白靴下の毛玉
文字数 1,912文字
夜が開けた時、ユーグは自宅の花壇前で眠っていた。花壇の前は日当たりが良く、座ったまま眠るユーグの顔にも温かな光が当たっている。しかし、ユーグが日差しの明るさによって目覚める気配は無く、ゆっくりとした呼吸音だけが周囲に響いていた。
日が昇ってから数時間後、ユーグの姉が水やりをする為に花壇へ来た。彼女は、ユーグの存在に気付くなり苦笑し、その肩を小さく揺すって声を掛ける。
「ユーグ? 疲れたのは分かるけど、ここまで来たなら」
「ん。寝る」
ユーグは姉の話を遮って声を発し、目を擦りながら家の中に入った。一方、アンナはユーグの背中を無言で見つめ、目を細める。
家に入ったユーグは直ぐに寝室へ向かい、ベッドの上でうつ伏せに寝転んだ。ベッドに寝転んだユーグは目を瞑るなり寝息を立て、暫くは起きそうも無い。
何時間か経ってユーグが目を覚ますと、太陽は高く昇っていた。この為、気温も上がっており、ユーグの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
目覚めたユーグは上体を起こしてベッドに腰掛け、その体勢のまま欠伸をする。そして、立ち上がりながら背伸びをすると、寝室を出てリビングに向かって行った。 リビングには、アンナが用意したと思しきパンが有り、それには薄手の布が掛けられている。また、パンを入れた籠の横には、伝言入りのメモが置かれていた。
「スープ、鍋に、作って、あるから。温めて……か」
ユーグは、メモに書かれた文を声に出して読み、鍋が置かれている台所へ向かった。そして、コンロに置かれた鍋の前に立つと、その蓋を取って中を覗く。
「野菜、ばっかり」
そう呟くと、ユーグはスープを温めること無くリビングに戻った。そして、立ったままパンに掛けられた布を取ると、適当にパンを掴んで口に運んでいく。
ユーグは、掌と同じくらいの大きさのパンを二つ食べたところで手についた粉を払った。そして、籠に残ったパンに布を掛け直すと、目を瞑ってゆっくり首を回す。
食事を終えたユーグは家を出、空を見上げて目を細めた。そして、再び首を回すと、教会のある方向へ進み始める。
晴れた空から射す光は温かく、時折吹く風はユーグの体を優しく撫でた。心地良い環境の中をユーグが歩いていると、その耳には小さな鳴き声が聞こえてくる。その声は道端に咲く花々の中から聞こえ、ユーグは声のする方に目線を向けた。
ユーグが立ち止まって花々を眺めていると、その隙間からは黒い毛皮が覗く。それは緑の葉に隠れながら近くに居る人間の様子を窺っており、生物の存在に気付いたユーグは首を傾げた。
「猫?」
ユーグは、そう呟くとしゃがみ込み、黒い生物が何であるかを確かめようとした。すると、その生き物は掠れた声で威嚇をし、それを聞いた者は溜め息を吐く。
「虐めないよ?」
ユーグは、そう言うと半歩後退した。すると、黒い生物は警戒をしながら何歩か近付き、ユーグの顔を静かに見上げる。
ユーグを見上げる瞳は灰色がかった青で、その額には大きな切り傷が有った。また、黒い被毛に光沢は無く、栄養状態が良くないことが窺える。ユーグが右手を差し出すと、その生き物は前脚で目の前に出された手を引っ掻いた。この為、ユーグの手には傷が付くが、そこから出血することは無い。
爪を出している前肢はユーグの指と同じ位の太さで、その先だけが白かった。また、長めの尾は興奮の為か膨らみ、それを見たユーグは再度溜め息を吐く。
「ごめん。怖いよね」
ユーグは、そう言うと立ち上がり、小さな生物を驚かさないように歩き始めた。一方、黒毛の生物は草蔭からユーグの姿を見つめ、暫くしてから目線を下に向ける。
ユーグが教会の前に到着すると、その近くには黒髪の青年が居た。その青年は黒いボトムスを穿いており、藍色をしたシャツは着崩されていた。また、彼が履く靴も髪と同様に黒く、良く磨かれたそれは日の光で輝いている。
黒髪の青年は、ユーグの存在に気付くなり笑顔を浮かべ、軽やかな足取りで近付き始めた。
「報告? だったら、一緒に行く?」
青年は、そう言うと立ち止まり、ユーグの目を真っ直ぐに見つめる。一方、問い掛けられた者は小さく頷き、二人は揃って教会の中に入った。
教会の中は、窓越しに差し込む光によって明るく、それが綺麗に並ぶ木製の椅子を照らしていた。また、入り口の対面には十字架が掛けられている。それには、椅子よりも多くの光が当たっており、その近くには初老の神父の姿が在った。
