0121&0122

文字数 4,043文字


〈!---0121日----〉
17:00 起床
20:00 勤務開始
01:15 食事 塩ラーメン
02:15 勤務再開
06:00 勤務終了
07:30 帰宅
09:30 食事 豚汁1杯
10:30 就寝



〈!---0122日----〉
13:30 起床
14:00 食事 豚汁、白米、シューマイ6個
15:00 出発
16:00 講義開始
21:00 講義終了
22:25 帰宅
22:30 日記執筆開始



 昨日は日記を書かなかった。夜勤終わり後に時間はあったのだが、今日学校にいかなければならなかったため、睡眠時間を確保したかったのだ。そのしわ寄せとして、今日2つ分を書かなければならなくなった。まったく、ままならないものである。さて、それでは昨日の21日分からだ。



 工場でのライン作業をした。小平にある、誰でも知っているパン工場だ。頻繁にお世話になっており、今月頭にも仕事をした。

「いつもなら17時から05時までなのに、21日は謎の20時から開始。なんでかな?」、そんなことを考えながら小平霊園を歩いていく。

 19時過ぎの小平霊園内は、行く道をスマホのライトで照らさないと足元も見えない。久しぶりに宮城県の寒村で生活していたときを思い出した。

 20時ぴったりにアルバイトセンターに着く。そこには20人近くの人間が並んでいた。全員の共通目的はひとつ、当日払いの日給だ。会話を禁止されているわけでもないのに、新型感染症蔓延前から誰しもが無言だ。それでいいのだ。この日だけでお別れの人が大半だし、ここで仲良くなっても後日につながらない。この単発派遣仕事には人間性は全く必要がない。むしろ人間味を出された方がめんどくさい。この一種の諦観や疲労感をにじませた殺伐さに慣れてしまった。

 やがて人事がやってきて、パソコンを立ち上げる。そして、マニュアル化された口上と共に、アルバイトが必要な現場に人員を差配していく。それは遅々としていて、なかなか進んでいかない。

 「体温正常です」

 赤外線型の体温計が、ロボットボイスで何度も繰り返す。そのアナウンスが僕らに「ここで人間性を捨てよ」と迫っているようだった。まるで、まるでダンテの地獄門。ここから先、心を持ったまま挑めばと地獄だと告知しているみたいなもんだ。

 僕の配属先は、食パンを使った2次加工ライン。初めていく現場だった。「現場に慣れたアルバイトが連れてってくれる」と人事に言われ、食堂で待つように告げられる。その言葉に従い、食堂で菓子パンを食べ、煙草を吸って、ストレッチをして時間をつぶす。17:45分になったとき、小太りの40代の女性が声をかけてきた。彼女が現場まで案内してくれるという。僕は彼女に連れられ、現場へと向かった。

「今日の現場ってどんな感じなんですか?」
「けっこう忙しいです。ただ、いつもなら4時に終わって、そっからは5時まで掃除したりダラダラする感じです」
「今日の現場って、結構入ってます?」
「月に10回入れるとしたら、8回はそうですね」
「そんなに入ってるんですか?」
「ここがメインですね」
「今日ってなんで8時~5時なんですかね?」
「メンテナンス? なんか朝、稼働してなかったらしいですよ。それで夜勤の時間がズレたみたいです」
「あーなるほど」

 彼女の説明で、今回の作業が多忙になることを察した。

 21時、現場に入る。担当は、食パンに塗られたケチャップの上にソーセージを乗せる仕事。これが結構辛いのだ。なにせ、ソーセージが凍っているのだ。厚手のゴム手袋をしていても、その冷気は確実に僕の手をかじかませていく。さらに真っすぐ乗せないと、烈火のごとく叱られる。幸いにも僕は一日を通じて怒られることはなかったのだが、前任者が激怒されているのを目撃していた。良くあることだから、真っすぐに乗せれば良いだけである。コツを知っている僕は、冷たさ以外に辛さを感じなかった。しかし、僕をイラつかせることはやはりあった。

 僕から前後の工程を、60代に届きそうな壮年の女性が独りでやっていた。直雇用のバイトか社員か分からないが、スライスする食パンとパンに塗る原料の補充が彼女の仕事だ。僕は彼女にイラついていた。溶けたソーセージの上に、僕の手をはねのけるように凍ったソーセージを無理やり補充してきて、ソーセージを取るリズムを崩してくるのだ。だから常に氷を持てというのかと、腹が立っていた。

 ロボットと化していた僕は「こいつ馬鹿なんだな」と、彼女がソーセージを入れやすいように、僕の手が当たらないように、一方から偏って取るように工夫した。補充に来た彼女は、山となったソーセージをわざわざ崩して、全面に渡って均等に凍ったソーセージをばらまいた。そこで正直、キレていた。そんな中、彼女はこう告げた。

「原料が入れずらいから、ここから動かさないで」

 意味が分からなかった。ソーセージは縦横100㎝、高さ30㎝ほどの金属箱に入っている。それをキャスター付きの可動式の台に置いて、移動しやすいようになっている。彼女が言っているのは、台ではなく、箱を動かすなと言っているのだ。

