〇一・ 小説家: 美味賜 香子(うまし・かこ)の日常。
文字数 1,506文字
もちろん、うまくいかない原稿の時だってある。
締切直前まで良いネタが出なくて、ねじり鉢巻きでうんうんと苦吟するSF短編とか。
書いてる途中でトリックが破綻していることに(自分で)気がついてしまって大絶叫する、苦手の中編推理とか。
でもいま書いているのは大得意の定番の、超がつく人気長編エンタメ小説の…続きで。
おなじみの連中がいつものごとく、ばったばったと!
跳んだり蹴ったり斬りあったり、
殴り合ったり罵り合ったり…の、大騒ぎ。
「おいおい、頼むから作者想定外の突発エピだの乱入する新キャラだの、
(いつものことだが)勝手に増やしてくれるな…!!」
…と、抗議の作戦タイムを挟んで。
構成練り直しの全キャラ参加・脳内会議を展開するのも、また楽し…。
なんとか新刊一冊分の、編集者から文句は出ないで済む程度の…枚数オーバーで。
それなりに読者サマをはらはらさせる起承転結と、次巻も絶対に買わせてやるぜ!
てな、ケレンミたっぷりの『引き』を作って…
無事終了。
「用件:『折れなきゃ曲げろ!』新刊。第三稿・完了。」
の文字だけつけて、添付メールでさくさく送信。
「返信:『おれまげ』拝領しました。これから読みます~!…徹夜で ♡ 」
と、
担当編集から即返が来たのを確認して、やれやれとノーパソを閉じた。
予定時間を二時間もオーバーしてしまった。
二十三時じゃないか。
寝ないと、寝ないと…!
ざっくりシャワーだけ浴びて。
いいかげん痒くなりかけてた頭を丁寧に洗って。
薄い漫画を選んで。
暖かい、お気に入りの寝床で。
二十四時ちょっと前には。
楽しく寝落ちしました…。
*
…おっと、朝だ。
目覚まし時計は六時を指している。
うん。ちょっくら(予定通りに)寝過ごしたけど。
その分きちんと六時間睡眠はとれたね。
よしよし。
起き出して、カーテンを開けると…
快晴!
やれやれと、歓びながら、ざっくり洗顔と着替えだけ、済ませて。
ぬるめのカフェオレをがぶ飲みして、常備品のチョコクッキーを何枚か、かじって。
つっかけ引っかけて窓の外へ出ると、そこは、大好きな、
屋上庭園…♡
ハーブガーデンエリアは朝陽と朝露を浴びて元気に輝いているので…
今日は、世話は要らないね?
雑草エリアと化していた根菜コンテナの草引きと…
トマトの芽かきと、ナスの剪定も、しようか?
(時間あるかな?)
土いじりが楽しくてやっているだけなので、収穫の出来不出来は、あんまり気にしちゃいない。
無農薬で、堆肥も自家製で。(もっぱら飲んだ後のコーヒー豆の殻が主原料だ。)
『なんちゃって農園気分』を味わうためだけのものなので…
楽しい。
空は広いし、ペントハウスの柵ごしに、本物の自家農園と、自社牧場が一望できるし。
山は青いし、森は新緑の季節で、キノコや山菜や薪や木炭や、どんどん作れる季節だ。
…これに勝る、幸せはない…♡
深呼吸して、うーんと幸せを堪能しながら、のんびり農作業ごっこをしていると。
背後の室内から、ぴーぴーと、内線が呼ぶ音が響いた。
わざと無視していると…
数分して、わざわざ呼びに来る足音と声がする。
「先生~? …先生~?」
「カコでーす!」
「…カコさーん。…朝食できてますけど、どうしますか~?」
「いま行く~!」
わざわざ呼びに来てもらえるのが、嬉しい。
…ので。
わざと、内線を無視しているのは…
内緒~☆