第1話

文字数 871文字

 もう一カ月ほど前のことになる。ウヴァロヴァイトは、自分と同じような悪党どもを取りまとめているクンツァイトと、食事を摂りながらこんな話をした。
 「我々がやっていることは、間違えてはいるけれど、悪くはないのである!」
 クンツァイトはサーベルでカツサンドを突き刺し、口に放る。そのサーベルは何人の人間を貫いてきたのだろうか。ウヴァロヴァイトは少し考えてしまった。
 「いや、私たちは犯罪で稼いでいるのだから悪いだろう?」
 「いやいやいやいや。よく、相対的に物事を見た方が良いと言うであろう? 例えば、AよりもBという死因の方が、より多くの人間が死んでいる! とか。老い先短い老人より、子供の将来を優先するべきだ! とか」
 「人間の言語を覚えたての子猿の言いそうなことだ」
 「我々が一年のうちに金を貰って命を奪っている人間の数は、不幸にも交通事故死する人間の百分の一にも満たない! つまり我々は何も恐れられる必要はない。悪くないのである」
 なるほど、とウヴァロヴァイトは唸ってしまった。
 AとB、より多くの人間が死ぬ道がBなら、Aに進むべき! Aに進むことを恐れすぎるな! というのは子猿以下の意見だ。誰でも言える。しかも、相対的にものを見れば論理的で恰も賢いと思ってしまっているのが、ウヴァロヴァイトにとっては、また、腹立たしい。
 本当の賢い人間が出す正答は、「病死も事故死も老人も子供も健康な大人も病人も、全員の命の重さは同じなのだから、全員助ける方法を編み出す」以外に他ならない。
 しかし、こう言えばまた、誰しも「私はバカだからそんな全てを救う方法を考えるのも大変だ。僅かな犠牲は仕方ない」と考えることを放棄する者が出るだろう。ならば、と、ウヴァロヴァイトはこの議論の後、相対的にものを比較し、何方を優先すべきかという者を積極的に探し、どんどん頭を撃ち抜いて風通しを良くしてあげることにした。
 なに、相対的に見たら、ウヴァロヴァイトにやられた人間より世界で今日生まれた人数の方が多いのだから、誰も恨まないだろう? 別に。
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