指差した。

 ほうら、ご覧。
 あれが牛をつないだ跡。


昔、ここには牛がいた。
口をもぐもぐ動かしながら
槙の木のぐるりを歩いていた。

槙の梢にはしのぶぐさ。
石臼を回す牛と
パンジーを植える私を見下ろしている。
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