青年は、神父の姿を見とめるなり歩く速度を上げ、ユーグはその早さに合わせて歩いた。程なくして二人が十字架の傍まで来た時、神父は笑顔を浮かべながら口を開く。
日が昇ってから数時間後、ユーグの姉が水やりをする為に花壇へ来た。彼女は、ユーグの存在に気付くなり苦笑し、その肩を小さく揺すって声を掛ける。
「ユーグ? 疲れたのは分かるけど、ここまで来たなら」
「ん。寝る」
ユーグは姉の話を遮って声を発し、目を擦りながら家の中に入った。一方、アンナはユーグの背中を無言で見つめ、目を細める。
家に入ったユーグは直ぐに寝室へ向かい、ベッドの上でうつ伏せに寝転んだ。ベッドに寝転んだユーグは目を瞑るなり寝息を立て、暫くは起きそうも無い。
何時間か経ってユーグが目を覚ますと、太陽は高く昇っていた。この為、気温も上がっており、ユーグの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
目覚めたユーグは上体を起こしてベッドに腰掛け、その体勢のまま欠伸をする。そして、立ち上がりながら背伸びをすると、寝室を出てリビングに向かって行った。 リビングには、アンナが用意したと思しきパンが有り、それには薄手の布が掛けられている。また、パンを入れた籠の横には、伝言入りのメモが置かれていた。
「スープ、鍋に、作って、あるから。温めて……か」
ユーグは、メモに書かれた文を声に出して読み、鍋が置かれている台所へ向かった。そして、コンロに置かれた鍋の前に立つと、その蓋を取って中を覗く。
「野菜、ばっかり」
そう呟くと、ユーグはスープを温めること無くリビングに戻った。そして、立ったままパンに掛けられた布を取ると、適当にパンを掴んで口に運んでいく。
ユーグは、掌と同じくらいの大きさのパンを二つ食べたところで手についた粉を払った。そして、籠に残ったパンに布を掛け直すと、目を瞑ってゆっくり首を回す。
食事を終えたユーグは家を出、空を見上げて目を細めた。そして、再び首を回すと、教会のある方向へ進み始める。
晴れた空から射す光は温かく、時折吹く風はユーグの体を優しく撫でた。心地良い環境の中をユーグが歩いていると、その耳には小さな鳴き声が聞こえてくる。その声は道端に咲く花々の中から聞こえ、ユーグは声のする方に目線を向けた。
ユーグが立ち止まって花々を眺めていると、その隙間からは黒い毛皮が覗く。それは緑の葉に隠れながら近くに居る人間の様子を窺っており、生物の存在に気付いたユーグは首を傾げた。
「猫?」
ユーグは、そう呟くとしゃがみ込み、黒い生物が何であるかを確かめようとした。すると、その生き物は掠れた声で威嚇をし、それを聞いた者は溜め息を吐く。
「虐めないよ?」
ユーグは、そう言うと半歩後退した。すると、黒い生物は警戒をしながら何歩か近付き、ユーグの顔を静かに見上げる。
ユーグを見上げる瞳は灰色がかった青で、その額には大きな切り傷が有った。また、黒い被毛に光沢は無く、栄養状態が良くないことが窺える。ユーグが右手を差し出すと、その生き物は前脚で目の前に出された手を引っ掻いた。この為、ユーグの手には傷が付くが、そこから出血することは無い。
爪を出している前肢はユーグの指と同じ位の太さで、その先だけが白かった。また、長めの尾は興奮の為か膨らみ、それを見たユーグは再度溜め息を吐く。
「ごめん。怖いよね」
ユーグは、そう言うと立ち上がり、小さな生物を驚かさないように歩き始めた。一方、黒毛の生物は草蔭からユーグの姿を見つめ、暫くしてから目線を下に向ける。
ユーグが教会の前に到着すると、その近くには黒髪の青年が居た。その青年は黒いボトムスを穿いており、藍色をしたシャツは着崩されていた。また、彼が履く靴も髪と同様に黒く、良く磨かれたそれは日の光で輝いている。
黒髪の青年は、ユーグの存在に気付くなり笑顔を浮かべ、軽やかな足取りで近付き始めた。
「報告? だったら、一緒に行く?」
青年は、そう言うと立ち止まり、ユーグの目を真っ直ぐに見つめる。一方、問い掛けられた者は小さく頷き、二人は揃って教会の中に入った。
教会の中は、窓越しに差し込む光によって明るく、それが綺麗に並ぶ木製の椅子を照らしていた。また、入り口の対面には十字架が掛けられている。それには、椅子よりも多くの光が当たっており、その近くには初老の神父の姿が在った。
青年は、神父の姿を見とめるなり歩く速度を上げ、ユーグはその早さに合わせて歩いた。程なくして二人が十字架の傍まで来た時、神父は笑顔を浮かべながら口を開く。