聖刀堅陣

文字数 2,779文字

「メガネ隊長、何とか持たせるので力をためてください」

 ザクロと神沢優、メガネ隊のメンバー11人が刀を地面に突き刺して守備陣を敷いた。

 <聖刀堅陣>

 数分だけ守備力が飛躍的に高まる防御堅陣である。
 が、これを使うと当然、3分間は<殲滅刀技>が使えなくなる。
 メガネ隊の全員がメガネ隊長の一撃に賭けたのだ。
 
「俺の殲滅刀技<水龍水波斬>では2100万HPがせいぜいだ。スケルトン中華ロボのHPの残りは2600万。クリティカルヒットがでれば何とかなるが、その確率は1%もない。神沢隊の援護射撃では残り500万HPを削るのは無理だ」

 メガネ君が悲壮な言葉を吐いた。
 だが、選択肢はない。
 すでに、ザクロ以下メガネ隊のメンバー11人は<聖刀堅陣>を展開していた。

「―――分かった。三分間、耐えてくれ」

 メガネ君の言葉が合図だったように、スケルトン中華ロボのレーザーブレード千本の攻撃が来た。
 光が煌めき、凄まじい圧力がメガネ隊の≪ボトムストライカー≫に襲いかかる。

 しばらく、<聖刀堅陣>のバリアがその攻撃を凌ぐ。
 火花が散って、バリアが押されて変形していく。
 だが、何とか耐えていた。

 が、一分ほど経った頃、最初の綻びがでる。
 メガネ隊の新人ハネケのバリアの変形が限界にきて亀裂が入り、その隙間からハネケ機にレーザーブレードが直撃する。

 ハネケ機はしばらく耐えていたが、レーザーブレードの連打で<蕨手刀>が地面から抜けて後方に吹っ飛ばされた。
 だが、ザクロが巧みにバリアを修復し、飛ばされたハネケは、もう一度、自分の位置に戻って<聖刀堅陣>を回復させる。

 それから、他の隊員にも同じようなことが起こり、左右にいるザクロと神沢優がバリアをカバーし、何とか回復させた。

 二分経過。

 その頃には、バリアの隙間から隊員のほとんどがレーザーブレードの直撃を受け、機体の損傷が激しくなっていた。
 だが、何度、吹っ飛ばされても、メガネ隊の隊員たちは持ち場に戻り耐え抜いていた。
 神沢隊の援護射撃により100万HPぐらいは削られていたが、まだ、400万HP足りない。

「あと、一分、みんな耐えてくれ」

 メガネは祈るような気持ちでつぶやいた。
 
 かつての<スケルトン中華ロボ討伐戦>において敗北したギルド員の千人は、あまりの惨劇さに、そのまま<刀剣ロボットバトルパラダイス>をログアウトして帰ってこなかったものが多数いた。

 飛礼隊の隊長、飛礼もまた、そんなひとりだった。
 メガネやザクロなど飛礼隊の生き残りのメンバーは、スケルトン中華ロボの再討伐に備えて、一年間かけて聖刀を集め、作戦を練り、飛礼がいつか帰ってきてくれることを待ちわびていた。

 結局、飛礼は帰っては来なかったが、この一年間はこの戦いにおいて十分に生かされていた。
 だが、それも、この戦いに勝ったればこそだ。
 全滅してしまえば、全てが無になってしまう。
 しかも、これはゲームではなく、現実の戦いである。
 すでに神沢隊のメンバーは11人ほど失われている。

 メガネはふと、正気に返ったように、千手観音モードのスケルトン中華ロボを見上げた。
 それがいけなかったのか、突然、手足が震えだす。
 スケルトン中華ロボの惨劇の記憶、恐怖が彼を襲う。

 やはり、俺たちは勝てないのか?
 ここで、みんな死んでしまうのか?
 死の恐怖に包まれて、弱気な気持ちが強くなってくる。

 この一年間の僕たちの努力や戦いは無駄だったのか?
 
 いや、そうじゃないはずだ。
 無駄ではないはずだ。

「隊長! もうすぐ三分です!」

 ザクロの声で、メガネは我に返った。

「殲滅刀技 <水龍水波斬>!」

 メガネが叫ぶのと、<聖刀堅陣>の限界がきてメガネ隊のメンバーが吹っ飛ばされるのはほぼ、同時だった。
 よく耐えてくれた、みんな。

 七つの水龍がメガネの<水龍剣>から放たれ、スケルトン中華ロボに直撃し破壊する。
 クリティカルヒットではないが、スケルトン中華ロボの身体に亀裂が入り崩壊するかに思われた。

 だが、無情にもメガネ機のモニターには、スケルトン中華ロボの残HPは200万と表示されていた。
 メガネ隊のメンバーは<聖刀堅陣>を使用してしまったので、殲滅刀技は使えない。
 神沢隊の援護射撃では間に合わない。

 殲滅刀技を放って硬直しているメガネ機に、スケルトン中華ロボのレーザーブレードが死神の鎌のように襲いかかる。

(俺の努力もみんなの一年の頑張りも結局、無駄だったのか……)

 最後の瞬間、メガネはそんな想いに沈んだ。

(そうではないぞ!)

