第6話 性別

文字数 962文字

 福が来て、1ヵ月ほどが経った頃、ちょっとした騒動が起こった。
 お座りした福が片足を上げ、股のほうを舐めているのを見ていた私は、その股間に、2つの、つまり男のシンボルである、玉の形をしたものがあるのを見たのだ。
 横にいた家人にも、その異形のものの存在を知らせた。
「これは何だろう?」
「福、メスなのよね?」
 家人が、いやがる福を抱え上げ、私がよく確かめようとした。そのお腹には、6コぐらいおっぱいがあった。
「おっぱいがあるんだから、やっぱりメスだよ」
「でも哺乳類だから、オスにもあるんじゃない?」
「うーん。でもメスなんだから…」

 私は週が明けるのを待てず、福をくれた上司に電話し、現状の報告をした。上司は、「えっ、タマタマが出て来た!? 」と驚き、しかし産まれた時に診てもらった獣医からは「確かにメスだと言われた」という。でも心配だから、と、翌日見に来てくれることになる。

 上司夫妻がやって来ると、福はこの世の終わりとばかりに逃げ回った。
 綺麗な奥さんが四つん這いになって、ダイニングの狭いテーブルの下に潜り込み、ラックの下に隠れた福をつかまえた。そして器用にコロリと福をひっくり返し、奥さんが股間を確認するのを、上司と私と家人は固唾を飲んで見守った。

「あ、ある…」そう言って奥さんは、綺麗な顔を床に突っ伏した。「えっ、ある?」上司が言った。そしてすかさず、「相田君、ごめん。これ、獣医が間違えたんだな」と言った。その額からは、汗がたれていた。
「小さい時は間違えることもあるらしいけど…」奥さんが座り込んだまま、放心したように言った。
「ほんと、ごめん。どうする、相田君。返してもらってもいいから」
 
 私は動揺した。(これは笑い話だ…)不意にそう感じて、笑って済ませたい衝動に駆られた。だが、上司夫妻はその責任を重く感じているようだった。福は、ラックの下からじっと我々の様子をうかがっていた。
「返すなんて出来ません…」私は、やっと言った。
「ほんとにいいの?…ほんと、ごめん」上司は顔を紅潮させていた。
「そんな、ほんとに気にしないで下さい」私はムキになって言った。とても仲良くなれてるし、福でよかったと思ってます」
 嘘偽りのない本心だったが、福がメスからオスになった現実が突然すぎて、この現実をどう受け止めていいか分からなかった。
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