第50話 兄妹

文字数 2,154文字

 橋を眺めるユウトの感覚に人が近づいてくるのを感じる。どこか既視感を覚えその方向に視線を移すとユウトはやはりと思ったがそれはディゼルだった。前日と違うのはディゼルともう一人を連れていること。

 女性であることはすぐわかる。身長が少しユウトより高いくらいでレナよりも若く見えた。体を覆う面積は少ないもののディゼルやクロノワと同じ意匠の鎧を身に着けている。

 ツインテールの髪色とその顔つきにユウトにはどこか見覚えがあった。しかし思い出せない。
 ある程度近づくとディゼルは気さくに声を掛けてくる。

「やあ二人とも。今日は夜間でも城壁にいてもらって構わないよ。懸念事項は解決されたからね」
「そう。なら昨日しっかり見れなかった分、いさせてもらおうかな。そちらは?」

 レナがディゼルの挨拶に返す。その様子にディゼルの半歩斜め後ろで待機している女性がどこかむっとした表情になったようにユウトには見えた。

「うん、紹介するよ。彼女はカーレン。調査騎士団所属の魔導士だ。明朝の作戦で陽動を一手に引き受けて樽を飛ばしていたのはカーレンだ」

 紹介されたカーレンは一歩前に出る。

「カーレン・マクギストです。先の魔鳥戦での魔術槍、魔術剣の攻撃はお見事でした!」

 非常に硬い表情と声色にはほんのり敵意がユウトには見える。カーレンの話し方にディゼルが苦笑していた。

「あれを一人で?それはすごいな。てっきり複数人でやってたものかと思ってた」

 レナは素直に感嘆の声をあげる。自身の役目に集中していたユウトには何のことかよくわからずピンとこない。それよりも女性が二人も近くにいることに危機感を感じ始めていた。

 カーレンはレナの言葉に目を見開くとむずがゆそうな表情を見せる。

「ど、どうもありがとうございます・・・」

 ユウトが見たところどうやら笑顔を必死にこらえているようだった。なんとも感情表現が豊かなかわいらしい女の子だなとユウトは思う。

「ディゼル達はどうしてここに?」

 ユウトはディゼルへ訪ねる。魔鳥の対応が済んだのならディゼル達もすでに休んでいてもいいはずだったが二人は鎧を着こみディゼルは盾と剣、カーレンは杖のようなものを背負っていた。まだ何かあるのかとユウトは勘ぐる。

「砦の駐在兵をできるだけ休ませるために調査騎士団が今夜は城壁の警護を担当するのさ。この砦の責任者の方はクロノワ隊長と親交があるとはいえ、かなり無理を聞いてもらったらしいからね。その恩返しみたいなものかな」
「そうなのか。騎士団といってたからもっと偉いものだと思っていたけど、結構大変なんだな」

 ユウトは素直に感心する。調査騎士団の威張らない態度には不自然さすらあった。

「その通りですよ!戦闘が終わったばかりっていうのにディゼル副隊長まで駆り出されて!どうして中央はクロノワ隊長や調査騎士団を評価しないんですか!騎士団の中では一番実績をあげてるのに!」

 カーレンは我慢ならないといった風に不満を爆発させディゼルに向いて食って掛かった。

「新設されたばかりの騎士団なんてこんなものだよ。気にしてもしょうがない。
 あとカーレンは魔力をずっと多く消費しているんだから僕に付き合わず今夜は休んでいてもいいんだぞ。無理してないか?」

 ディゼルの返答にカーレンはぐぬぬと何も言い返せない。何とも歯がゆい表情を浮かべている。

 ディゼル達と話をしている間に新たな人影が二人、階段から上がってくるのをユウトは察知して振り向く。階段を上がってきたのは麻袋を携えたガラルドとヨーレンだった。

 ユウトはヨーレンを見てはっと気づく。カーレンの髪色、顔つきはヨーレンに似ていた。名前すら似通っていることから親類であることがユウトには想像がつく。

「おや、レナもいるね。丁度良かった。河岸を調査して見つけた物の報告を・・・」

 ヨーレンがそこまで言ってユウトとレナの奥にいる人物に視線をやって動きを止めた。ユウトは後ろから迫る足音に気づいて振り返ろうとしたところを大股で力強く踏みしめるカーレンが通り過ぎていく。

「ヨー兄さん!」

 眼前にまでカーレンに迫られ呼ばれたヨーレンはびくりと肩を震わせる。カーレンよりずっと身長があるはずのヨーレンの方がユウトには小さく見えた。

「やぁカー。久しいね。元気にし・・・元気そうで何よりだよ」

 ヨーレンはカーレンの怒りか勢いかを抑えようと両手のひら胸元にあげて見せつつぼそぼそつぶやくように話す。ユウトは今まで見たことのないヨーレンの様子が少しおかしくて笑ってしまいそうになった。

 そんなヨーレンをのけぞらさんばかりに迫るカーレンが何か言いだしそうにしたときガラルドが二人の間に割って入る。

「話は後にしてくれ」

 カーレンは冷や水を掛けられたように我に返ると一言、逃げないでくださいね、とヨーレンに釘を刺してディゼルの元に戻ってく。もう一度ユウトの前を通り過ぎるカーレンの顔を今度は見ることができたユウトには赤面してうつむき恥ずかしさをこらえているように見えた。

「我々も同席してかまいませんか?ガラルド卿」

 真剣な口調でディゼルが尋ねる。

「構わん」

 ガラルドは短く答えた。

 ヨーレン、カーレンのやり取りを黙ってみていたレナは首に巻き付いたセブルをキュッと握りため息を一つついていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み