第1話 第3のポエム

文字数 1,784文字





恋は幻想ごっこ
相手を想うほど幻想が膨らんでいく
実像とは似ても似つかない相手の姿
それを実像と見誤る

虚像に自ら騙される愚かさよ
だが騙されることが恋の本質

騙し騙され恋の炎が燃え上がる
いつしか覚めた時、隣に眠る人が
誰だったのかと慄然とする

この物体は何かと不審がっても後の祭り














遠い日の思い出は

あこがれの初恋のきみ

初めてきみに触れた時

ぼくの魂はふるえた

愛というおぼろげが

確かなかたちになった

初めてきみを抱いたのは

再びきみと出会った時

きみは美しく成長していた

ぼくは眩しくてきみを見られず

ふるえる手で抱きしめて口づけをした

今はもう幻のよう














美しいメロディが霊感を与えてくれる

過ぎ去った思春期に夢見ていたことを

思い出させてくれる

今の汚れた心を切り離さなければ

少年の心は戻ってこない

あの時ほど少女を理想化して

愛したことはない

私の空想の中で少女は生きていた

今の醒めた心の中では少女は息絶えて

死んでしまうだろう















君の命が尽きようとしている
僕のできることはただ祈るだけ

青春の語らいや溢れる笑顔が
思い出される

あの君がこんなことになるなんて
誰が想像できただろう

君を傷つけた男を僕は許さない
必ず仇を討ってやる

この忍ばせた刃で
君の無念を晴らしてあげる

こんなに体が震えて
どうにかなりそうだ

















眠りの前に私は祈る
 穏やかに一日を終えたかと
 誰も傷つけないで終えたかと

静かなる聖夜
 ケーキに灯された愛の光
 二人で吹き消して
 
静謐に時は流れ
 音もなく雪が降り

全てのものに感謝して
 やがて安らかな眠りにつく
















何もかも疎ましく思った時
人生を投げ出したいと思った時

心の底から
それでいいのか
という声が聞こえる

自分に恥じた生き方をしていないか
と問いかけてくる

私はその声を遮断して耳を塞ぐ
もう無理だ
私は呟く

すると見えない力が私を張り倒す
まだ人生は終わっていないぞ
と叫ぶ

私は覚醒する
















君の涼やかな瞳

君の理知的な瞳

君の揺れる瞳

君の燃える瞳

君の訴える瞳

君の濡れた瞳

君の眠りの瞳

愛しているよ

この世の何よりも

全てが闇に滅びても

君に見つめられた真実は永遠

二人は死すべき肉体を離れ

イデアそのものとなって生きる















あなたは私を愛してくれますか

こんなに見すぼらしく落ちぶれた私を

帰る家もなく病気持ちのこの私を

愛してくれたら私の愛をあげましょう

私は野良猫、明日をも知れぬこの命

愛してくれたら極楽浄土へ行けましょう

さもなければ地獄へ堕ちるとは言いません

ただほんの少しの愛が欲しいんです
















少し眠って夢を見た
望むものを見させてくれた

大学の頃憧れていた人と二人だけで話をした
優しい声と微笑みが鮮やかに甦り涙する

休みの日は微睡みながら一日を過ごそう
疲れたら眠れば夢と現実を行き来できる

休みの日は魔法の日
時間は自分の思うがまま

一人の世界に浸って
本当の自分に戻れる
















夜に私の狂気は目覚める
破壊神が乗り移る

この世の全てを破壊するまで怒りは止まない
全てを虚無に還すまで神とも争う

その戦いに勝った時この世は永遠の無になるだろう
それこそが至福、暗闇の中で私は咆哮を上げるだろう

狂った獣は牙を抜き自分の喉を掻き切って死ぬだろう
太陽が昇る時までに
















花に埋もれた森で暮らしたい

夜空には蒼白い月が煌々と輝き

狼の遠吠えが孤独とよく似合う

森の獣が眠りに落ちる時

ようやく睡魔が訪れる

鳥の囀りが朝を教え

朝露が煌めいて日に溶け込み

花ざかりの森は薫りを放ち

私の胸は苦しくなる

薔薇のため息に気を失い

遠い夢の名残にうなされる













  


美しい女(ひと)

あなたの美しさが永遠でないのが哀しい

その清らかな美しさに時は止まったかのようだ

あなたの深い愛情がこの世を悪から救いそうだ

その慈しみの涙がこの世を不幸から救いそうだ

女神から祝福されたあなたにも死はやってくる

せめて美しいまま伝説になって記憶に残って欲しい

















「異邦人」を読んで仏文科に入ろうと思った
カミュは事故死していた
サルトルとは同時代を生きていた
「嘔吐」の世界観に惹かれた

シュルレアリスムに興味はあった
だが芸術が現実を超えるとは思わなかった
現実に影響を及ぼすのは科学であり原爆であり
芸術はその炎の中で燃え尽きると思った

















ビッグバンが空想のものだとは
誰でも思っている
ただ宇宙論者を除いては

この大宇宙が無の一点から生まれたなんて
神様でも思いつかない

神が宇宙を創造したと言った方が
遥かに信じられる

ただ神は何から生まれたかを問うと
無限後退の罠にはまる

初めに光ありきでいいではないか
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