第42話 農村画家にじゃが芋を拾ってもらう

文字数 2,079文字

シノプシス②

Take,1,

水溜りにアメンボひかり戯れている。
美学生と思しき画工たちが瓦斯灯の点る前から歩く瓦斯灯を探し目を光らせている。食パンが羨ましくて自身の腹の音に笑うと、ひとりの短髪の宣教師風の画工と目が合った。
「おや、君。俺の描くカリカチュアのモデルにならないかい?」
辺りを見渡すとカメラも録音機も稼働していて、照れながら僕は答える。
「ええ、勿論。いいですよ、少しお腹が空いていますが堪らえましょう」
左を指差して「向こうを向いてくれ」
こうでしょうか?買い物の紙袋を手前に抱える。
「そのまま動かないでくれ」
木炭がカンボスに削り取られる音が聞こえる。
俺のようなエキストラは自由に、思うまま動いて良いとあいつに言われてる。
そうなんですね、此処に来て映画に出演するとは普段に思いませんでしたが、
「旅行者か。訛りがある。そうか?」
「ええ。仏語検定は2級です」
「故郷はどちら」
「日本です」
「ジャポネ?ほう、そのまま動かないで」
半ば腹が減るのをもう諦めて呼吸を吐いて肩をゆっくり落とす。
彼の独り言なので誰も責任を持たない質問だったろう
「HIROSHIGE、HOKUSAI は誰を何を愛したんだろう」
そう、そうですね、そのぐらいは知っている。浮世絵でしょう、彼らは主に俳優と情景を描いて今も愛されている。
「ああ。」爪を噛んでいるのかデッサンをしているのか判別しない体勢で僕よりももっと遠くを見つめている。身勝手な雑踏ばかりキネマトグラフに遠慮せず
「あなたも俳優でしょう?有名ですか?失敬お名前は?」
フィンセント、ファン「ゴッホ」だ。
ははあ、役者は人生を繰り返し塗り替えす、次の人生そして次、「ゴッホ、」
「僕の肖像の出来栄えは如何でしょう」
動くな。
やはり暑くて汗ばかり稼いで、頭上に射していた大型照明が首にヒリヒリ灼き着いてくる。買い物帰りにお釣りがあるので「お金を払うからモデルを降りたい」そう言い出そうとしたところ
「君。俺の絵を買わないか?」
「僕はあなたの弟ではないですよ」ハハ
ワインを瓶の口で飲みながら顔の左側を撫でる。「冗談だ。売るなら画商に売る」
「左耳がまだあるんですね」
「左耳はまだある。」
このテーク「まだ続くんですかね?」街並みばかり自由に生けとしとして気まま動いているのに嫌気が差して僕の目蓋はもうぼったり重い。
こちらの苛つきに気づいてか指に摘んだ木炭で制された。縦と横で平行水準を測り、独り言を唱えながらカンボスに向かう。「アルルより東の方から来たんだな」
「そうです。僕の国では貴方の祈る方角のその意味に、此方ら西方の方角を追加算するんです。日が昇り日が沈む、元々充分なところ、オマケにです。役者さん」
ふと気の抜いた序で、抱えた紙袋から馬鈴薯がゴトゴト転がり落ちると、
「動くな。」彼は馬鈴薯を拾うと繁々と見つめ、にやり笑った後そうっと紙袋へそれらを戻す。
不自由な体勢のまま僕、このシーンの主人公を他周り確認しようとしたがすっかり諦めた。ただ通り過ぎて仕舞うだけのひと雲に僕が喩え雷鳴であろうと全く驚きやしないのである。もし仮にこの画家が許可をくれればそのまま通り過ぎ家路に何事なく就き従うだけだ。
無礼千万承知わかりきった質問で「もう仕上がりましたか?」辟易を濁し、
「ウイ」
「僕の役はつまらない役でしたね」
「ウイ」髭を掻く「実はカリカチュアなんか描いてない」そりゃそうだろう
カフェテラスのグラスに手が増え、照光湿度からこれからひと降りを経験測より勘繰る。
「テオに手紙を書いたんだ。ジャポネゼに逢ったと」
「此方は旅恥に気を損しません」
「左耳はまだある」
「フフ。お酒の飲み過ぎに気を付けて。テオって人に宜しく」
「病院は退屈だ。妻も子供も会いに来ない。右耳、まだある」

 突然の稲光残して雷鳴が形たち瞬間に保存する、気が追えば更に仕事が忙しくなり要らぬ給料稼ぐ活動屋たちを視界散々、地面に叩き撞き跳ね返される雨情が舗道に平ら、買い物帰りの釣銭稼いで、絵筆に紫とグリーン、馬鈴薯ころがり右すること左もせん。

 向こう通りの道端に小さく鮮やかな虹が見える、まぶたの少し上、まばたきすると君の機嫌を損ねそうで、腹が減っても下宿のメイトが開いてくれる愉しみなパーティーに遅れないよう、雨雲が過ぎて視界広く、眼鏡をシャツで拭き足もと地面探して、夕飯のじゃが芋探して、彼女のふくれっ面を浮かべては傘を忘れた言い訳をじっくり「原因」から組み立てる。

 それは、「鼻通りのすごく良い朝で、シャツがホカホカしてたし、布団を干してトーストがカリカリ、マーガリンが鼻に香るから珈琲一杯、沸かすのに、ラジオで天気が崩れるって知らなかったから、」僕は、うんうん「君の真似して鼻唄歩いて、ポケットに小銭があったから」それで「夕飯は一緒に食べる」、うん、聞いた「すごく晴れ渡った青い空で、」そう言った、「怒るでしょ?、怒ってるんでしょ?」、コホン睨んで頷く、「いいお天気だったのに」彼女は僕の顔を覗き込んでくる。
 赤い目と鼻をこすって答えるんだ、僕はやっぱりそう答える「そんな君が好きだから」。




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