第17話 始まりの年賀状
文字数 1,370文字
ここは
なのに、ASHはたった一人を名指ししていた。
しかも、無視できない一文を添えて――
「……超能力とは、異なった超能力をお持ちの方へ」
彼方は苛立ちから頭をかきむしり、肩ほどまである髪が数本、ひらひらと舞い落ちる。
この近辺にASHの支部はない。
そもそも、ASHは全国的には無名の宗教団体だ。
影響力だって、そう強くないはず。
彼方が知っていたのは、ひとえにあの一文の所為だ。
今までは半信半疑だったが、これではっきりした。
詐欺でもインチキでもなく、ASHは本当に『異能力者』を探している。
――ぐしゃり、と彼方は握り潰す。
それほどに、一枚の年賀状が与えた衝撃は大きかった。
強張った顔のまま携帯を取り出し、父親に電話をかける。
久しぶりだが、今日という日を省みれば当たり前のこと。
「もしもし、父さん?」
スリーコールで出た。
忙しい父にしては珍しいと、彼方の頬が緩む。
『彼方か……? 珍しいな』
相手も笑った。
お互いに新年の挨拶を交わすと、
「初詣は行ったか?」
父が訊いてきた。
「どうしたの、また?」
らしくない質問に彼方が問い返すと、
「今年は厄年だろう?」
またまた、らしくない台詞が父の口から飛び出してきた。
「そんなの、気にするタチじゃないでしょ」
そうやって世間話を打ち切り、彼方は相談を持ちかける。
「宗教法人ASHって知ってる? 年賀状が届いたんだけど」
「おまえ宛にか?」
電話越しでありながら、父が切り替えたのに彼方は気付いた。
こちらも、今更ながら外の寒さに震える。年賀状を回収してすぐに戻るつもりだったので、コートも着ていなかった。
「いや、違う。私じゃない。けど、誰かまで言う気はないから」
異能力者を欲しがっているのは父も同じなので、釘をさしておく。
「簡潔に言うと知っている。そして、あそこは本物だ」
伝わったのか、質問の答えだけが返ってきた。
「必要があれば、人をやるが?」
「悪いんだけど、この地域の人間に顔を知られたくない」
「なら、こちらから送る」
さすがに面食らう。
ここは距離にして、東京と千キロは離れているのだ。
「いや、まだいい。もし必要なら、また連絡する」
少しだけ考えるも、彼方は止めることにした。具体的な危険を感知するまでは、父にあのコの情報を与えたくなかった。
「……わかった」
父の承諾を聞き入れるなり、彼方は電話を切った。
こちらからかけておいて勝手だと思うも、心はまだ許せていないようだ。
液晶に表示された通話時間は四六秒。一年ぶりの会話としては短いが、改めようとは思えない。
父の仕事は守秘義務に守られている。
そのことをよく理解している彼方には、問い詰める真似はできやしない。
だから、今の自分たちの扱いがどうなっているか、彼方に知る術はなかった。