 彼女はコンベアから100㎝ほど上にある原料入れに補充するのだが、足場台を使っているので、箱が数センチ動いたとしても影響がないはずだ。いや、箱の位置は原料入れから少し離れた僕側に寄せていたので、彼女が言う言が正しければ、箱が中央にあるよりやりやすいはずだ。台を動かすななら分かるが、箱を動かすなが分からない。だから僕は「なんで? 台なら分かるけど、箱は関係なくない?」と言い返して箱を僕の方に寄せた。

 彼女は何か言って走り去った。そのときにゴミ箱を蹴っ飛ばしたり、ものを乱暴に置いたりして、自分が腹が立っていることをアピールしてきた。僕は「マジで馬鹿なんだな」と思いながら、ソーセージを乗せていく。それ以降は、彼女とのバトルが始まった。彼女は僕の横を通る度に、箱を中央に戻す。それを僕は自分側に寄せる。それを1時間繰り返した。最終的に彼女が「箱を動かすな!」と怒鳴ってきたところで、僕はそれに従い、箱を動かすことを辞めた。彼女が去った後に、台を思いっきり原料入れの真下に移動した。彼女の要望を飲んだ上で、彼女がやり辛いようにしてやったのだ。

 彼女は箱が動いていないことに満足したのか、僕に勝ったと思ったのか、その後は満足げに何も言わなかった。スゴイ態勢で補充するはめになったことは気が付かなかったようだった。その結果として、補充のタイミングが狂ってしまってラインを止めていた。それを見た僕は、本当に馬鹿なんだなと呆れてしまい、そんな馬鹿を相手に何をムキになってしまったのかと疲れてしまった。

そこからしばらくしてラインが止まった。彼女がやってきて、僕に何かを言ってきたが、理解不能だった。

「てめぇ何言ってんのかわかんねぇよ。声張れよ! さっきみてぇによ!」
「もう、終わり!」
「だから何だよ?」
「えっと、終わりなんです」
「だから、どうしろってんだよ。指示しろや!」
「あっち行って聞いてください」
「あっちって誰だよ!?
「あの、名札が黄色い人」
「ちゃんと言えやボケ!」

 言い訳にはなるが、僕は普段から口が悪い。それでも初対面の人には敬語を使うし、ある程度本性を着飾る。 有り体に言えば、いい歳してるから本音と建前くらいは使い分けられるのだ。にも拘わらず感情的になって、メッチャ普段と同じ口調で話してしまった。それくらいムカついていたのだ。プリプリしながら、完成品を詰めている名札が黄色い人に次の指示を仰ぐ。休憩1時間、飯を食ってこいと言われた。時計を見たら。すでに1:15分を超えていた。実働時間の半分以上を、ババアと小競り合いしつつ、食パンにソーセージを乗せていたようだ。

 休憩明けの2:15から06:00までは、食パンに耳が付いていないか見張ったり、完成品を詰める作業をしていた。特に印象深いこともなかったので、多分脳死させながら体だけ動かしていたのだろう。06:00になって勤務が終わり、日当をもらって、工場を去る。そこそこ満員の西武新宿線に揺られながら「余りものの食材を使って豚汁を作ろう」と思いながら、新井薬師から帰路に就く。

 豚汁に使う食材を買い足して家に戻り、洗濯機を回している最中に、パパっと仕込んで食事をして洗濯物を干し、シャワーを浴びて10時に就寝。



 13:30に起床。体がだるくて、30分くらい動けず。14時になり食事を摂って、通学準備をする。15時になって出発し、15:40分に目黒駅に着く。16時から講義開始だ。講義と言っても座学はなく、席替えをした後に、グループでの卒業制作をするためにチームディスカッションで一日終わった。

 メンバーは僕を含めて、60代男性と50代女性、40代男性の4人だ。どんなサイトを作るかを決め、それを実現するためにディレクター、アートディレクター、コーディングチーフ、補助と、それぞれが担当を持つ。僕は全般の手伝いと相談に乗る補助を担うことになった。

 正直だるい。グループ制作の〆切りは3月4日。卒業日の5日前だ。それだけではなく、個人でも1本作らなければならない。それと並行しながら生活費を稼ぎ、ポートフォリオを作り、就職活動をしなくてはならない。できるのかと言えばやるしかない。今後は、2時間も日記を書いている暇なんてないのである。 

 2日間の学びとして、バカ相手には強気でいかなければならない。そして、日記は毎日書かないと大変だということだ。前も同じように書かないで大変だと書いたが、繰り返してしまうのは、やはり僕もバカなのだろう。みんなバカだから折り合いをつけて生きなきゃ疲れるだけである。問題は、相手にストレスを感じても感じさせてもいけないことだろう。ストレスをストレスだと告げる勇気が必要なんだな。頑張んないとな。

 とりあえず今日はここまで。おやすみ、世界。
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