第1話(7)

エピソード文字数 3,369文字

「ぇへへー。さっきあたしは、自分たちの力は譲れるってお伝えしたでしょー?」
「ああ。お伝えしたね」
「だから、ねー。魔王が使う『魔王術(まおうじゅつ)』の究極奥義、『チェンジ・マナ』をプレゼントしたんだよっ」

 そうか。俺は、魔の王の力の中でも最強のヤツを頂いたのか。
 本日は奇想天外な贈り物が多くて、もう驚かなくなった。慣れって本に怖いですね。

「レミアちゃん。能力の詳細を求む」
「『チェンジ・マナ』は、存在しているモノならなんでも魔力に変えるコトができるんだよ。これを発動(はつどー)させると右手からビームさんが出て、魔法、魔術、剣などの『物』さんはもちろん、農民さん、勇者さん、魔王などの『者』さんでも魔力に変換して吸収(きゅーしゅー)できちゃうのー」

 ブッ
 前言撤回。驚いて鼻水が飛び出した。

「これはどんなものにでも効いちゃう、ほぼ無敵な術なのっ。お詫びの品、お気に召してくれたかなー?」
「強力過ぎて、逆に迷惑……。なぜこんなのをセレクトしたの?」
「にゅむ? もし今みたいに危険が迫った時は、この力で攻撃(こーげき)や悪い人を消せるからだよー」

 なんという、筋道の通ったお答え。しかし地球では余程のことがない限り、人消滅は過剰防衛になっちゃうのです。

「あたしには勇者(ゆーしゃ)さんの力があるから、これがなくても問題はないのっ。どーどーっ? 幸せな気分になってもらえたかなー?」
「いやぁ、気持ちは有難いけど、これ要りませんわ。使用する機会がないからね」

 この世界は物騒なのだが、これを用いるほど物騒ではないと思う。そっちは異世界からの侵略者とかがいるんだから、そちらが使いなされ。

「配慮、サンキューね。この異能はお返しします」
「にゅむ、それはムリだよー? 1つの能力(のーりょく)が移動できる回数(かいすー)は1回、1組の生き物さんがやり取りできる回数も1回と決まってるからっ」

 なんだよそれ。力って、コピーワンスの映像かよ。

「……ねーレミアちゃん。『チェンジ・マナ』を戻す方法って、他にはないの?」
「にゅむむ。1つだけあるよー」
「ホッ、よかった。それはどうやるのかな?」
「その人の、心臓(しんぞー)を食べるの。そしたら心臓の持ち主さんが持ってた力が食べた人に移るから、ゆーせー君から力はなくなるよー」
「はっはっは。そしたら命もなくなるけどねー」

 俺は大笑いして、バカ魔王にデコピンをお見舞いする。
 このバカチン。そういうのは外しとけよ。

「にゅむぅ……。うっかりミスだったよー」
「うっかりを遥かに超えとるわっ! ……もういい。これは持っておきます」

 あるだけなら害はないんだ。心の臓を食われるくらいなら、体内に宿しておく。

「うんっ、大事に使ってねー。全次元最強(ぜんじげんさいきょー)の人間さんっ」
「は? なに言ってんのアンタ?」

 俺、全次元最強の人間?

「『チェンジ・マナ』は、何でも魔力に変えられる――どんな存在でも消せちゃうから、最強っ。よってゆーせー君は人間さんの頂点(ちょーてん)で、この能力(のーりょく)を使った戦い方を覚えたらねっ、いずれは最強(さいきょー)の生物(せーぶつ)になれるんだよー」
「…………爺ちゃん、貴方は『なんでもいいから一番になれ』と僕に教えましたね? 貴方の孫は、ついに一番になりましたよ」

 人間部門強さの部、チャンピオン。やったトップだー! きゃははははははははっ。

「にゅむ? ゆーせー君、様子がヘンテコだよ?」
「ああうん。戸惑いまくって精神が狂ってた」

 俺は咳払いをして、メンタルを戻す。
 危ない危ない。強い力は人を狂わせるってのは、ある意味ホントだったんだな。

「……………………。さて、と。随分脱線したが、本題に戻りますか」
「あたしの契約を、どーするってお話だよね。ゆーせー君は、破棄しないよねっ?」
「いんや。熱望します」

