第238話 雌伏の刻
文字数 785文字
民俗学には〈マレビト〉と呼ばれる概念が存在します。マレビトは大抵は〈貴種流離譚〉なんだけど、流されて来た場所で〈一回的立法〉を行う。つまり、どこからか来たひとが、なにか行ってその結果、ルールを改変する。じゃあ、めでたしめでたしになるかというと、そうじゃないんですね。さらにその場所を追い出されるか、殺されるか、する。勇気がめっちゃある英雄譚などは、このかたちを取ることがとても多い。けど、その渦中で、一般のひとがそのマレビトの成したこと自体や、それで助かったとして、こころを共有出来るかというと出来ない。だからマレビトはまた追い出されるか殺されるかしてしまう。要するに、勇気があって実行する人間は、嫉妬や憎しみや羨望の対象であるばかりではなく、恐怖の対象でもある。「普通」であるということはサイレントだったり、その普通の共有出来ない価値観を持ったものを排撃したりになりがちです(普通という言葉は温厚なイメージがつきまとうけど、実際は暴力性が高い)。