辺境の地
文字数 1,265文字
見知らぬ浜辺に打ち上げられた天の子どもは、うつろな意識の中、砂を踏みしめる足音を聞いていました。
その足音は、まっすぐ近づいてきたかと思うと、天のこどもの回りをうろうろし、耳元ででぴたっと止まりました。
足音は沈黙し、天の子どもをじーっとながめます。
次の瞬間、天の子どもは体を持ち上げられ、さきほどよりも力強く砂を踏みしめる足音を聞いていました。
やがて足音は意識から遠ざかっていきました。
―ギャッ、ギャッ
―ピチュチュチュ
―キーキーキー
耳慣れない獣の声に、天の子どもは目を覚まします。
天の子どもは体を起こそうとしましたが、全身から力が抜けて、まるで自分の体ではないように思えました。
しかたなく、起きあがることはあきらめ、何とか頭を横に向けると、それぞれのケージに入れられた動物たちが目に入りました。
鳥、サル、リス、それにぐったりと横たわる小鹿、みんなケガを負っているようです。
「め、さめたか?」
天の子どもが顔を向けた方の反対側から声がしました。
頭をゆっくりと戻すと、ぼさぼさの髪にもじゃもじゃのヒゲを生やした男と目が合いました。
男は、きらきらと輝くつぶらな目で、天の子どもの顔をのぞきこんでいます。
「おれ、ぼっちゃん、つれてくる!」
男は大きな体を弾ませながら、どしんどしんと床を鳴らし、部屋から出ていきます。
その足音で、動物たちはまたけたたましく鳴き声を上げました。
「やあ、具合はどう?」
大男に付き従われて部屋に入ってきたのは、メガネをかけた神経質そうな青年でした。
青年は天の子どもの額に手を当てます。
「熱は下がったようだね」
「君が、ぼくを、助けてくれたの?」
天の子どもは、しゃべるのもやっとに尋ねました。
「こいつが連れてきたんだよ」
青年は、大男の方をちらっと見ます。
「おまえ、びしょぬれ、たおれてた。ぼっちゃん、みれば、おまえ、たすかる」
大男は、ぶおーっと笑い、うれしそうに肩をゆらします。
「もともとこいつもぼくが助けたんだ。猟師に撃たれて死にかけていたところをね。それからというもの、こいつはケガした動物をみつけては、ぼくのところに連れてくるんだ」
「……ここは一体どこなの?」
「名もない辺境の地さ。目の前には海。背後には鬱蒼たる木々。気まぐれに猟師がうろつくだけの何もないところだよ」
「君はここに一人で住んでいるの?」
天の子どもが尋ねると、青年は皮肉な笑みを浮かべて言いました。
「厄介払いされたんだよ。父親に買い与えられた別荘で、優雅な一人住まいさ。十日に一度、船で食料や身の回りの必要品なんかが届く。医者も来るよ。入れ替わり立ち替わり。ぼくが生きているかどうかを確認するためだけにね」
天の子どもは、何だか嫌な気分になりました。
その様子を見てとると、青年はふっと笑い、声をやわらげます。
「とにかくゆっくりおやすみよ。足にケガをしている。縫合手術は無事にすんだが、体中打ち身だらけだ。熱も出たし体力も落ちている。今は体をなおすことだけを考えるんだ」
そう言って、青年は部屋を出ていきました。
その足音は、まっすぐ近づいてきたかと思うと、天のこどもの回りをうろうろし、耳元ででぴたっと止まりました。
足音は沈黙し、天の子どもをじーっとながめます。
次の瞬間、天の子どもは体を持ち上げられ、さきほどよりも力強く砂を踏みしめる足音を聞いていました。
やがて足音は意識から遠ざかっていきました。
―ギャッ、ギャッ
―ピチュチュチュ
―キーキーキー
耳慣れない獣の声に、天の子どもは目を覚まします。
天の子どもは体を起こそうとしましたが、全身から力が抜けて、まるで自分の体ではないように思えました。
しかたなく、起きあがることはあきらめ、何とか頭を横に向けると、それぞれのケージに入れられた動物たちが目に入りました。
鳥、サル、リス、それにぐったりと横たわる小鹿、みんなケガを負っているようです。
「め、さめたか?」
天の子どもが顔を向けた方の反対側から声がしました。
頭をゆっくりと戻すと、ぼさぼさの髪にもじゃもじゃのヒゲを生やした男と目が合いました。
男は、きらきらと輝くつぶらな目で、天の子どもの顔をのぞきこんでいます。
「おれ、ぼっちゃん、つれてくる!」
男は大きな体を弾ませながら、どしんどしんと床を鳴らし、部屋から出ていきます。
その足音で、動物たちはまたけたたましく鳴き声を上げました。
「やあ、具合はどう?」
大男に付き従われて部屋に入ってきたのは、メガネをかけた神経質そうな青年でした。
青年は天の子どもの額に手を当てます。
「熱は下がったようだね」
「君が、ぼくを、助けてくれたの?」
天の子どもは、しゃべるのもやっとに尋ねました。
「こいつが連れてきたんだよ」
青年は、大男の方をちらっと見ます。
「おまえ、びしょぬれ、たおれてた。ぼっちゃん、みれば、おまえ、たすかる」
大男は、ぶおーっと笑い、うれしそうに肩をゆらします。
「もともとこいつもぼくが助けたんだ。猟師に撃たれて死にかけていたところをね。それからというもの、こいつはケガした動物をみつけては、ぼくのところに連れてくるんだ」
「……ここは一体どこなの?」
「名もない辺境の地さ。目の前には海。背後には鬱蒼たる木々。気まぐれに猟師がうろつくだけの何もないところだよ」
「君はここに一人で住んでいるの?」
天の子どもが尋ねると、青年は皮肉な笑みを浮かべて言いました。
「厄介払いされたんだよ。父親に買い与えられた別荘で、優雅な一人住まいさ。十日に一度、船で食料や身の回りの必要品なんかが届く。医者も来るよ。入れ替わり立ち替わり。ぼくが生きているかどうかを確認するためだけにね」
天の子どもは、何だか嫌な気分になりました。
その様子を見てとると、青年はふっと笑い、声をやわらげます。
「とにかくゆっくりおやすみよ。足にケガをしている。縫合手術は無事にすんだが、体中打ち身だらけだ。熱も出たし体力も落ちている。今は体をなおすことだけを考えるんだ」
そう言って、青年は部屋を出ていきました。