 即答。コンマ1秒以下で返してやった。
「にゅむ!? どしてなのーっ!?
「アナタといたら、なんか大変なことになりそうな気がするんだよ。もう帰ってくださいな」

 この子がボディーガードになってくれたら、そりゃあもう平和。けれどそれ以上に、心労が身を苛む予感がするのだ。

「非日常は、映画や漫画で充分なの。体験したくはないんですよ」
「ぅぅ…………。どーしても、ダメぇ?」
「ダメぇ」

 魔王使いは、卒業。普通の男の子に戻ります。

「勝手に呼んで勝手に追い返すのは、悪いと感じてはいるよ? けど、現状維持はちょっとできないんだよね」
「…………ゆーせー君。あたし、すっごく役に立つよ?」

 ジェスチャーで、炊事洗濯掃除をやる真似をする。
 うわ。この魔王様、相当契約したがってるよ。

「あのね、きっとね。あたしのお仕事を見たら、気が変わって――にゅむむっ! そーだっ!」
「……どうした魔王」

 なんでかな。身震いがします。

「ゆーせー君っ。ゆーせー君は、あたしをよく知らないでしょー?」
「そ、そうだね」

 名前、性別、容姿、職業。このくらいしか存じ上げていない。

「だから、お試しっ。1日だけ雇って、○か×かを判断してほしーなっ」
「ぇ」
「そーすればきっと、維持したくなるよーっ。もしもバッテンだったらすぐ解除するから、そーしよーよっ」

 胸先でグッと手を握り、お目目をキラキラさせる。

「ねーねっ。これならいーでしょっ?」
「…………そうだね。それで手を打とう」

 1日後俺が断れば、綺麗さっぱり終われるんだ。こっちの我儘もあるんだし、これくらいは呑もう。

「やったぁっ! ずっといられるよーに、一生懸命(いっしょーけんめー)頑張るよーっ」

 魔王レミアちゃん、やる気満々。これはパーフェクトにやられて、断る理由がなくなりそうなパターンっぽい……。

「…………ぅぅむ。………………参ったな……」

 このままでは十中八九、理路整然と別れられない。どうする? どうする優星? どうやって関係を解消する?

「にゅむ? ゆーせー君?」

 にゅむ星人は、暫し無視。考えろ、考えるんだ。

「ねーね。黙ってどしたのー?」

 まず間違いなく、仕事の不満を主因にして不合格にはできない。これ以外で断るには、どうすりゃいい?

「ぁ、黙りっこ勝負? だったら負けないぞーっ」

 少しでも無理やり感があれば、スパッとサヨナラは不可能だ。相手を納得させてバイバイするには…………そうだな…………。

「30秒、経過(けーか)。いーバトルだね――にゅむっっ、あたし喋っちゃった!」

 んーむ。んーむ……。んーむ…………。んーむ………………そうだ!


 名案、降臨。


 こうやろう。そうしよう。

「レミア、ごめんごめん。少し考え事をしてたんだ」

 俺は片手を立てて詫びを入れ、そのあとふぁぁ~。ワザと、欠伸をする。

「そーいや、深夜0時をとっくに過ぎてるんだな。とりあえず寝て、朝からお試し開始にしようよ」
「そーだねっ。それがいーねっ」

 あちらは、素直に同調してくれた。よーしよしよし、順調だ。

「ゆーせー君、朝は何時に起きますかー? 起きる頃に、朝ご飯を作っておくよーっ」
「おお悪いね。じゃあ、8時に用意しておいてくださいませ」
「8時、だねっ。それなら、6時半くらいに起きれば完璧だー」

 こいつはラッキー。まさかそっちから、起床時間を教えてくれるとはな。

「うっし、全て決定だね。では、客間の和室――よりゆっくりできる、ベッドがある母さんの寝室にお連れ致します」

 和室の戸は、開ける時に結構音がするからな。念のために、スムーズに開く洋室にしておこう。

「にゅむっ? ママさんのお部屋、使ってもいーの?」
「いいんだよ。それでは参りましょう」

 俺は心の中で、ニンマリ。策士がしそうな狡猾な笑みを浮かべ、魔王様を2階にある部屋にご案内したのだった。


 ――今日は色々予想外の出来事があったが、ようやくこちらのペースになった――。
 この調子なら、確実にだ。明日、魔王使いをやめられる!
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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