6.見て見ぬ振りをさせない

文字数 1,913文字

■月面サーバ内

■■隔離エリア

2017/12/03 13:09
ライナス

これからあなたの事情聴取を行います

発言・感情はすべてMoom-inにより記録されますので

嘘偽りなく答えてください_

2050/11/14 23:15
わかってる

僕には隠すことなんてなにもないよ

結果的に僕がマイヤーを死に至らしめたのは

間違いのないことだから_

2050/11/14 23:15
……まず確認ですが

あなたたちはどうやってMoom-inの思考チェックを抜けたのですか?_

2050/11/14 23:15
どうやって……?

ごめん 質問の意味がよくわからない

普通に思考チェックを受けたよ

それでMoom-inが許可を出した

それだけだ_

2050/11/14 23:16
あなたに最初からマイヤーを殺害する意思があったなら

そもそもMoom-inはあなたが"外"に出ることを

許さないはずなのです

つまりあなたは"外"に出てから殺害を思いついた

ということですか?_

2050/11/14 23:16
待って待って カナイさんは誤解してる

僕はマイヤーを殺そうと思って殺したわけじゃない

さっきも言ったけど"結果的に"死んだだけなんだ_

2050/11/14 23:17
結果的に?

あなたの言葉を借りれば"勝負"をしたからですか?_

2050/11/14 23:17
そう!

僕らは確かに"勝負"した

勝ったほうがカナイさんに告白する権利を得る

そういう勝負だったんだ_

2050/11/14 23:17
ですから なぜそこで私の名前が出てくるのです?

私とあなたは今日初めて話しましたよね

マイヤーとは何度か話したことがあったと思いますが……_

2050/11/14 23:18
別に 話したことなくたって好きになるケースはあるでしょ?

声を好きになったわけじゃないし

とにかく僕とマイヤーは人格をデータ化される前から

カナイさんが好きでおっかけをしてたんだ!_

2050/11/14 23:18
……まったく気づきませんでした……_
2050/11/14 23:19
カナイさんは僕らにとって雲の上の人で

こうして話ができるなんて 今でも信じられない!

本当に夢のようだよ_

2050/11/14 23:19
最初で最後ですけどね

この聴取が終われば あなたはこの隔離エリアで

たったひとりで"真の終末"が訪れるまでを過ごすことになります_

2050/11/14 23:19
覚悟はできてる

それくらいのことを僕はしたんだから_

2050/11/14 23:20
……話を戻しますが 

どうしてあなたがたは急に"勝負"なんてしようと思ったのです?

それまでは仲よくやっていたのでしょう?

ミルもあなたたちふたりは"親友"だと言っていましたよ_

2050/11/14 23:20
それがね カナイさん

まったく急なことじゃなかったんだ

人格をデータ化されたことによって

僕らは静かに狂っていったんだよ_

2050/11/14 23:21
狂って……?

それは一体どういう……_

2050/11/14 23:21
こうしてデータになる前は

自分の気持ちにそこまで本気で向き合うことはなかった

同じ人を好きになってしまったマイヤーへの思いも

同性を好きになってしまった自分への戸惑いも

あまり考えないようにやり過ごして生きてこられたんだ_

2050/11/14 23:22
そういえば あなたはもともと男性格でしたね_
2050/11/14 23:22
そう……

いくら同性愛が世間的に認められるようになっても

僕自身は大多数の人と違うことに不安感があったし

そんな僕でもやさしく受け入れてくれるマイヤーのことは

"親友"としてとても好きで その恋を応援したい気持ちもあった_

2050/11/14 23:23
複雑な感情を抱えていたのですね_
2050/11/14 23:23
それでも耐えられたのは さっきも言ったけど

現実世界ではすべてを受け流すことができたから

考える考えないを 自分で決めることができたからだ

でも――データ世界では違った_

2050/11/14 23:23
自分が持ってるすべての感情が 言語化・データ化されて

自分のまわりにまとわりついてくる

それは他人には見えないものだけど

自分自身には常に見えてしまうんだ

考える考えないにかかわらず どうしても視界に入ってしまう!_

2050/11/14 23:24
あ……_
2050/11/14 23:24
そのせいで僕は

ずっと考えないようにしてきた自分の本心を知ってしまった

マイヤーには幸せになってほしいと考える一方で

女性格である彼女にばかばかしい嫉妬をして

彼女がいなければ思いきって告白できたかもしれないのにって

自分勝手なことを考えていた自分を_

2050/11/14 23:25
データ化されたことによって性別が意味をなさなくなった今なら

僕にもチャンスがあるかもしれないって考えた浅ましさも……

そしてそれは マイヤーも同じだったんだ_

2050/11/14 23:25
マイヤーは最初から 自分の有利性に気づいていた……?_
2050/11/14 23:26
ハハ さすがカナイさん

そうなんだ……マイヤーは自分が女性格だから

僕と対等になれないことに悩んでたらしくて

カナイさんに対してどうアクションしていいか

わからなかったみたいなんだ_

2050/11/14 23:26
僕に"先"を譲りたいけど

カナイさんをとられるのは嫌だって

やっぱり複雑な思いのなかにいたんだよ

そのことに 嫌でも気づかされた

僕らはこのままじゃ狂っていくしかないって_

2050/11/14 23:27
それで"勝負"をすることにした?_
2050/11/14 23:27
どちらにとっても遠慮なく一歩前に踏み出すためには

それしかないと思ったんだ

だからMoom-inに

「どちらがカナイさんに告白するかを決めるため"外"に出たい」

って頼んだのが真相だよ

それがカナイさんの望んだ答えなのかはわからないけどね_

2050/11/14 23:28
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登場人物紹介

名前:カナイ

人間の身体を有した最後の人類。

月面にて、"真の終末"に向けた準備にひとり勤しんでいる。

人格をデータ化することに嫌悪感を持っており、

自分だけは人のまま死ぬつもり。

名前:アンドリュー

陽気な性格でよく喋る。

クソ真面目なカナイを面白がって、頻繁にちょっかいをかけに来る。

多分暇人。

名前:ミル

ストーカー気質で思いこみの激しい性格。

たびたび周囲に迷惑をかけているため、あまり相手にされない。

なにかあるとすぐカナイを頼る。

名前:マイヤー

失踪した人格データの持ち主。

温厚な性格で誰からも好かれていた。

特に悩んでいる様子などは見られなかったが、一体どこに……?

名前:ライナス

ミル曰く、マイヤーの"親友"。

恋人ではないと言い張っている。

謎に包まれた人物。

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