第127話 進捗

文字数 2,135文字

 晴れ渡る空は日を浴びて白く輝く雲と対比され、その青さをより鮮やかにさせる。眼下に広がる新緑の草原に走る一筋の街道を見下ろすラトムは身体を燃え上がらせながら赤い線を描いた。

 手乗りの小鳥を思わせる体躯からは想像もできないほどの速度で飛翔を続けるラトム。向かう先には大きなすり鉢状のくぼ地が見えてきた。

 円形のくぼ地の縁には街道の一部がなぞり、その緩やかな街道の曲線には多くの馬車が街道から降りて駐車している。多くの大小のテントに加え、大きさも様々な荷物が積み上げられており、人の数も多かった。さらに運び込まれている木材は物見やぐらへと姿を変えている最中で、くぼ地の縁にいくつも建造されている。その様子を上空から見下ろすラトムは目的の人物を見つけると急降下を始めた。

 ある程度降下を行うと翼と尾羽を大きく広げ、速度を落としながら目的の位置へ向けて降下する。向かう先はひときわ高く建造されている物見やぐらの一つだった。

 ラトムはその物見やぐらの手すりにピタリと着地して声を上げる。

「コーボーチョー。ラーラ、ヨリ!デンゴン、アリ!デンゴン、アリ!」

 物見やぐらの上には数人の人影があり、かん高いラトムの声が響くと一斉に顔を向けた。

 するとその人影を押しやりマレイが姿を現す。ラトムを捉えて声を掛けた。

「内容を聞こうか」

 仏頂面に言い放つマレイの視線にラトムは気後れするように少し後ずさりながら懸命に声を上げる。

「アシタ、キシダン、トーチャク、ヨテイ!ゼンタイ、カイギ、ヒラキタイ。トノコト。バショ、ココ!ジカン、ユウコク!イジョウ!」

 ラトムの片言の伝言を発言し終えた。

 マレイは一瞬を外した視線をすぐにラトムへ戻す。

「明日の晩にここで会議だな。了解したと伝えてくれ」
「ワカッタ。ラーラヘ、ツタエル!」

 そうマレイへ返事をしてラトムは手すりからぱっと飛び立った。

 ある程度、矢倉から距離を取るとラトムは打ち上げ花火のような勢いで上空へ飛び上がっていく。弧を描くように徐々に方向を変えて向かう先はくぼ地の中心だった。

 くぼ地の中心には小さな水たまりのような池がある。その傍にはいくつかのテントが立っていた。

 ラトムはそのテントの付近にいる人影をいくつか見つける。近づいていく人影はだんだんとその詳細がはっきりとしてきた。それはユウト、モリードにデイタスの三人。そしてヴァルもいることがわかる。ラトムは放物線を描くように下降を始め速度をそれほど落とすことなくたたずむヴァルの頂点に勢いよく着地した。

 丁寧さに欠ける粗っぽい着地で巻き起こった風はヴァルを中心に草を同心円状に一度だけなぎ倒す。巻き起こった風にモリードとデイタスは気づき振り返るようにヴァルの方へ目をやった。

 ただユウトだけは大剣を構えたまま微動だにしない。一人、距離を取った先で集中を高めていた。風を巻き起こしたのがラトムであるとわかった二人も慌ててユウトの方へ視線を戻して注意深く観察を再開する。そしてユウトは動いた。

 背の低い体躯に似合わない大剣を振り下ろす。

 切っ先は曲線を描いて止まらない。ユウトは両手で握る柄を手の握りの強弱と柔らかな手首の動きで巧みに調節し、身体の重心を崩すことなく高速で振り回した。

 空を切る大剣の切っ先が揺らめく。

 するとユウトの前方の地面に引っかいたような鋭く深い筋が刻まれ始める。それは踊るように振り回す大剣の長さからは到底触れられない距離にまで及んでいた。

 そして袈裟懸けに振り切って流れるように最初の構えへ戻る。それと同時に最後に斜めで振り下ろした軌跡の角度をたどるように、背の延びていた草が吹き飛んだ。その範囲は一連の現象の中で最も広い。ユウトはその結果を見届け構えを解くと、ふぅと止めた息を吐いた。

 その様子を確認してモリードとデイタス、ヴァルはユウトの方へ歩みを進める。

「感触はどうっだった?」

 モリードは緊張した表情でユウトへ訪ねた。

 ユウトはモリードの方へ顔を向けて笑顔を作って答える。

「とても扱いやすくなったよ。出力の不安定さは特に改善されてる」

 答えを聞いてモリードの表情はぱあっと明るくなった。

「うんうん!狙った通りだ。伝達路に段階を付けたみたのがうまくいったみたいだね」

 満足げな表情を見せるモリードを横にユウトは大剣をデイタスに渡す。受け取ったデイタスは大剣をヴァルの目の前に差し出した。

「計測を頼むぞ!ヴァル」
「了解」

 デイタスに答えたヴァルは瞳のように見える一対の半透明な部位をパチリときらめかせる。

「全長、全幅ニ変化、ナシ。捻ジレ、ナシ。損傷、ナシ。機関部ニ微量ノ結露ヲ検知」

 淡々とヴァルは計測結果を報告した。

「あぁ!やっぱりまだ冷えすぎてしまうか・・・」

 報告を聞いてモリードは打って変わって大きく肩を落とす。その肩にユウトは手を置いて語り掛けた。

「そんなに落ち込むことはないよ。お披露目会の前の頃と比べればずっと改善されてるんだから」
「ユウトの扱い方も成長している。連続使用の間隔を調節すれば十分に実戦を耐えられるだろう!ハッハッハ」

 デイタスは豪快に笑いながらモリードの肩をバンバンと叩く。モリードは納得しきれないような笑顔であははと返した。
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