 誰かの声が心に響いた。

 織田信長の聖刀がスケルトン中華ロボのレーザーブレードを全部、受け止めていた。

 それにしても、巨大な聖刀である。
 <零式妄想式超光速120Dプリンター>が高速駆動し、さらに、その聖刀は徐々に大きくなっていく。

「メガネ、俺の聖刀は何だと思う?」

「え? そりゃ、へし切長谷部とか?」

「正解じゃ!」

 信長は巨大化した聖刀<へし切長谷部>に軽く力を込めた。
 その切れ味は尋常ではなく、スケルトン中華ロボの千本のアームが全て両断されて吹っ飛ぶ。

 <へし切長谷部>といえば、信長が無礼を働いた茶坊主を手打ちにしようとして、逃げ込んだ台所の膳棚ごと一刀両断してしまったというエピソードをもつ。へし切とは押し切という意味でそれほど切れ味が凄かったようだ。信長の愛した三刀のうちのひとつである。

「メガネ、最後のトドメはお前がさせ!」

 メガネ君の身体の震えが止まる。
 残りHPは30万まで減っていた。

 すかさず、ブレードローラーを全速駆動して突進、<水龍剣>を一閃して、スケルトン中華ロボの残りHPを全部奪った。
 スケルトン中華ロボは閃光を放ちながら消滅した。




     †




「信長さま~~~~」

 メガネは信長に抱きついていつまでも泣きやまない。

「こら、メガネ、わしの小袖が濡れてるぞ!」

 信長は何とか逃れようとするが、メガネは両腕をホールドして放さない。

「おい、これは涙じゃなくて、しょんべんではないか!」

「信長さま~~~~」

 鼻水をたらしはじめた。

「何かくさいな、う〇こももらしたなメガネ!」

「信長さま~~~~」

 メガネはいつまでも泣き続けた。
 何とも微笑ましい光景だと思う安倍晴明であった。 

 

 
  
(あとがき)

 メガネ君でなくて、信長無双でした。

 次回は救出された明智光秀が酷い目に会うと思います。
 予定は未定ですが。
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登場人物紹介

 安東要(あんどうかなめ)


 東日本大震災後、名古屋に新政府を移し復興に務める若き民政党の総理。
 陰陽師、安倍清明の転生術で35歳→24歳に転生し過去に戻り、東日本大震災を防ごうと悪戦苦闘する。

 月読波奈(つくよみはな)

 通称≪ブスメガネ≫。今時、珍しい牛乳瓶の底のような丸いメガネをかけている。
 安東要が通う名門大学のラノベサークルの後輩で大学二年生の20歳である。

 安部清明(あべのせいめい)

 名護屋の清明神社で安東要の前に現れ、東日本大震災を防ぐという願いを叶えると約束する。

 神沢優(かみさわゆう)


 公安警察、秘密結社<天鴉(アマガラス)>のリーダー。

 メガネ君


 巨大小説投稿サイトのバイトリーダーメガネ君。
 秋葉原で安東要たちの戦いに巻き込まれ、行動を共にする。
 ネットゲーム<刀剣ロボットバトルパラダイス>の人型機動兵器<ボトムストライカー>の操縦に長けていたため、オタクたちと大活躍することになる。

 織田信長(おだのぶなが)

 某戦国武将だが、秘密結社<天鴉(アマガラス)>の剣の民でもある。

明智光秀(あけちみつひで)

本能寺変後に死ぬはずが命拾いし、僧となり<天海>と名を改める。

ザクロ

メガネ隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の廃課金プレーヤー。
メガネ君と共に人型機動兵器<ボトムストライカー>を駆って活躍する。

ハネケ

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
金髪碧眼のオランダ人ハーフ。 

夜桜(よざくら)

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
黒髪に黒いくさび帷子を愛用。 

カトウ

神沢隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の微課金プレーヤー。
たまに出てくるがさほど活躍しない。

雛御前(ひなごぜん)

安部清明の式神衆筆頭、ミニスカ十二単衣の美少女。

猫鬼(びょうき)

雛御前の使い魔で猫娘姿のコスプレをしている。

犬神(いぬがみ)


雛御前の使い魔で狼男のコスプレをしている。

魔女ベアトリス

見かけとは違う、この世界をも滅ぼすほどの強大な魔力を持つ。
媚術を使って人を虜にし操る。

リカウド・バウワー

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の団長である。
めんどくさい性格でどこかユーモラスな所があるが侮れない力をもつ。

マリア・アドレラ

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の副団長である。
秘剣<十字剣>の使い手。

魔導師アリス・テスラ

時空間魔法を使うチート魔導師。

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