真冬の林檎

文字数 381文字

ラジオの聞こえる長風呂が
冷え切った心を溶かすように
口の中で
真冬の林檎が溶けていった
それは雪にように柔らかく
べっこう飴のように甘かった

あなたの酒くさい
息の止まるような抱擁は
わたしの心臓を躍らせる
寝巻の下では汗が止まらない
心が湯の中に
浮かび続けている限り

深夜のテレビから流れる
焚き火の音に包まれながら
わたしはふと
厳しかった祖母を思い出した
思えば
わたしの規範は祖母譲りだろう
いつだって
女性は美しくありたいと思う

祖母が旅立って
父は酒を飲むようになり
母が亡くなって
酒とたばこを辞めた
亀の甲羅のような皺を顔に刻みながら
父はわたしの子に会うたびに
くしゃくしゃに丸められた
折り紙のように笑った

あなたのお酒のにおいは
まだわたしの心に残っている
長い二日酔いだ
今夜は冷えるだろうか
真冬の林檎が溶けるまで
ただゆっくりと湯に浮かんでいたい
あなたの口ずさむラジオが
月の裏から聞こえてくるまで
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