月詠三言の求愛(2)
文字数 2,770文字
わたしの名は月詠三言(つくよみ みこと)35歳、独身だ。
仕事は魔王退治業で「KAMASEYA!」という人材派遣会社に所属している。
今日から「株式会社HERO」のパーティーに加わり、
冒険が始まるのだが……この胸の高まり…
間違いない…
…………
恋だ!!
事の発端はこうだ!!
先日、「株式会社HERO」の事務所で、
これから冒険を行うパーティーの隊長と
顔合わせがあったのだが、その隊長が阿部寛に似ていたのだ!!
渋い声、落ちついた話し方、太い眉、テルマエな顔立ち……
結婚を前提におつきあい頂きたい!!
…ごほん…ようするに、ひとめぼれしたのだ…。
というわけで、昨晩は興奮して眠れず、朝5時に起床し、
集合場所の「イトシト村」に1時間前に到着してしまった……。
ただ、時間があまっていたので、
色々とモノ思いにふけってしまったのだ…。
わたしは高専(魔王退治学科)を卒業したあと、
ずっと働きづめで、彼氏を作るヒマがなかった。
気がついたら35歳…。
周りは結婚し、寿退社で引退…。
魔王退治業は結婚しても続けられるような甘い職業ではない。
一度、冒険にでれば、最低1か月は家に帰ってこれないし、
いつ死ぬかわからないからだ。
女性で結婚し、魔王退治業を続けているヤツを見たことがない。
だが、わたしは結婚しても…
仕事を続けたい!!
と、思っている。なぜなら……
魔王を倒すのは、わたしだからだ…っ!
そのためには、理解がある夫を選ばなければならない。
HEROの隊長の外見はもろタイプだが、
結婚観はどうなのだろう?
その探りもいれなくては……
レッドドラゴンがいるウルチ火山に向かった。
その間、様々なモンスターが現れたが、
荒部隊長の強さは今まで見てきたどの戦士よりもズバ抜け、
リーダーとしての素質も申し分ない。
わたしは戦いながら、荒部隊長の勇姿に
目を奪われてしまう……。
鍛え抜かれた筋肉……
ほどばしる汗……
美しい剣技……
あんな漢が彼氏なら……
あんな漢と〇〇〇できれば……
あんな漢と結婚……
うおおおおおおおお!!!!!!!
妄想のサンダーバードやぁぁぁぁ!!
※サンダーバードとはJR西日本の大阪→金沢を走る特急列車である。
だが1つ気になるのは、
おっとり巨乳(花咲)と隊長の会話がいっさいないこと……。
そこで夜になってから、
ヤツが見張りのときに探りをいれてみた。
そんなもんを大切にすんのかね?
別に会話がなくても…、
戦闘になったときにダメージうけたら、
回復してやるし、見たらわかんだろ?
それに会話がなくても、スマホのSNSとかで
やりとりしてるかもしれねーだろ?
活用している所も多いが、
現場ではいっさい役にたたん!
コミュニケーションの基本は会話だ!
声の調子や、トーンが大切なのだ!
「ぜんぜん大丈夫」という声が、
か細かったり、震えていたりすれば、
それは大丈夫ではないのだ!!!
それを見落とせば、いざ戦闘になったときに、
魔法が発動しなかったり、命の危険にさらされ、
仲間を失う可能性もある!!
無言でテントに入っていった。
わたしは石に腰を下ろすと、
ふーと息を吐いた。
……なんだ……この胸騒ぎは……
つづく